「動物虐待って?」 人と動物の笑顔のために、みなさんが出来ること
動物たちを虐待から守るために、2022年に立ち上がったNPO法人どうぶつ弁護団(Animal Defense Team)。当連載では、どうぶつ弁護団に所属する弁護士・獣医師メンバーからの便りを紹介します。
動物たちへの恩返し
私は行政獣医師として、この「どうぶつ弁護団」に参加させていただいています。
そもそもなぜ獣医師である私がどうぶつ弁護団に興味を持ったのかと言うと、少々おおげさですが、動物たちの命を守ることが、私の宿命だと思っているからです。
私の母が幼少の頃、当時飼っていた犬が身代わりになって母を助けたそうで、その後、戌年に生まれた私は、きっとその犬の生まれ変わりなのではないか、と割と本気で思っています。獣医師を目指したのも自然な流れで、働きだしてからも、動物たちのために恩返しとは何だろう、と考えてきました。
ただ、動物愛護に関する業務をする上で、獣医学的知識も当然役には立つのですが、それと同じくらいに、法律的な知識が必要になる場面が数多くあります。ケースごとに判断に迷うことも多く、個人的にももっと法律について勉強したいと考えていた最中、縁あって細川敦史弁護士らどうぶつ弁護団のメンバーと出会い、お誘いを受け、現在に至ります。
人と動物たちがともに幸せに暮らせるまちを目指して
私たち動物愛護行政職員の業務の目的は、究極的には、動物が好きな人も、そうではない人も、そして動物たちも、みんなが笑顔で、ともに幸せに暮らせるまちをつくっていくことなのではないかと思います。
ただ、そうは言っても簡単にはいかないもので、犬の鳴き声が近隣トラブルに発展したり、猫にフンをされて困っている人がいたり……動物に関するいろいろな相談が、どこの自治体にも日々寄せられています。中には、飼い犬を散歩中にけっている、水皿が空っぽで何日もそのままになっている、なんてものもあります。動物愛護行政職員は、日々、このような相談への対応に追われています。
動物虐待を見かけたら
みなさんは普段、飼われている動物がひどい目にあわされているところを見かけたことはありますか? それが動物愛護管理法上の「動物虐待」なのであれば、それはれっきとした犯罪行為です。すぐに、お近くの警察か、発見場所の地方自治体の窓口に相談しましょう。
動物虐待に関する相談窓口の一覧は、下記の環境省のホームページにも掲載されています。もちろん、どうぶつ弁護団ホームページの情報提供フォームから動物虐待の情報を送っていただくこともできます。
●地方自治体動物虐待等通報窓口一覧(環境省ホームページ)
動物虐待とは
では、動物愛護管理法上の「動物虐待」とは、どんな行為を指すのでしょうか。まず、その対象となる動物は、法律上「愛護動物」に限られています。
「愛護動物」は、以下のように定義されます。
1 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
2 その他、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
これは動物愛護管理法の条文そのままなのですが、このままだと少し分かりにくいですよね。簡単に言うと、1の動物については、人が飼っていようといまいと関係なく、全て「愛護動物」となります。なので、飼い猫も野良猫も「愛護動物」です。
一方、2についてですが、1に挙げられていない動物でも、人が飼っていれば、哺乳類、鳥類、爬虫類(はちゅうるい)に属する動物は「愛護動物」となるということです。例えば、上の写真のシロさんのような、人に飼われているハツカネズミは「愛護動物」ですが、人に飼われていないハツカネズミや、両生類であるカエル、昆虫であるカブトムシ等は、「愛護動物」ではありません。(ただ、愛護動物でないからといって、これらの動物たちを不適切に扱ってもいい、ということではありません)
では、この「愛護動物」たちに、どのようなことをすることが「動物虐待」となるのでしょうか。これについても、動物愛護管理法では、次のように規定されています。
愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、その健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、又は飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であって疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であって自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行った者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
これもまた難しく書かれていますが……環境省のホームページには、もうちょっと分かりやすく記載されています。
「動物虐待とは、動物を不必要に苦しめる行為のことをいい、正当な理由なく動物を殺したり傷つけたりする積極的な行為だけでなく、必要な世話を怠ったりケガや病気の治療をせずに放置したり、充分な餌や水を与えないなど、いわゆるネグレクトと呼ばれる行為も含まれます。」
つまり、「動物虐待」とは、「愛護動物」に対して、大きく分けて以下の2つを行うことです。
① 積極的(意図的)虐待
⇒やってはいけない行為を行う、行わせること
・傷ができてしまうくらいに、殴る・蹴る等の暴力をふるう
・動物同士を闘わせる(闘犬等)
・動物の健康や安全がおびやかされるような場所に拘束する 等
②ネグレクト
⇒本来やらなければならない行為を、やらないこと
・水や餌を与えない(もちろん、治療等のため獣医師から制限されている場合等は除きます)
・病気やケガの動物に、適切な治療を受けさせない
・世話しきれないくらい数多くの動物を飼い、衰弱させる 等
虐待とまではいかない場合は
では、「動物虐待」という犯罪とまではいかずとも、動物の飼い方が不適切と言える場合はどうでしょうか。
飼い方が不適切であるがために、動物が衰弱し、虐待となるおそれがあるような場合で、自治体職員の指導に従わない等の理由で改善が見込めない場合には、自治体は飼い主に対し、必要な措置を取るよう勧告や命令をすることができます。
動物が衰弱し、虐待となるおそれがあるような場合とは、例えば、餌の残りやフンを適切に処理しないために悪臭が続いているような場合や、爪が異常に伸びている・身体が著しく汚れている動物がいるような場合、餌や水が定期的に与えられておらず、栄養不良の動物がいるような場合等が挙げられます。このようなケースを見かけられた時も、自治体の動物愛護担当窓口に相談してみてください。
特に、適正に飼うことが出来ないくらい多くの動物を飼ってしまう、いわゆる多頭飼育崩壊の場合、このような状況に陥っていることが多いのですが、発見や対応が遅くなると、飼っている動物が繁殖をして、状況はさらに悪化します。状況が悪化すればするほど、飼っている人も、飼われている動物も、周辺に住んでいる人も、みんな不幸になっていってしまいます。だからこそ、より早急な対応が重要です。
多頭飼育の問題は、いろいろな要因が絡み合っていることも多く、自治体が探知したからといって、すぐに解決することが難しい問題ではありますが、自治体が把握しているのとしていないのとでは、状況的に全く違います。
おわりに
人も動物もしあわせに暮らすために、動物虐待はあってはならないことです。
ただ、ひとことで「動物虐待」と言っても、どういうものがそれに当たるかがイメージしにくいこともあるかと思い、私なりに噛み砕いて書かせていただきました。
動物を傷付けてやろう、と言うのは論外ですが、動物が好きな方でも、飼い方次第では知らず知らずに虐待状態となってしまうこともあり、事案ごとに正解を見つけていくことは難しい問題です。
どうぶつ弁護団のメンバーとも意見交換等をしながら、よりよい解決法を見つけていけたらと思います。
引き続き正しい飼い方を啓発していくとともに、不幸な状態に陥っている人と動物がいれば、出来るだけ早く状況が改善されるよう努め、これからも人と動物の笑顔にあふれたまちを目指していきたいと思います。
(次回は12月25日公開予定です)
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