巨大な食料システムに組み込まれた畜産動物 養豚場からの豚のレスキューはじまる

 畜産場で生まれてしまった動物には、屠殺(とさつ)以外の出口がない。当たり前といわれればそうだけど、畜産動物たちの運命は過酷で絶望的だ。

 今、私達はこのことを改めて強く感じている。廃業する養豚場から、残されているお肉になるはずだった豚を8頭、保護することに決まったからだ。

 畜産のかたいかたい鎖を断ち切って、8頭の畜産豚たちが殺される運命から抜け出し、“普通の豚”になる。

「早く楽にしてあげたい」とすら思う惨状

 2024年2月末、犬の多頭飼育崩壊が起き、虐待的な飼育に陥っていた場所が、廃業間近の養豚場であり、そこには8頭の豚も取り残されていると相談を受けた。直前には1頭が死亡し、2月末で屠殺する予定だったが延びているのだとも聞いた。

 犬たちの保護のために数カ月現場に通っている「BeSail_Animal」の美帆さんは、以下のように豚たちのことを報告している。

「強烈な臭いと糞のなかで横たわる姿をみて怒りと悲しみが込み上げてきました。犬をレスキューするため何度も現場に通うようになり、晴れの日も雨の日も雪の日もありましたが、日が当たっていることはなく雨の日は糞が溶けだしている泥水を飲んでいてとてもつらかったです。また晴れた暑い日はジョウロやバケツでお水をあげるとすごい勢いで飲むのでいつも喉(のど)が渇いているのだと思いました。横たわって動かない時は生きているのか不安になり声をかけたりしていました」

 また、一緒に犬のレスキュー活動に通っている桐山マキさんは「恐らく病気で目が見えなくなっている豚さんや音を怖がり精神的に病気になってしまっている豚さん達を見る度に心が痛くなりました」と話す。

 最初にこの飼育崩壊現場を見つけた田中さんは豚たちの様子を見続けて「早く楽にしてあげたい」とすら思ったという。

豚のレスキューができるのか

 目の前にいる畜産動物に対して私たちができることは限られている。基本的には、これから生まれてくる畜産動物たちのために、今いる動物たちの苦しみを伝えるということが、私達がずっとやっていることだ。巨大で冷たい食料システムに組み込まれた畜産動物たちは、毎年800億頭以上が殺され、国内だけでも10億頭以上が殺されるのだから。

 しかし、知らせを受けて現場に駆けつけないわけにはいかない。

 徐々に保護され、幸せになっていく犬たちと、それを一生懸命実現しようと奮闘する人たち、そしてその様子を傍目に、ただ糞尿の中に放置された200kgを超える大きさの豚たちがいた。

 オーナーと話をしてみると、豚には屠殺の道しかないため屠殺しようとしているが、屠殺して肉にしなくても良いという考えだった。豚たちを、畜産という屠殺へのループから救い出すことができるチャンスが突然目の前に広がった。

「なんとかしたい」

 肉にされる運命だった豚にも、犬や猫と同じように殺されずに終生生きる道があるのだと、社会に見せつけたい。

 最低限の保護場所だけを確保し、再度交渉に向かい、その場で豚たちを譲り受けることを了承してもらった。

 今はまだ豚たちの畜産の鎖脱出プロジェクトは道半ばだ。鶏や牛と異なり、豚の飼育の壁は高い。ウイルスなどへの対策、ニオイや鳴き声、頑丈な2重柵、200 kgの豚の輸送などなど。今、様々な壁にぶつかりながら、豚たちを一日も早く畜産場から救出することを目指している。

 豚たちに、世の中が美しいのだと知ってもらいたい、なんの役割も負わず、ただ楽しみながら生きてもらうためのプロジェクト、応援してください。

(次回は6月10日公開予定です)

【前の回】国内食鳥処理場が鶏を生きたまま茹で殺した数61万羽に増加 今すぐ防ぐための努力を

認定NPO法人アニマルライツセンター
1987年設立。動物たちの苦しみを効果的になくし、動物が動物らしくいられる社会を目指す。食べ物や衣類、娯楽や実験に使われる動物など人の支配下に置かれている動物を守る活動と、エシカル消費の推進に取り組んでいる。
この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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