動物への苦しみは継続 実態は毛皮と変わらない、残酷さを隠した「ファーウール」
ラクーンウール、フォックスウールという繊維が含まれたセーターやニットを見かけたことがあるだろうか。デパートや駅ビルで常に見かけるブランドのセーターなどのタグを見てみると見つかるだろう。
野生種の毛刈りは、生きたままでは実質不可能
ラクーンウール、フォックスウールは毛皮にされるために繁殖され飼育されるタヌキやキツネの皮を捨て毛の部分だけを利用しているもので、ウールのような使い方をされている。ラクーンウールは、タヌキ(チャイニーズラクーン)の毛、フォックスウールはキツネの毛で、総称をファーウールと呼んでいる。タヌキとキツネは、中国やヨーロッパ、北米などで、毛皮動物として多数飼育されている。野生種の雑食動物または肉食動物であるタヌキとキツネの場合、羊のように生きた状態の動物から毛を刈り取ることは実質不可能であり、殺した動物から刈り取られていると考えられる。毛皮農場が非常に凄惨(せいさん)であるように、ファーウールのために飼育される動物の状況も同様だ。
実はこの繊維、ある大手アパレル企業がトレーサビリティを試みてくれたが、トレーサビリティができなかったという結果になった。どこで作られているのか不明であるが、日本やヨーロッパでファーウールが出回り始めたのは2017年頃から。中国では2005年頃から出回っているため、中国産である可能性が高い。これらの素材のトレーサビリティは正確にできていないにも関わらず、扱い続ける日本の有名なブランドが多数ある。どの会社が運営しているのかもわからないようなより小規模なアパレルブランドでも使われるようになっている。
毛皮の需要は年々減少しており、価格も低下の一途をたどり、行き場をなくした毛皮が在庫になっている。いつか人気が出たときに売ろうと、中国では冷凍保存している業者もいるという話もあるほどだ。毛皮としての利用は、目立つし、つけていれば批判の目で見られるため、毛皮の取り扱い自体は少なくなっている。しかし、ファーウールという、より消費者が残酷さに気がつきにくい素材に形を変え、動物の苦しみを継続させている。ファーウールはこうして出回り始めた。
企業の動物虐待をやめさせるためには
アパレル産業のなかでは現在、エシカルやサステナビリティがトレンドになり、これらを謳(うた)って商売をするブランドが急増している。衣類の需要は30年ほどまえから落ち続け常に供給過多である。新型コロナウイルスのパンデミックはこの流れを後押しした。売れなくなってきたアパレル産業の生き残りの術が、サステナビリティに配慮して、ロスを無くし、安売りから脱却していくことにある。いまやサステナビリティを謳っていなければ株価に影響したり、投資や融資を獲得できない要因でもある。しかし、ファーウールという新たな残酷で持続不可能な素材に飛びついた企業の中には、サステナビリティを謳っている企業もある。行動が伴っていない上辺のサステナビリティに、消費者も投資家も騙されてはいけない。
前述のトレーサビリティをした企業は、トレーサビリティできないと気がついた時点でファーウールの取り扱いをやめた。また、ファーウールを扱う企業も、ほとんどが毛皮自体の取り扱いはしていない。なぜか。それは、人々が「NO」を突きつけ、それを企業や店舗で伝え続けたからだ。市民が声を上げることが、企業の動物虐待をやめさせるための唯一の手段だ。
(次回は12月11日公開予定です)
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