フード代だけでも月に28万円！ 大型犬を救いたくて始めた保護活動
公益社団法人「アニマル・ドネーション」（アニドネ）代表理事の西平衣里です。この連載は「犬や猫のためにできること」がテーマです。
人間にぴったり寄り添う体重80kgを超える甘えん坊のグレード・デーンを筆頭とし、大きな保護犬たちの保護活動を行っている福岡の団体に、活動のリアルを聞いてみました。
土地の購入からスタート、「大きな犬たちを遊ばせてあげたくて」
大型犬、しかも超大型犬と言われる犬たちの保護を積極的に行っているのは、「一般社団法人 わんわんさくちゃんお日様の会」。アニドネの認定団体で、福岡県朝倉郡に拠点があり、代表の東雲氏は建築関連の仕事をメインにしながらドッグトレーナーの肩書も持っています。主にシェルターを管理しているのは、奥さんの純子さん。みんなから「さくママ」と親しみを込めて呼ばれています。今回は、大型犬の保護活動を続けるさくママに、大型犬ならではの保護活動の悲喜こもごもを取材しました。
行政では手に余る大型犬、収容されると連絡が
コロナの時期、実はペット業界はプチバブルと呼ばれていました。自宅にいる時間が長くなり、ペットを求めたい方が増え、必然的に繁殖のための犬猫を増やしたブリーダーが少なからずいます。そして、いまコロナ前に戻り、飼育頭数は緩やかに減少傾向にあります。つまり、繁殖をする必要がなくなった犬猫が多く存在する、アンバランスな図式なのです。もちろん行政は適正飼育をしていないブリーダーには数を減らすなどの指導をします。しかし、行政は営利業態からの保護はしません。となると、保護団体へヘルプの声が入るわけです。
「いまうちにいるグレート・デーンの子たちは、行政からサポートの依頼がありました。頭数を減らすために排出したい犬が17頭もいるとのことで、他の保護団体さんと協力して全頭保護しました。このブリーダーには、数年後には『廃業をする』という確約書を書いてもらって保護しました」
「ずっとうちに、おんしゃい」、体重82kgの「マーブルちゃん」
お話を聞いていて難しいと思ったのは、犬が大好きな保護活動家であったとしても、誰しもが超大型犬を救うことは容易ではないということ。実は、譲渡に出してないグレート・デーン２頭がシェルターにいるそうです。保護時はガリガリにやせていましたが、いまは82kg（グレート・デーンの中でも大きい方）にもなっているマーブルちゃんは、３年前に小型犬に危害を加え保護されました。その気質がいつ表出するかわからないため、現在譲渡募集は行っておらず、さくママの子としてシェルターにいます。
「行政施設に保護に行ったときはさすがに私も怖くて。首輪をつけるだけで40分もかかりました。でも、外に一歩出たとたん、マーブルがにっこりと笑ったんです。彼女は知らない場所が怖かっただけなんですよね。もう一頭譲渡に出さない判断をしたのは、生まれつき耳が聞こえないことでいろいろな場所をたらいまわしにされた現在２歳の『Q太郎』。やはり超大型犬なのでトレーニングは必須なのですが、耳が聞こえないので、とても難しい。Q太郎も体重は75kgあります。ふざけているつもりでも人間の子供を突き飛ばす可能性もあります。また動く人の手を怖がるそぶりがあるので、Q太郎にも『うちの子になんしゃい』って言いました」
元軍用犬のドーベルマンも、実は甘えっ子でかわいい子たちばかり
もともとはドーベルマンが好きな東雲ご夫婦。現在、廃業を決めたブリーダーから引き取ったドーベルマンが４頭、迎え主さんを募集中です。繁殖で赤ちゃんを産んでいた、「心歌ちゃん」と「忍々（にんにん）」はすでに８歳と５歳。一般的に、大型犬は小型犬より寿命は短いです。早く落ち着ける終の棲家（ついのすみか）を見つけてあげたいとご夫婦は願っています。
犬のことをよーくわかっている譲渡希望たち
大変難しい保護活動ではある一方で、譲渡においては、すばらしい出会いが続いているそう。今まで保護し譲渡してきたグレート・デーンは10頭以上になるそうで、どんな方が譲渡を希望されるのか聞いてみました。
「みなさん、素敵な方ばかりですよ。ＨＰを見て連絡がくるのですが、県外の方が多いです。ですので、希望者さんの自宅の様子は動画などで確認をさせてもらい、飼育経験や家族構成など、しっかりと話を聞きます。犬たちは空輸できませんので車で来てもらい、犬を連れて陸路で帰っていかれます。譲渡した後も定期的に連絡をくれますし、みんな幸せになっているんです。やはり、超大型犬が好きで、あえて保護犬を迎え入れる方は、犬と暮らす苦労もいとおしさも知っているので安心して譲渡しています」
最後までしっかり一緒に生きてほしい
犬という動物は１kgにも満たないような超小型犬もいれば、グレード・デーンのように、ゆうに人間を超えるような超大型犬もいます。また大型犬の飼育は、特にお金がかかります。なんと、こちらのシェルターでの先月のフード代は28万円。病気が見つかった際には一度の治療費で20万円ほどかかることだってざらにあるそう。
「私たちのところにくる大型の保護犬たちがいなくなることが理想です。彼らも同じ心を持っていて、うれしいと笑いますし、悲しいキモチでしょんぼりすることだってあります。マーブルがうちに来たばかりのころに犬舎内で暴れた時は、それはそれはすごい迫力でした。介護だって本当に大変です。ですが、それらをすべて含めて、大型犬の存在はすばらしくかけがえのないものです。終生ともに生きるつもりで家族にしてほしいのです。また、売れるから、という理由でいい加減な繁殖をするブリーダーがいるのも事実です。大型犬をブリーダーから迎えようとする方には、飼育指導がしっかりできてアフターフォローも万全なブリーダーから迎えてくださいね」
筆者は心底犬が好きではあるが、グレード・デーンと暮らせる自信はまったくありません。たまに近所で散歩しているグレート・デーンに会いますが、うちのトイ・プードルとの大きさの違いに毎回驚愕します。ですが、見るからに穏やかそうにゆったりと歩くグレート・デーンと暮らせたら、また違ったドッグライフになるんだろうな、と羨望のまなざしで見ています。
ちなみに、この保護団体では大型犬の譲渡費は一律５万円。保護をしてからの医療費や飼育費を換算すると、譲渡費を超えることも多々あるそうですが、支援者からの寄付で運営を続けられているそうです。アニドネは動物福祉のために頑張る団体さんへ寄付ができる専門サイトです。同じ保護団体といえど、地域の問題や代表の思いによって活動がまったく異なります。アニドネだったら、全国の団体へまとめて寄付もできますし、興味のある団体を選んで支援することも可能です。ぜひ、寄付という思いをお届けください。
（次回は12月５日公開予定です）
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