セカンドオピニオンを勧めるとき 西岡賢一獣医師「その動物にとって一番いい医療を」
動物病院の診察室で、ペットと飼い主さんと日々向き合う獣医師の“思い”を紹介する当連載。第2回は、VCA Japan PAL動物病院グループ総院長の西岡賢一先生にお話をうかがいました。
「獣医師には、患者である動物にとって一番いい医療を受けさせる責任がある」と西岡先生はいいます。
(この連載は一般社団法人Team HOPEと共同でお届けしています)
架け橋としての役割
西岡先生が総院長を務める「PAL動物病院グループ」は、一般診療はもちろん、全国の獣医師がチームとなってペットの予防医療と健康管理の普及・啓発活動に取り組む「一般社団法人Team HOPE」の健康診断に特化した「どうぶつ健診センター」など、専門性を高めた部門をそろえ、トータルケアに取り組んでいます。
患者にとって一番いい医療を受けさせるという責任を果たすために獣医師はまず、自分のできることとできないことを明確にすることが大切だと、西岡先生は考えています。
「そのうえで、専門的な検査や治療が必要であれば、より高度な医療を提供している動物病院を紹介したり、飼い主さんが診断や治療法についてセカンドオピニオンを受けたいと希望すれば、信頼できる動物病院を紹介したり。かかりつけ医には、飼い主さんとペットを、その子にとって最良の医療へとつなぐ架け橋としての役割もあります」
約30年前、福岡県で「パル動物病院」を開業した西岡先生は、「そのころのぼくには、できないことがたくさんありました。そして、そのことを自分でちゃんと分かっていました」と、当時を振り返ります。
「とはいえ、そのころは専門医もまだほとんどいなくて、セカンドオピニオンも一般的ではなく、紹介できる先がそもそもないような時代。どうしても自分で対応できない症例の場合は、最寄りで高度医療を提供している山口の大学病院に紹介するしか選択肢がありませんでした」
最寄りといっても車で片道2時間ほどの距離があり、患者である動物と飼い主への体力的、精神的、経済的な負担を考えるたびに、西岡先生は申し訳なく感じたり、悔しい思いをしたりすることもたくさんありました。そうしたなかで、西岡先生が目指すようになったのが“究極の町医者”です。
「ぼくが目指した“究極の町医者”とは、一科目の専門医じゃなくて、どんな科でもレベルの高い医療を提供できる“かかりつけ医”。そのためには鍛錬を重ねるしかなくて、学生の頃よりも獣医師になってからのほうが勉強しましたね(笑)。おかげでいまでは、ほとんどのことを自分でできるようになりました」
と同時に、西岡先生は横とのつながりをもつためのネットワークの構築にも力を注いできました。いまも、チームの力を大切にしながら、知識力、技術力、設備力、あらゆる面でより高度な医療を提供できるよう、努力を続けています。
“おしのびセカンド”のすすめ
できるだけ他の病院に頼らずに、動物と飼い主を幸せにするための病院づくりに取り組み続ける西岡先生ですが、一方で「患者さんのために、自分ができないことをできる動物病院、先生にバトンタッチをする。そうしてつなげてくれる獣医師は、とてもいい先生だと思う」といいます。
「やっぱり、その患者さんに最良の治療を受けてもらうことが、ぼくら獣医師としての命題ですから。他の病院を紹介されると、かかりつけ医に対して見放されたと落ち込んだり、ほかの病院で治療することを申し訳なく思ったりする方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。元気になったペットと飼い主さんの幸せそうな姿を見ることができれば、実際に治療した獣医師がうれしいのはもちろん、架け橋の役割を果たしてくれたかかりつけ医もきっと同じように喜んでくれるはずです」
セカンドオピニオンについても同じで、「かかりつけ医にうしろめたさを感じる必要はありません」と西岡先生はいいます。
「飼い主さんがセカンドオピニオンを受けたいと思う理由は大きくふたつあると思うんです。ひとつは診断や治療法に納得できないから。もうひとつは、かかりつけ医の対応にモヤモヤを感じるから」
前者の場合は、たとえば、がんなど深刻な病気を診断されたことが信じられなかったり、膝蓋骨脱臼(パテラ)の治療のために外科手術をすすめられたけれど、手術を回避できる方法があるのではないかと治療の選択に悩んだりする飼い主は多いといいます。
