「動物虐待を刑事告発するために」 どうぶつ弁護団「調査員」からのメッセージ
動物たちを虐待から守るために、2022年に立ち上がったNPO法人どうぶつ弁護団(Animal Defense Team)。当連載では、どうぶつ弁護団に所属する弁護士・獣医師メンバーからの便りを紹介します。第7回は、森崇志弁護士です。
犬や猫のために何かをしたかった
どうぶつ弁護団で「調査員」を担当しております、弁護士の森崇志です。
犬や猫の知能レベルは人でいうと2~3歳くらいだそうです。我が家には2歳の子供がいます。「いや」とか簡単な「あっち」などの言葉で自らの意思を伝えるようになり、周りの大人は我が子のしぐさや発する言葉で言いたいことや気持ち、状態を察してあげることができます。
犬や猫もその行動からある程度感情を読み取れますが、発する言葉は「ワン」か「ニャー」であり、手足も人間ほど器用に動かすことができません。そのため、例えばケガをしたとして、どのようなことでケガをして、今どのような状態かについて、周りの人間に伝えるのはなかなか難しいことです。
私が弁護士を目指した理由の一つには、犬や猫のような自ら言葉を発せられない動物たちが、いろいろな経緯で野良犬・野良猫となって苦しんでいたり、飼い犬・飼い猫であっても飼い主から虐待されていたりすることに対して、「何かできることはないのか」という思いがありました。
人間であれば、自らに対する「いじめ」に対して行動を起こしていくことは可能ですが(もちろん、いじめを受けている当事者がいざ行動を起こすとなると、大変であることは十分理解しています)、犬や猫はどうしても、自ら助けを求める、逃げ出すことが厳しいと思っています。そんな犬や猫に対して何か自分に出来ることはないのか、ということで弁護士を目指しました。
巡って来た機会
ただ、いざ弁護士になって何かするとしても、実際何から取り組んでいったらいいのか、どうしたらいいのかわからないまま、数年の月日が経過していました。そんな折、ちょうど私が兵庫県弁護士会の公害対策・環境保全委員会の委員長をしていたときに、細川敦史弁護士と動物虐待に関するシンポジウムを開催することに。その流れで、どうぶつ弁護団が設立されることになりました。
どうぶつ弁護団は、もの言えぬ動物の代弁者として適切な情報発信で動物虐待の抑止につなげていく組織であり、私のやりたかったことを細川弁護士が実現してくれたという思いです。
現在、私は調査員として、どうぶつ弁護団に寄せられた情報の中から動物虐待が疑われる相談について、情報提供者と連絡をとり、お話をお聞きする業務を担当しております。こう書くと、調査員として日々いろいろな方からお話をお聞きし、さまざまな調査を行っているかのように思われるかもしれませんが、まだまだ新米で、経験を積んでいかなければならない段階にあり、今はまだ役に立てていないな、と思ってます。
こんな感じの私ですが、今回の記事では、調査員の仕事について少しお話しさせてもらい、少しでも身近に感じてもらえればなと思っております。
刑事告発をするために
どうぶつ弁護団の活動の端緒は、一般の方からの情報提供となっています。
ただ、情報提供者は捜査機関などではないため、今後刑事告発につなげていけるような事案でも、最初の情報提供時には必要な情報や資料が不足している場合もあります。そのような場合に、調査員から情報提供者の方にお電話をして、いろいろと聞き取り等を行わせてもらっています。
なお、今でこそどうぶつ弁護団の「調査員」という肩書がありますが、初期のころは肩書がなく、情報提供者の方に初めてお電話をしたときは、「兵庫県弁護士会所属の弁護士の森崇志で、どうぶつ弁護団にかかわっている弁護士です」というような感じで自己紹介をしていました。これも一昔前であれば問題なかったのでしょうけれども、昨今振り込め詐欺の事件で弁護士が登場人物として現れることも多いことから、情報提供者の方にあやしまれたらどうしようとドキドキしていました。
こちらの自己紹介が終わると、提供いただいた情報の内容について聞き取りをさせてもらうのですが、当事者である犬や猫は当然のことながら話せませんし、情報提供者の方の手元にその犬や猫がいるかどうかもわかりません。
「結果としてどのようなことがあったのか」については情報提供者の方も覚えていたり、時には写真を撮られたりしていることもあるので、ある程度具体的にお聞きすることが出来ます。ただ、その「結果」がどのような「原因、経過」をたどってそうなったのかについては、いろいろとお聞きしていっても、わからない場合が多いのが実状だと感じています。
それでも、情報提供者の方には本当に感謝しております。ある日突然電話をかけてきた調査員から電話越しで事細かに聞き取りをされることになるのですが、これまでどなた様も、お忙しいなかご丁寧に教えてくださったり、時には当時の記憶を思い起こしていろいろと思い当たる節を教えてくださったりするなど、やさしい対応をしていただいております。ありがとうございました。
証拠を残してほしい
そうして、情報提供者の方から「結果」やその「原因、経過」について聞き取りをさせてもらいながら事実関係を整理していくのですが、刑事告発をしていく(警察に告発を受理してもらう)ためには、それだけでは足りないのも現状です。
刑事告発をしていくためには、客観的な資料もそろえていく必要があり、犬や猫がケガをしている場合はその傷跡や、付近に凶器が落ちていればそれも重要な資料となってきます(この辺りについては、連載第2回の岸本悟弁護士の記事にも記載されております)。
傷ついた犬や猫がいればすぐに動物病院に連れて行って治療を受けさせてあげたい、凶器があればそれを取り外してあげたい、というのがごく一般的な心情だとは思いますが、刑事告発を考えていく場合には、かわいそうな気持ちはありますが、まずは出来るだけその瞬間の状況を、写真や映像などに記録として残してもらうようにお願いしたいと思います。
と同時に、なかなか資料がそろわず、刑事告発につなげることができない場合も多いかもしれませんが、活動すること自体にも抑止力があるとも考えています。どうぶつ弁護団にご相談いただいても費用はかかりません。もし周りで虐待が疑われる事案が発生しましたら、情報提供をしてもらえたらと思います。
そして、もしかしたらどこかで、調査員としての私からお電話をさせてもらうこともあるかと思いますが、どうぶつ弁護団の活動ともども、どうぞよろしくお願いいたします。
(次回は11月27日公開予定です)
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