「おばちゃん、うちの猫は僕だけでいいんじゃない」(小林写函撮影)
「おばちゃん、うちの猫は僕だけでいいんじゃない」(小林写函撮影)

同居猫探し 条件に合う猫を見つけるも、初対面の印象は「ちょっと違ったかな」

「はち」を迎えて2年が過ぎた春、私は、はちの同居相手となる猫を保護猫の中から迎えようと考えた。

「はちと同じ猫エイズキャリア猫であること」「推定8歳のはちと歳が近いこと」「できればメスであること」「猫エイズキャリア以外の疾患は持っていないこと」「人慣れしていること」という5つの条件を設定。信頼できそうな保護団体のウェブサイトを検索し、条件を満たす保護猫を探していたとき、SNSに1匹の猫の情報が流れてきた。

(末尾に写真特集があります)

本命の予感

「人慣れしていて甘え上手、おとなしくて手のかからない三毛猫みーちゃん(推定9歳)が家族を募集中!」

 三毛猫で「みーちゃん」という名前だからメスだ。記事の見出しだけで、すでに3つの条件をクリアしている。

 そのSNSは、都心部でボランティア活動を行うB会という保護団体のものだった。この団体から猫を譲渡してもらった友人に「会の方にとてもよくしてもらった」と聞いていたため、SNSをフォローしていた。

 記事を読む。約8年前、1歳ぐらいのときにB会のボランティアが捕獲し、不妊手術ののちにリリースし、地域猫として世話をしてきたそうだ。みーちゃんは人見知りせず愛想がよく、地域のアイドルだった。だが周囲の環境の変化など、さまざまな事情により保護することが決まり、B会で「ずっとのおうち」を探すことになったという。

 はちも地域のアイドル猫として、外で長く生活していた。過ごしてきた環境が似ているのはいいかもしれない。私ははやる気持ちを押さえ、健康状態について箇条書きになっている部分を読んだ。

「ぽんた兄さんと僕以外の猫に、この家の敷居をまたがせたくないな」(小林写函撮影)

「駆虫済み」「ワクチン接種済み」「猫白血病陰性」に続き、「猫エイズ陽性」の文字。

 さらに「獣医師さんには5歳ぐらいでは?と言われるほど健康状態は良好です」との注釈がついていた。

 私はスマホを握りしめ、小さくガッツポーズをした。残り2つ、もっとも重要な条件がクリアした。大声を上げなかったのは、自宅近所のカフェにいたからだ。

 首を少しかしげて目線を送ってくる写真のみーちゃんは、くっきりとした3色の三毛柄で、ふっくらしており性格も穏やかそうだ。

 私はさっそく、みーちゃんに興味がある旨、SNSを通じてメッセージを送った。すぐに丁寧な返信が届き、何回かやりとりののち、5日後、会いに行くことが決まった。

みーちゃんと対面する

 インターネット等で見て気に入った保護猫に実際に会いに行くことを「お見合い」と呼ぶ。

 この年は桜の開花が早く、すでに花が散り始めた3月下旬、私はみーちゃんとのお見合いのため、地下鉄とJRを乗り継ぎ、B会の人たちと待ち合わせた駅に出かけた。

 この日まで私は、みーちゃんの写真や動画をB会のSNSで繰り返しながめていた。

 SNSでやり取りをしたGさんに会い、同会のSさんとMさんを紹介された。2人は、外で長くみーちゃんの世話をしていたという。大事な「娘」のお見合い相手がどんな人間か、見定めるために同席するのだと思われた。

 Gさんは私より少し年上で、Sさんは同年、Mさんは少し年下、という印象だ。3人とも気さくで感じがいい。

「僕より遊び方がかわいい猫はいないと思うよ」(小林写函撮影)

 3人で「一時預かりボランティア」のIさん宅に向かう。一時預かりボランティアとは、保護した猫を譲渡先が決まるまで自宅で世話をする人のことをさす。

 仕事を引退し、1人で暮らしているというIさんの自宅は、由緒ある神社を見下ろすマンションの6階にあった。玄関には季節の花が飾られ、通されたこぢんまりとしたリビングには、陽がさんさんと差し込んでいた。

 その中央に2段ケージが置かれ、ケージの天井から吊り下がったハンモックの中にみーちゃんはいた。

 香箱を組んでじっとこちらを見ているみーちゃんは、想像していたより小柄で、目つきが鋭かった。明るいので瞳孔が縦に細長くなっているせいかもしれない。写真や動画での印象とは違って、気が強そうだ。

 ケージの扉は開けてあった。普段は、夜以外はリビングで自由に過ごさせているそうだが、今日はお見合いなのでケージの中に入れた、とのこと。

「抱っこが好きな猫なんですよ、どうぞどうぞ」とSさんとMさんが口々に言い、Iさんがケージからみーちゃんを出した。

「僕より寝姿がかわいい猫はいないと思うよ」(小林写函撮影)

 実は私は、猫の抱っこが得意ではない。先代猫の「ぽんた」もはちも、抱っこを嫌がるため、ほとんど経験がないからだ。緊張しながら、ぎこちない手つきでみーちゃんを受け取る。

 はちに比べるとずっと軽い。顔、特にあごと口が小さく、オス猫としか暮らしたことがないので、女の子とはこういうものか、と思う。

 しかし私の抱き方が下手で、お尻をちゃんと支えられていないため、みーちゃんは後ろ脚を前方にのばしたまま半分仰向けになったような不自然な格好になっている。明らかに居心地が悪そうだが、どう体勢を立て直してやったらいいのかわからない。

 はちなら、激しくからだを動かして腕から飛び降りるところだろう。だが、みーちゃんは微動だにしない。うれしそうでも、嫌そうでもなく、目線を空に向け「どーとでもしてちょうだい」というような表情をしている。

 ちょっと違ったかなと、そのときは思った。

【前の回】「はち」の同居猫探し 会えば情が湧き、感じるのは迎えられない後ろめたさ

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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