豆柴のセンパイと保護猫のコウハイ(石黒さん提供)
豆柴のセンパイと保護猫のコウハイ(石黒さん提供)

豆柴センパイと捨て猫コウハイ 「いい関係」の2匹が寄り添うあたたかな日々

 犬や猫に関する数々の著書を持つエッセイストの石黒由紀子さんは、豆柴のセンパイ(メス・18歳)と保護猫のコウハイ(オス・13歳)とともに日々を送る。今、石黒さん夫婦はセンパイの介護をし、コウハイもまたセンパイを支えているそうだ。2匹との出会いから忘れられない思い出、そして彼らが織りなす「いい関係」ついてお話を伺った。

(末尾に写真特集があります)

「恋に落ちた」、運命の出会い

 石黒さんがセンパイを迎えたのは18年前。かねてより犬を迎えたいと願っていたものの、当時の住宅事情により実行できずにいた石黒さんと夫で編集者の謙吾さん。だが、その願いは突然かなうこととなる。仕事で行った伊豆高原ドッグフォレスト(現在は閉園)で、生後2週間の豆柴を紹介されたのだ。

「初めて会ったときのセンパイは、本当に小さくてかわいくて。手にのせてもらった瞬間、幸福感でいっぱいに。まさに、『恋に落ちる』とはこのことだと思いました」と石黒さん。 

「生後3カ月までは母犬と一緒に過ごさせる」という施設の方針もあり、この子犬が石黒さんのもとにやってくるのは、約2カ月半後。準備期間が十分にあるという状況も後押しし、迎え入れることを決心した。

 そこから5年後、センパイと名付けた犬との暮らしにも慣れてきたころ、「センパイの老化防止のためにも、もう1匹迎えたい」と考えるように。だが、犬を2匹飼うことには自信が持てなかった。

 そこで動物愛護団体を運営する友人に相談し、紹介されたのが、保護されたばかりの小さな子猫だった。猫を飼ったことはなかったが、センパイとの相性も良さそうだという友人からの薦めもあり、「犬一筋」だと思っていた石黒さんのもとに1匹の子猫がやってきた。

「コウハイが来た初日の夜、家じゅうをパトロールしたあと、センパイの背中の上にぴょんと乗ってそのまま寝てしまったんです。センパイは困惑した様子で……。その後も、コウハイは果敢にセンパイとコミュニケーションを取ろうとするんです。そんな子猫の勢いに、家族全員が巻き込まれていったという感じですね。センパイも少しずつ、コウハイの存在を受け入れてくれました」

 こうしてセンパイとコウハイ、石黒さん夫婦の生活が始まった。

コウハイ「ふかふかのベッド見つけたニャ」 センパイ「……(困惑)」(石黒さん提供)

センパイとコウハイのいい関係

 慎重派でおっとりしたセンパイと、アグレッシブで「不思議ちゃん」なコウハイ。性格に違いはあれど、一緒に暮らしていると徐々に似てくるところがある。

「食いしん坊なところは似ていますね。とくに食べ方がそっくり。猫って、ごはんを少しずつ食べて最後にちょっと残す習性があると思うんですけど、コウハイは一気に全部食べちゃうんです。これって、センパイ(犬)の食べ方を真似しているんですよね」

 文字通り、“センパイ”の背中を見て育っていった。

コウハイ「遊ぼうよ!」 センパイ「……(我慢我慢)」(石黒さん提供)

 コウハイはセンパイのことを母か姉のように慕い、すっかり甘えるように。コウハイがやんちゃ盛りになったころ、彼のいたずらや遊びに、センパイは辛抱強く付き合っていた。

「でも、ときどき『わん!』と一喝を入れるんです。本当にお母さんみたいですよね」

センパイ・コウハイが団結!

 コウハイを迎えて1年が経ったころ、義母のもとで暮らしていたボンボン(オス)とジュリ(メス)を預かることになった。2匹とも、20歳くらいの超ご長寿猫だった。

「センパイもコウハイも、最初は怒りと困惑の表情を見せていました。とくにセンパイの顔には『また猫?』と書いてあるし、2匹から『なんで知らない猫がいるの?』と非難の目を向けられて。でも、『今日も帰らない』『あれ、今日もまた……』と数日を過ごすうちに、徐々に受け入れて(あきらめて?)くれるようになりました」

 ジュリは当時、風邪をこじらせた肺炎による瀕死状態。ボンボンは、いわゆる「気難しい頑固じいちゃん」だった。

「驚いたのは、そんなボンボン・ジュリと生活をともにするにつれ、センパイとコウハイの団結力が高まっていたこと。何かあればいつも2匹で会議をして、いつもセンパイの後ろにコウハイがいて。そうやって、遠巻きに老猫たちを眺めていましたね」