「飼い主さんにしてみたら、かかりつけ医のことを信じられないわけじゃなくて、わが子の病気を信じたくないんですよね。それはある種の“願い”に近い。ぼくの場合、丁寧に説明をしたうえで、どうしても受け入れてもらえなければ、『ほかの病院の意見を聞いてみてもいいと思いますよ』と、こちらからセカンドオピニオンを勧めることがあります。結果、他の病院でも同じジャッジメントが出れば、飼い主さんも納得でき、前向きな気持ちで治療に入っていくことができますよね」
一方、後者の場合は、たとえば治療法について質問してもはっきりとした答えがもらえなかったり、ペットの症状が気になって受診したけれど「様子を見ましょう」「問題ない」といわれているうちに症状がひどくなってしまったりと、かかりつけ医の対応に疑問や不信感を抱いていることが少なくないといいます。
この場合では、かかりつけ医に知らせずにセカンドオピニオンを受ける飼い主が多いのが実情です。
「いわば“おしのびセカンド”ですが、ぼくは『あり』だと思っています。むしろ、モヤモヤしたまま時間を経過させてしまうよりも、愛犬や愛猫のことを思って、どんどんしていったほうがいい。それに実際は、客観的な立場の獣医師に診てもらうことで、かかりつけ医に感じていたモヤモヤがなくなり誤解が解けることも多いんです」
西岡先生は、「飼い主さんもいいづらいでしょうし、わからないほうが先入観なく診察できる」という理由から、“おしのびセカンド”で来た飼い主に元々の病院がどこなのかをあえて聞くことはしないといいます。
「ぼくら獣医師は、飼い主さんの意向や考えを大切に、尊重します。獣医師に気兼ねする必要はありません。ペットという大切な家族のために、必要と感じたならばどんどん“おしのびセカンド”をしてほしいですね」
愛犬「ジョン」の存在
生まれたときにはすでに犬がいて、それからずっと動物と一緒に暮らしてきた西岡先生。現在は、愛犬4匹、愛猫1匹と暮らし、自宅の庭では自身の病院で避妊・去勢手術をした地域猫6匹のお世話もしています。獣医師としてだけでなく、幼少のころから命が生まれる喜び、命がなくなる悲しみをたくさん経験してきました。
「自分の意思で犬を飼ったのは小学1年生のとき。公園に捨てられていた柴犬の雑種を連れて帰り、『ジョン』と名付けました。ずいぶんかわいがりましたけど、ぼくが6年生のときに、フィラリア症で心臓の手術中に亡くなりました」
獣医師に招かれ手術室に入ると、息を引き取ったジョンが横たわっていました。その姿を見て、「ジョンのような動物を助けられるようになりたい」と強く思ったのが、西岡先生が獣医師を志すきっかけでした。
獣医師として歩んで約30年、「毎日、大好きな動物に囲まれて、ふれ合ったり、命を助けたり。いい仕事に就いたなと思います」という西岡先生に、最後に獣医師としての一番のやりがいをたずねてみました。
「獣医師の中には、難しい手術をやりとげたときにやりがいを感じるという人もいます。確かに充実感はあるんです。でも『そこが終着点じゃないぞ』と思っていて。本当のやりがいは、元気になった動物と飼い主さんが健康診断などで病院に来てくれたとき。ぼくにとって、その幸せな姿と笑顔を見るのが、獣医師としての何よりの喜びです」
今回ご登場いただいた獣医師の先生
西岡賢一先生
獣医師。VCA Japan「PAL動物病院グループ」総院長。「一般社団法人Team HOPE」副代表。1992年、北里大学獣医学科卒業。1996年、福岡県遠賀郡水巻町でパル動物病院を開院。2020年、PAL動物病院グループ設立(本院、別館、飯塚分院、江島動物病院)。PAL動物病院グループでは、ヒューマンアニマルボンド(動物と人との絆)の架け橋となるべく、各病院において一般診療から高度専門医療まで多角的に提供している。
この連載はsippo×Team HOPEでお届けしています
一般社団法人Team HOPE
2013年に発足した、ペットの健康診断を推進する獣医師団体。健康な時から動物病院へ通うことで、病気の早期発見と早期治療の実現を目指すと同時に、ペットとご家族さまにとって動物病院がいつでも行けて相談できる、身近な存在となるよう活動している。賛同会員病院数は2024年10月時点で2,800を超える。https://www.teamhope.jp/
(次回は11月19日公開予定です)
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