腰越の自宅でダラダラ中
腰越の自宅でダラダラ中

いつの間にか患っている「犬依存症」という病 でもメリットもある

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

こんな症状があれば要注意

 犬と暮らして自覚していない人もいるかもしれないが、多くは「犬依存症」という病(やまい)に侵されている。初期症状は、抜け毛が付きにくい服を選ぶようになる、または抜け毛が目立ちにくい色を選ぶようになる。この段階では、抜け毛を気にして出かける前にコロコロをしたり、エチケットブラシを持ち歩いたりする。

 それが進行すると、抜け毛が付いていることにまひしてそれが普通になるから、手でパパッと払う程度になる。親切な友人が「抜け毛が付いてるよ」と取ってくれようとしても、「いいよいいいよ」と気にも留めなくなる。たまに電車で服に抜け毛がたくさん付いている人を見かけると思うが、本人はどうでもいいのである。

夏場は朝5時半にたたき起こして散歩へ(迷惑そう)

 この段階になってくると、だいたいのことは犬を中心に考えるようになるので、犬を理由に平気で誘いを断るようになる。次第に付き合いが悪くなり、単独行動をとるか(犬と)、同じく犬と暮らす者同士でつるむようになっていく。独身の場合、犬を受け入れてくれない人はお断りとなり、恋人よりも犬を優先する。そのことについて不満を言われると、逆ギレする。

 心当たりのある人は、気をつけた方がいい。あなたはもう「犬依存症」を患っているのだ。それでは何かと支障をきたすかもしれないが、そんなことで関係が悪くなるくらいならこっちから願い下げだ、という考え方になっていることも自覚した方がいい。実際、私がそうだったからだ。

山に行くと元気になる

犬がいることでの心境の変化

 ただ、メリットもある。それは、堕落しないことだ。なぜなら、毎朝起きて必ず散歩に行かなければならないからだ。だからどんなに深酒しても、絶対に起きる。特に夏場は、早起きして気温が高くなる前に散歩を終えないといけないから、寝坊は出来ない。他にもゴハンの支度もあるし、掃除機もかけないといけないし、おもちゃの引っ張り合いに付き合ったり、色々あるのでダラダラ寝ては過ごせない。

 朝起きるために、夜更かしもしない。夜、ベッドに入る時間がどんどん早くなる。必然的に生活リズムが一定に保たれる。だから明け方まで飲んで昼頃まで寝る、なんてことは出来なくなるのだ。むしろ、健康的になる。

 休日に遊びに行く場所も、都会の喧騒(けんそう)は避けて、海や山へ行くようになる。その方が犬が喜ぶからだ。車の運転にしても、遠心力とブレーキを理解出来ない犬のために、ものすごく丁寧になる。

ドッグランを爆走する9歳の福助

 また、人付き合いが悪くなっても、孤独を感じない。犬が一番の理解者で、常にそばにいるからだ。心から信頼してくれるし、うそもつかない(演技はするけど)。だから全然寂しくないし、その思いに応えようとする。

でも犬がいなくなると

ボールをくわえて走る11歳の大吉

 というわけで、「犬依存症」になっても、日々暮らしている分には問題はない。しかし、この病いの恐ろしいのは犬がいなくなったときである。 

 もう完全に重度に進行しまっているので、犬がいなくなってしまうと、何事もやる気が出なくなる。朝起きて散歩に行かなくていい、毎日掃除機をかけなくていい、ゴハンの準備をしなくていい、留守番の時間を気にしなくていいという、本来なら暮らしの制約がなくなって楽になるはずなのに、慣れない。なじめない。

 何より、いつもそばにいたあのいとおしい存在がいないことを、体と精神が受け入れようとしない。いつもいた場所に、勝手に首が向いてしまう。ついつい急いで帰宅しようとして、「あ、急がなくいいんだ」と毎回気付かされる。そんなことが、あらゆる場面で起こる。

 悲しい、という言葉ではとても表現出来ない、底のないエレベーターで永遠に下っていくような気持ちになる。表面では普通に話せるし、多少笑ったりしていても、心は深い谷底にいる状態が続く。いわゆるペットロスだが、深度はひとそれぞれ違う。

 かつて7年半一緒に暮らした『富士丸』が突然いなくなったときは、相当深くまで落ちた。時間が経つにつれ、鋭く刺さるような痛みが、鈍痛に変化していったが、2年経っても常に何かが足りないと思いながら、ただぼんやり過ごしていた。

彼らのために(足がドロドロになると洗うのが大変だから)ドッグラン緑化計画中

犬がいるとなぜかしっくりくる

 そして、ひょんなことから大吉を迎え、続いて福助を迎えたわけだが(詳しくは「また、犬と暮らして。/ 世界文化社」参照)、今ではすっかり復活している。富士丸と過ごした時間より長く一緒にいる。 

 生きることの意欲も戻り、大福が喜ぶ顔が見たいからという理由で、山の家も手に入れた。我ながら、見事に犬依存症なんだなと実感する。

 ただ、犬依存といっても、犬であれば何でもいいわけではない。富士丸の代わりはいないと今でも思うし、大吉と福助という私にとって特別な存在が増えただけだ。

 もし今、犬がいなくなったことで意欲がなくなってしまった人は、自分が犬依存症だと自覚した方がいい。そう諦めて新たな出会いを求めるか、慣れるのを待つか、選べばいいと思う。富士丸がいなくなったとき、「また犬を迎えた方がいいよ」と勧めてくれた人はいたが、とてもそんな気持ちにはなれなかった。けど今は、勧める気持ちは分かる。

馬のアキレスが大好物だった富士丸

 大吉は11歳、福助は9歳になったが、いずれ別れが訪れるのだろう。ときどき考えたくないことを考えるが、たぶん慣れはしない。また谷底に落ちるのだろう。でも、また犬を迎えるつもりだ。もう犬がいないとつまらない犬依存症になってしまったから。富士丸のせいだな、これは。

【前の回】保護犬猫を迎えるときは  「救ってあげる」ではなく「救ってもらう」くらいでいい

穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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