久和さん宅の猫の名前は三代続けて「アレック」
久和さん宅の猫の名前は三代続けて「アレック」

偉大な王の名を継承する猫 能登半島地震が起こった夜は押し入れに隠れた

 堂々とした体格で、ひげも耳もピンとしている。「大物になってほしい」という飼い主の願いが込められた猫の名前はキジトラ白の「アレック」(オス/2歳)。「日本一小さな村」として知られる富山県舟橋村で暮らしている。子どもに優しく、よく食べ、活動的な猫だが、能登半島地震が起こった2024年1月1日は一時、隠れて出てこなくなった。

(末尾に写真特集があります)

引っ込み思案でガリガリ あえて「うちの子に」

 飼い主である久和陽子さんが「アレック」と出会ったのは、富山県動物管理センターのホームページに「保護猫の飼い主募集」の記載を見つけ、同センターへもらいに行ったからだった。

「この子は630グラムしかありませんでした。一緒にいたきょうだいの真っ白の子は800グラムあって、しっかりしていました。亡くなった前の猫と同じトラ柄の子を探していたのです。しかし、引っ込み思案でガリガリのこの子を見て『あえてこの子をもらって、うちの子にする』と決めました」

来て間もないころのアレック(久和さん提供)

 ガリガリのキジトラ白は、久和家に来てすくすくと成長した。久和さんはトイレのしつけが不安だったものの、富山県動物管理センターから猫砂を少しもらってきて自宅に設置したトイレの新しい砂に混ぜてやると、子猫は1度も失敗することなく新しい環境になじんだ。

 カリカリが大好きだが、人間が食べるものにも関心を寄せる。ご飯をやるのは久和さんの夫・進さんの役目で、朝5時に起きて朝食をやり、午後5時半ごろには夕食をやる。進さんが仕事を終えて帰宅すると、車の音を聞きつけたアレックは玄関まで迎えに行き、足にまとわりついておねだりをする。

「猫は、みんなのアイドルです。首都圏のマンションに住む三男は猫を飼うことができません。孫娘2人が遊びに来た時、『アレックが子どもをかんだり引っかいたりしたらどうしよう』と注意深く見守っていると、ちゃんとおとなしくして、なでられていました」

 小学生と幼稚園児の孫娘は富山に来るたび、アレックと一生懸命に遊んで帰っていく。だから久和さんは時々、アレックの写真を三男に送っている。前回の帰省で孫娘たちはユニークな形をした猫の爪とぎをプレゼントしてくれた。「アレックのおうち」と書いてある。

孫娘から贈られた爪とぎとアレック

 久和さんは10年以上、華道を続けている。玄関などには生け花を飾っており、アレックは時々、花器に首を突っ込んで水を飲んでしまう。夏には水が劣化したり、植物を長持ちさせるための薬品を入れたりすることもあるので、ラップで水面を覆ってアレックがなめないようにしているそうだ。

「二代目アレック」は20年も生きた

 アレックをもらいにいった時、久和さんは「茶トラの子」が第1希望だった。なぜなら「二代目アレック」を2020年7月に亡くし、その面影を忘れられなかったから。「二代目」は2000年2月生まれで、20年も生きた。晩年は腎臓が悪くなってえさを食べなくなり、水も飲まず、枯れるように老衰でこの世を去った。若いころはネズミや小鳥などいろいろなものを捕まえてくる元気な猫だった。

今は亡き二代目アレック(久和さん提供)

「二代目」の前にはシャム猫の雑種の「初代アレック」がいた。「初代」も保護猫で、1995年ごろに縁あって久和家の一員となった。飼い猫になって約1年が過ぎたころ、家族が親戚と屋外でバーベキューをしていたら「かまってもらえない」と思ったのか、すねてどこかに行ってしまい、そのまま帰ってこなかった。

 40年ほど前には犬を飼っていたが、初代アレックと出会って以来、久和さんは猫を飼い続けている。

「夫も一緒に暮らす次男も動物が大好きで、『保護猫が1匹でも少なくなったら』と思って飼い続けてきました。三代目アレックは迷子になっても行方が分かるようにICチップを埋めてあり、二代目のように病気をせず長生きしてくれたらと願っています」

アレクサンダー大王のように大物になってほしい

 ちなみに「アレック」の名前の由来は、紀元前4世紀後半にペルシャやエジプト、インドなどを制圧して支配下に置き、巨大な帝国を造り上げたアレクサンダー大王である。命名したのは進さんだ。「アレクサンダー大王みたいに大物になってほしい」との願いを保護猫に込めた。久和家の猫は三代続けてオスであり、柄も性格も生き様も違うが、いずれも家族の愛情をたっぷり受けてきた。

 久和家の三代目アレックは、時々ふらりと出かけていく。家の周りは自然豊かで、交通量も少ないため、散歩を楽しんで帰ってくる。2024年1月1日午後4時過ぎ、能登半島地震が起こり、アレックの姿が見えなくなった。心配した久和さんは、午後8時から9時すぎまで名前を呼びながら家の周りを探して歩いた。外に飛び出していったと思っていたからだ。

久和さんとアレック(久和さん提供)

三が日は余震が起こるたびに反応

 午後9時半ごろ、寝室の前にアレックがひょっこり姿を現わした。実は屋内にいて、押し入れかどこかに隠れていた様子で、余震が起こるたびに反応した。

「ちょっとした揺れを感じ、いつもと違う行動を取っています。猫は人間より、とても敏感です」

 正月三が日、北陸はずっと余震が続いていたので、アレックは不安そうな姿で過ごした。偉大な王の名を継承する猫も、自然災害には恐れを抱いている。

若林朋子
1971年富山市生まれ、同市在住。93年北陸に拠点を置く新聞社へ入社、90年代はスポーツ、2000年代以降は教育・医療を担当、12年退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍・広報誌、ネット媒体の「telling,」「AERA dot.」「Yahoo!個人」などに執筆。「猫の不妊手術推進の会」(富山市)から受託した保護猫3匹(とら、さくら、くま)と暮らす。

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