山に移住して興味のなかった登山に挑戦 すべては犬が喜ぶから
先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。
山に移住したのも大福のため
少し前に書いた通り、昨年末に鎌倉市腰越から八ケ岳に完全移住した。2カ月半ほど経ったが、それまで6年ほど腰越と山の家の二拠点生活を一カ所に絞っただけなので、困ることは特にない。
山で暮らすようになってから、大福が妙に元気になった気がする。朝夕の散歩から帰ると、ドッグランでバトルするのが日課になっている。家の前にプライベートドッグランがあるなんてぜいたくなやつらだ。元々は雑草が生い茂っていた敷地だったが、苦労して作った甲斐があった。以前は草刈りすらしたことがなかったのに。それもこれも大福が喜ぶ顔が見たかったからだ。
興味のなかった登山を始める
移住したのと同じタイミングで、違う変化もあった。登山をするようになったのだ。山でたまに一緒にお酒を飲むヤマト一家の夫婦と従兄弟が登山好きで、以前から誘われていたのだが「お金もらっても嫌」と断り続けていた。
しかし、山に移住するなら、登ってみたもいいかなと思い直したのだ。知らない世界をイメージだけで拒むのはよろしくないのではいか。近くにあるんだし、一回やってみて嫌なら止めればいい。そう思い、ヤマト一家と9月末に近くの入笠山に登ってみた。
ヤマトは何度も経験しているし、大吉も体力的には大丈夫だろう。唯一の心配は、福助だった。散歩ではいつも大吉に遅れを取るし、飽きて帰りたいオーラが全開になったどうしよう。さすがに山道で福助を担いで歩くのは厳しい。とはいえ、行ってみないと分からない。幸い超初心者コースで途中までゴンドラに乗っていくようだし、拒否されれば帰ればいいかという感じで当日を迎えた。
ところが驚いたことに、いざ山道を歩き始めると一番やる気になっていたのが福助だった。とにかく前へ前へと進み、グループの先頭に出た。結果的にリードを持っていた私が後に続き、速いペースでずんずん登っていった。その福助の後ろ姿が、プリプリしていてめちゃくちゃうれしそうだった。
ゴンドラを降りてから40分くらいで頂上に到着。福助は楽勝だった。もちろんヤマトや大吉も全然バテてはいなかった。山頂付近で、みんなで持ち寄ったお弁当を食べ、下山した。初めて犬と登山した感想は「めっちゃ楽しいやん!」であった。ちなみに、入笠山の登山レベルは「0.5」くらいらしい。
泊まりで登山する
ならもう少し上を目指したい。ヤマト一家にそうお願いして、11月下旬に笠取山(レベル3)に登ってみることにした。しかも山頂付近の山小屋で一泊するコース。
最初に登山する前に、一応、登山靴だけは買ってあった。登山しなくなっても普段使えるし。けれどリュックは持っていたもので、全然、登山用ではなかった。それが山でみんなが担いでいる登山用のリュックがカッコよく見え、笠取山へ登る前には登山用リュックを買ってしまった。何事も形から入るタイプなのでね。
そして、当日を迎えた。またヤマト一家に先導してもらい、笠取山の登山口からスタートする。そしたらまた福助がトップを行く。1時間40分ほどで笠取小屋に到着。そこで荷物を降ろし、山頂を目指す。そこからの道は険しかったが(私にとっては)、福助も大吉も楽勝だった。
頂上まで行くと、また笠取小屋に戻り、みんなはテントを貼り始める。わが家はテントを持っていないし、珍しく笠取小屋は犬OKなので、そこで寝ることになっていた。15時に小屋に戻ったが、電波も入らないし、何もすることがない。大福と遊んだりしているうちに夕方になる。
夕食は16時ごろからで、各自で持ち寄った食材や私が持参した「芋煮」などを食べながら乾杯する。何を話したか翌日ほとんど覚えていない有意義な時間を過ごし、20時に就寝。寝る前にトイレに行ったときに見た星空が異様にきれいだった。
自分で書いていて気持ち悪いが、本当にそんな夜だった。体を動かすことが昔から大嫌いで、スポーツにも興味がないし、アウトドアも面倒くさいで片付けてきたこの私が、登山をするようになるとは。
でも登山そのものには興味がない
こんな喜びを教えてくれたヤマト一家に、「今度はいつ行く? 次までにテント買っておくよ!」と言ったら、冬の登山は犬連れでは厳しいとのこと。なので春以降になるそうだ。「冬山、人間だけで登ってみる?」と言われたが、行くつもりはない。
私は、犬と一緒でないのなら山には登らない。登山家に憧れたりはしない。厳しい山に挑戦するつもりもない。頂上から眺める景色もわりとどうでもいい。大福がうれしそうな顔をすから、山に登るのだ。あぁ、春が待ち遠しい。
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