死に向き合うとは「忘れないこと」 夫を亡くし、ひとりで向き合った18歳の愛犬の死
いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。
2022年2月9日、涼子さんはヨークシャーテリアの健太君(享年18歳8カ月)をお見送りしまた。また、健太君が亡くなる5カ月前には、涼子さんは長年寄り添ってきた夫を亡くされました。大切な存在を立て続けに失い、涼子さんはどのようなお気持ちで過ごしているのでしょうか。生前の健太君のお話と現在の涼子さんの思いを伺いしました。
18歳までお散歩をしていた愛犬
――涼子さんは愛犬を2022年2月に亡くされたそうですね。
はい、愛犬の名前は「健太」、男の子。18歳8カ月で亡くなりました。
――健太君はそれまでは健康に過ごしていたのでしょうか?
16歳のころ、後ろ脚の動きが悪くなりました。歩くときに引きずるようになったんです。10歳のときヘルニアの手術をし、リハビリに3カ月通ったことがあったので、またその病院に行ってリハビリをしました。リハビリを始めてから脚の上り方が良くなって、引きずらなくなり、その後は亡くなる数カ月前まで元気にお散歩をしていました。
――18歳までお散歩ができたのはすごいですね。
18歳になったころからはリードを体に固定するものに変えて、歩きにくいときは少し持ち上げたりしてお散歩していました。排泄(はいせつ)も自力でしていました。目も耳もあまり機能していなかったようですが、お散歩は好きでよく行っていましたね。
よたよた歩いていたので、お散歩で年齢を聞かれることが多く、年齢を伝えると「励みになります」と言われていました。とにかく悪化しないでほしい、楽しく散歩をしてほしいという気持ちでいました。
健太君が亡くなる半年前に夫が他界
――そんな元気にお散歩していた健太君は、なぜ亡くなったのでしょうか?
健太は夫と二人で飼っていて、うちは子供に恵まれなかったので、健太が子供同然でした。でも2021年の8月に夫が亡くなりまして……。健太は夫が亡くなるまではお散歩に行けていたのですが、夫が亡くなったあとガタガタと調子を崩し、それまで食べていた流動食も食べられなくなりました。食べられるものは何でも試してみようと、いろいろな缶詰など買ってきては食べさせていたのですが、だんだん衰弱していきました。
同時に腎臓の数値が徐々に悪くなっていき、1週間に一度、脱水予防と栄養補給のために点滴をしていたのですが、最期は全身が黄色くなり腎臓の悪化で亡くなりました。
――ご主人に懐いていらしたのですね。
夫が健太を溺愛(できあい)していて、また健太も夫が大好きでした。毎日、すべてが健太中心の生活でした。夫は亡くなる前の2週間は自宅で過ごしていたのですが、「もう危険ですね」という時に健太が鳴いたら、夫が「健太」とはっきりと言って、その後、昏睡(こんすい)状態になりました。夫の最後の言葉は愛犬の名前だったんです。
夫が亡くなったあと、健太はどうやって夫を探していいのかわからなかったように見えました。
――立て続けに最愛の人と健太君を亡くされて大変でしたね……。
夫が亡くなった後、調子を崩した健太の介護に集中していた間は、夫が亡くなった悲しみを少し忘れることができました。「今日は少しごはんが食べられた」「良い便が出た」など、ちょっとしたことが喜びで、寂しさは薄れた気がします。夫が亡くなってから健太は5カ月間頑張ってくれました。
死に向き合うとは「忘れないこと」
――健太君を亡くしてから2年経ちます。涼子さんにとって「ペットの死に向き合う」とはどういうことだと思いますか?
「忘れないこと」です。結婚して夫婦で飼った犬は、健太が3匹目なのですが、それまでの2匹の死は夫と一緒に乗り越えてきました。夫があまりに悲しんで大泣きするので、私は夫を慰めてきたのですが、健太の死はひとりで向き合わなければなりませんでした。夫の死と健太の死はセットです。
――今、涼子さんはおひとりでどのように過ごしていらっしゃいますか?
夫と健太を亡くして家に引きこもるようになった私の姿を見た弟と友人が、市民農園を進めてくれたので、1年くらい前からそこへ通い始めました。植物も生きているので、毎日世話が必要なんですよね。
その市民農園から1分のところに夫のお墓があるので、毎日お墓参りにも行っています。犬も一緒に入れるお墓なので、今まで夫婦で飼ってきた犬3匹と、私の実家にいた3匹の計6匹に夫の遺骨は囲まれて眠っています。本当に犬が好きでやさしい人で、きっと今は虹の橋で、みんなで幸せに過ごしていると思います。
<取材を終えて>
「くわを握って畑仕事に集中しているときだけは、寂しい気持ちを忘れられます」と話してくださった涼子さん。涼子さんがこれからもお元気にお過ごしになることを、ご主人も愛犬ちゃんたちも望んでいらっしゃるように感じました。
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