散歩中に「虐待?」と思われそうなほど悲鳴をあげる黒柴 外の世界を学ぶ
外に連れ出すとパニックになり絶叫する柴犬の男の子。まもなく月齢6カ月になろうとしているのに、お散歩に行くことすらできない。発散できないストレスは飼い主に向かい、足が傷だらけになるほど激しくかまれ……。「このままでは家族がダメになってしまう」と、一家はUG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋信行店長に救いを求めた。
激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。
「完璧な人間がいないように完璧な犬なんていない。愛犬を受け入れ、信じてあげてほしい」
甘やかされ、やりたい放題になっていた
「めちゃくちゃ暗かったですね」
高橋店長は、玄くん一家がカウンセリングに訪れたときのことをそう振り返る。家族をかみまくる、人にも犬にもほえる、お散歩に行くと悲鳴を上げる……。そんな玄くんに困り果てた家族、中でも犬との暮らしを幼いころからずっと夢見てきた娘さんは、思い描いていた世界と目の前の現実とのあまりの違いに、表情を失うほど落ち込んでいた。
「お散歩はどのぐらいしているかを聞くと『まったく行っていない』と。驚くのと同時に、そりゃ荒れるだろうと納得しました」と店長。まだ子犬とはいえ、玄くんはすでに体重が7キロほどに大きく成長していた。ありあまる体力もストレスも行き場を失い、かみつきやほえといった行動につながっていたのだろう。
前のトレーナーから「玄くんはとても臆病な子です」と言われていたので、怖がらないようにと移動用のクレートはタオルでぐるぐる巻きにしていた。それを見た店長は「過保護!」とピシャリ。その場でタオルを取り払い玄くんを外に出すと、いきなり店内でマーキング。さらに、UGの犬の群れのど真ん中で堂々とうんちをし始めたという。
「びっくりしていると、店長から『この玄くんのどこが臆病なんですか?』と笑われました」と娘さん。「特別なことは望みません。玄と普通にお散歩がしたい――。ただそれだけなんです」と訴える娘さんの悲痛な望みに、店長は預かりを決める。
玄くんはほかの犬を怖がるどころか、先輩ワンコと互角に遊び、店長の愛犬でUGのリーダー犬、ジャックラッセルテリアのロイスにはケンカを売るほど。「強くてちょっとお調子者、柴犬ならではの神経質なところも。攻撃性はそれほど感じませんでしたが、家族から甘やかされ、嫌なことや気に入らないことをされたら、かんだりほえたりすれば回避できると、勝手にマイルールを作りやりたい放題だった。発散しながら、犬の社会を通じてルールとガマンを学んでもらう必要がありました」と店長。
いよいよお散歩の練習へ
群れにも慣れた3日目、いよいよお散歩の練習へ。UGから出ると、玄くんのパニックスイッチがオン! UGは東京でも人が多い中目黒駅にほど近い。街を行き交う人たちが玄くんの絶叫に驚き、一斉に振り向いた。「虐待でもしてるんじゃないかと人目が気になり、心が折れそうだった」と娘さんが胸を痛めていたのは、まさにこの光景だったのだろう。
「こりゃお散歩に行けないのも当たり前だな、と」と店長。「でも、だからこそ僕らプロがなんとかしなければ。じゃないとこの先ずっと、玄くんもご家族もお散歩に行けなくなってしまう」
わずか数分、ほとんど歩けずただ鳴き叫ぶのみでUGに逃げ帰ってしまった玄くん。店長は玄くんを落ち着かせ、再び外へ連れ出してみた。「確かに怖がってはいたので無理はさせません。まずはその場にとどまる練習から。外の世界を見せ、慣れさせ、納得させて自信をつける。成功体験を重ね、それを固定していくイメージです」と店長。
すると、最初こそUGに戻ろうとしたものの絶叫はせず。そこで、さらに時間を置いてこの日三度目のチャレンジ! なんと玄くんは中目黒の街の中をスタスタと歩き始めた。道端にあった台車にほえはしたものの、悲鳴を上げることはなかった。
「玄くんは本当は歩きたがっている、刺激を求めていると感じました。優しい声かけもおやつも必要ない。なぜなら玄くんはとても強いから。玄くんを信じ、お散歩は楽しいよ、君ならできる! と。その気持ちが伝わり、玄くんが僕を信じてくれたのだと思います」