 思えば、2匹が一緒に寝るようになったのも、この頃からだったという。

センパイの子犬時代、「お願いしますよ、センパ~イ!」と言って遊んでいたら、振り返るように。それが『センパイ』の名の由来。その後やってきた「コウハイ」には、舎弟っぽい一面も?(石黒さん提供)

 そんなセンパイ・コウハイを圧倒していたのは、ジュリの緊迫した闘病生活だった。引き続き困惑する2匹に対し、ある日、石黒さんは丁寧にジュリの状況を説明することに。するとコウハイはジュリの看病を応援し、センパイもなんとか納得してくれるようになった。

 こうして石黒さんとセンパイ&コウハイによる看病チームが結成したが、ほどなくしてジュリの旅立ちの日がやってきた。それを一番名残惜しんでいたのは、コウハイだった。

「ジュリの亡骸を入れた箱のそばから、ずっと離れずにいたのが印象的でした。ボンボンとジュリとの生活、そしてジュリをみんなで看取った経験は、今でも忘れられないできごとです」

コウハイ、何を思う?(石黒さん提供)

 センパイ・コウハイとの暮らしのなかで、一番思い出に残っている出来事を尋ねると。

「夫の地元である石川県金沢市に、2匹を連れて、車で旅行に行ったことがあるんです。その道中、コウハイがとても怖がってしまって。とくにトンネルがダメだったみたいで。最初は2匹を別々のケージに入れていたのですが、途中から一緒にしてあげると、コウハイはすっかり安心しきってセンパイにぴったり寄り添っていて。その様子がほほえましかったですね」

ケージの中の2匹。金沢に到着後、センパイは初めての雪を体験した(石黒さん提供)

動物と人間は対等な関係

 そんな穏やかな日々を過ごしていた、石黒さんとセンパイ・コウハイ。だが、2019年、センパイ13歳の春に、肝臓と腎臓の異常が発覚。症状の悪化を止めるための治療として、毎日の投薬と通院生活が始まった。

「『投薬は一生続ける必要がある』という医師からの言葉に、『センパイは大丈夫』とそれまで抱えていた根拠なき自信がガラガラと崩れていきました」

センパイの介護の様子は、幻冬舎plus「豆柴センパイはおばあちゃん ヨロリゆるゆる、今日もごきげん」にて詳しく記録されている(石黒さん提供)

 それまでは『人間が動物のお世話をする』と思っていたが、センパイの介護生活を送るうち、『動物と人間は対等な関係だ』という認識に変わったという石黒さん。

「センパイの介護と同時に父の介護も経験しているところですが、『動物も人間も、同じ生き物として同じように生きて弱っていくんだな』と感じています。これまでのいろんな経験を経て思うのは、『動物を育てているつもりが、動物に育てられていた』ということ。たくさんのことを教わった気がします」

「ありがとう」を惜しみなく

センパイが認知症になってから、コウハイが見守る側へ。2匹の関係性も変化した(石黒さん提供)

「センパイは以前 、認知症による旋回や徘徊、ほえることもありましたが、いまは静かに寝ていることが増えました。ごはんやお水も自分では摂取できないので促してあげて、夜は抱っこして一緒に布団に入り、少しの変化にも気づけるように。夫と交代で24時間体制で様子を見ています」

 そしてお話しを伺った2023年の年末、石黒さんは「センパイは静かに旅立ちの準備を整え始めているみたい」と話す。

「人間のエゴで必要以上に頑張らせたくないので、『自分のタイミングでいいよ』とやんわり言っています。『今日も一緒に朝を迎えられてうれしい』という感謝の気持ちを今まで以上に声に出し、できることはすぐやって、伝えておきたいことはすぐに伝えて。後悔のないように、毎日を大切に過ごしていたいですね」

石黒由紀子
エッセイスト。日々の暮らしの中にある小さなしあわせを綴る。著書に『GOOD DOG BOOK ~ゆるゆる犬暮らし』(文藝春秋)、『なにせ好きなものですから』(学研)、『さんぽ、しあわせ。』(マイナビ)など。『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』『犬猫姉弟センパイとコウハイ』『しあわせ4コマ豆柴センパイと捨て猫コウハイ』は、幅広い支持を受け、ロングテールで人気。近著に『猫は、うれしかったことしか覚えていない』『楽しかったね、ありがとう』(以上、幻冬舎)。「豆柴センパイはおばあちゃん ヨロリゆるゆる、今日もごきげん」を幻冬舎plusにて連載中。

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増田夕美
フリーライター・編集者。ライフスタイル系を中心に、インタビュー、コラム執筆、SEO記事作成など幅広く活動。ときどき銭湯取材も。幼い頃から身近に動物がおり、これまで猫2匹、犬1匹と暮らす。現在は三毛猫が1匹。

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