虐待事件の対応を誠実かつ愚直に 「どうぶつ弁護団は、これからも走り続けます!」
動物たちを虐待から守るために、2022年に立ち上がった「NPO法人どうぶつ弁護団」(Animal Defense Team)。当連載では、どうぶつ弁護団に所属する弁護士・獣医師メンバーからの便りを紹介します。
最終回は、理事長の細川敦史弁護士による「どうぶつ弁護団からの宣言」をお届けします。
信頼できるメンバーとともに
2022年9月にどうぶつ弁護団がスタートしてから、早くも2年以上が経過しました。
振り返れば、全国各地で発生している動物虐待事件について対応する受け皿や仕組みを作れないか——という私の中での漠然とした考えを初めてまとめて言語化したのは、2020年7月のsippoの連載記事『犬や猫の虐待事件をなくすために 弁護士と獣医師がタッグを組む日も近い!?』だったように思います。
普段の仕事では基本的にかかわることのない弁護士と獣医師(もっといえば、獣医師の処置に過失があったとして、飼い主の代理人として損害賠償請求や訴訟を起こしてくる弁護士は、獣医師や動物病院に嫌われている存在)ですが、動物虐待への対応という場面においては、動物の専門家と法律の専門家が連携して活動する余地があり、これが非常に重要であると提案しました。
ただ、この時点でも、全国各地でその地域の弁護士と獣医師が連携するのがよいでしょう、といった、ある意味他力本願的な提案にとどまっており、同じ組織の中に弁護士と獣医師を共存させて事業を運営していくといった構想は私の中でも全くありませんでした。
その後、私が所属する兵庫県弁護士会での動物問題への取り組みが進み、同志の弁護士たちと真剣に議論を重ねる中で、法人化のイメージが固まっていきました。このあたりの経緯については、同じくsippoの連載記事『ものいえぬ動物たちを代弁し守っていく「どうぶつ弁護団」始動します【前編】』で詳しく説明しています。成り行きで進めていたところもありますが、今思えば、自然な流れだったともいえます。
こうして設立されたどうぶつ弁護団は、日本で初めての組織や事業ということで、2023年12月に神戸で開催された日本獣医師会の獣医学術学会年次大会をはじめ、いろいろな機会で発表させていただいています。
告発事案も順調に件数を重ね、中には被疑者が特定され検挙された事案や、公判請求されて有罪判決が言い渡された事案も出ています。「一時の勢いで設立したものの、開店休業状態」ということはなく、信頼できるメンバーと、今でも毎日のように寄せられる動物虐待のSOS情報に向き合っています。
どうぶつ弁護団からの宣言
さて、これまでどうぶつ弁護団の運営を続けてきた中で、日々感じていること、あらためて読者や関係者の皆様に強調してお知らせしておきたいことを、「どうぶつ弁護団からの宣言」とします。
① 【どうぶつ弁護団は、動物愛護団体ではありません】
私たちは、動物虐待の防止という目的を掲げていますが、その先に、人が暮らしやすい安心な社会をつくることをも目的としています。確かに、動物は、人による理不尽な取り扱いから保護されるべき存在ではありますが、どうぶつ弁護団は、動物のことだけを見て活動しているわけではありません。
また、どうぶつ弁護団がめざしている動物虐待の防止という目的は、動物愛護家・団体のみならず、動物にまつわる関係者、例えば、動物病院、動物園はもちろん、ペット業界にとっても、決して利害が対立するものではないでしょう。「動物虐待の防止に反対する」といった極端な思想を持った人や組織でない限り、いかなる個人や組織であっても、どうぶつ弁護団の活動に賛同し、コミットしていただくことができるだろうと考えています。
こうした点において、どうぶつ弁護団は、動物愛護団体とは異なります。結果として、動物愛護団体から情報提供を受ける機会が多いため、連携・協力していることが多いですが、事案対応のために情報提供者と連携する必要があるのは、どのような個人・組織との関係であっても同様です。
② 【どうぶつ弁護団に、相談はできません】
この点については、イベントやオンラインセミナー、各媒体からの取材などでどうぶつ弁護団の紹介や説明をするときには、必ずお話しています。また、弁護団のホームページ(Q&A)にも記載し、情報提供や問い合わせフォームにもしつこく注意書きをしています。
それでも、多くの方が、どうぶつ弁護団に、自分がかかわっている事案についての「相談」を求めてきます。行政や警察に通報しても動いてくれなかった、近くの弁護士に相談しても動物の問題は専門外であると言われたなどの経緯があり、何とか相談に乗ってほしいという思いなのだろうと想像はします。
それでも、情報提供者からの相談に応じることはできません。どうぶつ弁護団への情報提供は基本的に一方通行です。冷たいことを言うようですが、情報提供者という「人」の思いや都合によって動くことはなく、あくまでも、法律の観点から、客観的に動物が虐待されている状態にあるかどうか、という点を評価・判断しています。
③ 【どうぶつ弁護団は、活動を続けていきます】
個人と違って、法人は、その性質上持続可能性があります。私を含め、現在の中核メンバーが歳をとり、気力や能力が衰えていくときがあったとしても、新しい人たち、次の世代が引き継いでくれるでしょう。法人を維持する体制(人、物、金)を整え、虐待事件の対応を誠実かつ愚直に続けてさえいれば、きっと一定数の人からの賛同が得られ、新たにかかわってもらえることができると信じています。
その中で、意欲ある弁護士や獣医師たちが、強くコミットしてくれるかもしれません。私では到底考えつかないような形で、現在の組織を大きく成長させ、展開してくれるかもしれません。
動物虐待がなくなれば、どうぶつ弁護団も目的を達成し、解散することになりますが、およそ犯罪はそう簡単になくなることはないでしょう。人にとって人間社会が生きづらくなっていれば、しわ寄せが弱い動物に向かうこともあり、動物虐待をなくすためには、人間社会全体をよくする必要があるともいえます。これは終わりのない道といっても過言ではありません。
どうぶつ弁護団を立ち上げたメンバーの1人としては、この組織や事業を途中で止めず、続けることが使命であると考えています。
さて、朝日新聞社sippoが大幅にリニューアルするとのことで、こちらでの連載は今回で終了となります。同社には、これまで私個人の連載「おしえて、ペットの弁護士さん」の時期を含め、大変お世話になりました。また、これまでお付き合いいただいた読者の皆様にもお礼を申し上げます。
sippoを通じての情報発信は残念ながら今回で最後となりますが、これからもどうぶつ弁護団の活動は続きます。どうぶつ弁護団の情報については、ホームページや定期的なプレスリリース、あるいはXの個人アカウント@a_hosokawaなどで発信しています。こうした情報に接して私たちの組織や活動に興味を持った方は、ぜひかかわってほしいと思います。
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