その後はほかの犬と一緒にお散歩ができるまでに。「送られてきた写真の玄がニコニコ笑っていて。犬も笑うんだと驚きました」とお母さん。娘さんは「笑顔も、楽しそうに遊ぶ様子も、もちろん普通に歩いている姿も、すべて初めて見る玄でした。きっとずっとこうしたかったんだと申し訳ない気持ちでいっぱいに」と声を詰まらせる。
そしてお迎えの日、店長とともにお散歩の練習へ。例の絶叫はないものの、娘さんがリードを持つとその緊張や遠慮が伝わるのか、玄くんは抱っこをせがむなど自分のペースに持ち込もうとする。「『守りすぎ! 守った結果、玄くんはお散歩できなくなったんです』と、店長から厳しく注意されました」と娘さん。そしてこう続ける。
「『臆病だから無理強いはしない』という前のトレーナーさんから言われたことは忘れよう、ガマンも大事だとちゃんと教えていこうと心に決めました。玄はきっと理解し、乗り越えてくれると信じることにしたのです」
話題の中心はいつも「玄」
家に帰ってきた玄くんは、刺激と発散が効いたのかほとんどかまなくなった。ハーネスをつけようとすると嫌がりはしたものの、口を当ててくるだけでかむことはない。「何より普通にお散歩ができるようになったことがうれしくてうれしくて……」と娘さんは目を細める。お母さんも「玄とのお散歩が楽しくて、お散歩に行く順番を家族で取り合ってるんですよ」と笑い、こう続ける。
「玄がいるおかげで家族の会話が増えました。話題はいつも玄のことばかり(笑)。玄は私たち家族の『かすがい』です」
2歳半をすぎ、すっかり落ち着いた玄くんだが、お散歩の途中で苦手なタイプの犬に会ったりすると今もほえてしまうことはあるという。しかし、娘さんもお母さんもかつてのようにうろたえたり、人目を気にしたりすることはない。
「以前は玄が何を考えているのか、なぜかむのか、なぜほえるのかがまったくわかりませんでした。でも今は理由がわかっているので、自分たちなりにある程度回避できるように。玄の性格や行動と折り合いがつけられるようになりました」
店長は「僕が多くの飼い主さんに目指してもらいたいのは、まさにそこ」と語る。
最初から、あるいは悩みが少し軽減してくると、「完璧ないい子」を求める飼い主が多いという。「もちろん、やることをやれば完璧になるかもしれない。でも、厳しく接しすぎることで犬との関係性が壊れてしまうこともある。そこまでして『完璧ないい子』を求める必要があるのでしょうか?」と店長は問いかける。
たとえばお散歩で多少ほかの犬にほえても、家族が愛犬がほえる理由を理解しうまく対処できれば、大きな問題にはならないはずだ。実際、玄くんの家族は「普通にお散歩できて、普通に一緒に暮らせる。それで十分幸せです」と笑顔を見せる。
店長はこう語る。
「できないことや欠点ばかりをフォーカスされたら、犬だってしんどい。完璧な人間なんていないように、完璧な犬もいないと思います。その子の長所やできること、つまりプラスの面もちゃんと見てあげてほしい。全体で見てプラスの方が多ければそれでいいんじゃない? と僕は思うのです」
とはいえ、「臆病だから」「かわいそうだから」と基本的なルールやガマンを教えずただ甘やかしてしまうと、「特にうちに来るような強い子、頭のいい子は、自分でルールを決めて暴走してしまうこともある」と指摘。店長はこう語る。
「甘やかす=優しさではなく、愛犬を信じていないからなのでは? 愛犬をもっと信じてほしいのです。壁を乗り越えたときに犬は大きく成長するから。苦手だったお散歩を克服した玄くんが、最高の笑顔を見せてくれたように」
- UG DOGS アトラスタワー中目黒店
- 住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/ - 店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。
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