特に何もないなーというときの富士丸
特に何もないなーというときの富士丸

保護犬猫を迎えるときは  「救ってあげる」ではなく「救ってもらう」くらいでいい

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

富士丸を迎えることにした経緯

 今から20年ほど前、2002年に先代犬の富士丸を迎えたとき「保護犬」という存在はまだほとんど知られていなかった。当時からそういう活動をしていた団体はあったが、少なくとも今ほど浸透していなかった。そういう私もたいして知らなかった。なのになぜ譲渡先を募集されていた富士丸と出会ったのかというと、子どもの頃の経験からだ。 

 私は大阪府豊中市の庄内出身で、駅前はそれなりに栄えていたが、駅から徒歩15分ほどの実家があるあたりは田んぼや空き地、工場などがぽつりぽつりある寂れたところだった。そこで幼少期を過ごした私は、空き地にいた子犬を拾ってきては、親に「うちで飼っていい?」と頼み込んだりしていた。だから犬はペットショップで買うものではなく、拾うか知り合いからもらうものだったのだ。

 だから大人になり、妻(当時は一度目の結婚「ひとりと一匹(小学館文庫)」参照)から「犬が欲しい」と言われたときも、ペットショップで買うという選択肢はなく「いつでも里親募集中」というサイトで犬を探すことにした。

富士丸と暮らしていた初台の1DKのマンション(当時はeMacだったのか!)

粗悪な環境からやって来た富士丸

 そこでなんとなく気になる子犬を見つけ連絡したところ「取りに来てください」と言われ、教えてもらった住所へ向かうと、千葉県の田舎の方の周囲には何もないところだった。

 そこはあちこちのケージにビーグルやその他純血種と思われる子犬がすし詰め状態で入れられており、「なんだここは」と思っていると動かなくなったキャンピングカーに案内され、その中にもケージに入れられた子犬がたくさんいて一番奥のスペースに柵があり、何匹か子犬が入れられていた。

「そこにいる中から好きなの連れてって」と言われた。のぞいてみると、そこにはハスキーっぽかったりシェルティーっぽい子犬がいた。

 サイトで見た事前情報では、コリーが柵を壊してハスキーをはらませて産まれた子犬とのことだった。ようするに「売り物にならないからもらって欲しい」ということらしい。当時はペット業界の裏事情などほとんど知らなかったが、今思えば「パピー工場」のようなものだったのだろう。

子犬時代の富士丸の写真はほとんどない(理由はそもそもデジカメを持っていなかったから)

 柵の中にいるミックス犬たちは、大きさも見た目もそれぞれだったが、キャンキャンほえる元気な子犬たちの奥に、体が一番小さくおびえたような顔で固まっているやつがいた。よく見ると、目だけ青い。なぜがそいつが妙に気になり「こいつ、連れて帰っていいですか?」と聞いた。

 書類やサインは一切なく「はいどうぞ」で終わりだった。今では考えられないことだが、それが富士丸との出会いだった。

何も言わなくてもなんとなく意思疎通が出来る仲に

あの濃密な7年半

 結果的に悪徳ブリーダーから彼を救ったのかもしれないが、そんな意識はまるでなかった。子どもの頃の感覚で、ただ犬をもらって来たというだけだ。

奥多摩の渓谷で釣りをする私とジャバジャバ入ってポイントを荒らす富士丸

 富士丸を迎えてみて、犬を飼うのは子どもの頃と全然違うと分かった。散歩やゴハンを親にまかせていたときとは違い、全責任を負うということと、それに伴い距離がすごく近いと知った。いたずらや言うことを聞いてくれないことに悩んだ時期もあるが、次第に信頼関係が出来上がっていき、富士丸が誰よりもいとおしい唯一の存在になっていった。救ってあげるどころか、どれだけ救われたか分からない。7歳半で突然死してしまったが、あの一緒に暮らした7年半は私の人生の中でもかけがえのない時間だったと、今でも思う。

富士丸のために山に家を建てようと下見に行ったとき

 恐らくこれは、私に限った話ではなく、犬と暮らした人はみんな似たような感覚があるのではないかと思う。心の中にずっといて、たぶん一生忘れることはない。

富士丸の死から2年半の空白を経て

富士丸の反省から大福の子犬時代の写真は腐るほどある

 その経験もあって、大吉と福助も「いつでも里親募集中」で出会った。大吉は放し飼いの犬がよその家の犬に産ませた子犬で、福助は野犬でうろついていたのを捕獲され動物愛護センターに収容されていた子犬だ。

わが家に来たときの福助(極度の人間不信)

 どちらを迎えるときも「俺が救ってあげる」という感覚は一切なかった。むしろ、逆に救ってもらいたかったと言ってもいい。

 そんな大吉はもう11歳、福助は9歳になるが、富士丸と同じように彼らはなくてはならない存在になっている。そしてやっぱり彼らがいたから救われたと思うことが多い。

最初から超フレンドリーだった大吉

 崩壊寸前のブリーダーや粗悪な環境にいる犬(猫)たちを見て、救ってあげたいと思う人もいるかもしれないが、実際には自分が救ってもらうくらいに考えた方がいいと思う。救ってあげたい気持ちも分かるし、不幸な犬たちを減らしたいと私も願っている。しかし個人では限界がある。

 何より「可愛そう」という動機だけで行動すると抱えきれなくなって最終的に破綻(はたん)するのは目に見えている。だから、犬を迎えたいならペットショップで「買う」以外にも、譲渡先を募集しているところから「飼う」方法もあるよと、富士丸と暮らし始めてから書いてきた。

来てすぐ大吉が大好きになった福助

 富士丸の頃とは時代は変わり、今では譲渡先の募集に応募すると、審査がかなり厳しくなった。プライベートなことをズケズケ聞いてくる保護団体の態度に嫌気をさすという話もときどき耳にする。しかしそれは保護した犬に二度と同じ思いをさせないという強い意思があるからだ。

 応募する方からしたら「そんなわけないだろ」と思うかもしれないが、実際に世の中には善良な人ばかりではなことを保護団体は知っているから、厳しく審査するのだろう(その辺りのことを話した動画はコチラに公開されています)。

 だから応募するときは、「自分は試されている」くらいに思った方がいいと思う。そして、救ってあげたいではなく、救って欲しいくらいの感覚でいいと思う。たぶん恐らく、きっと、その通りになるはずだから。

今でもガキンチョな福助とお兄さんの大吉

【前の回】“人間関係”なんて狭い世界 犬がいるだけで心が落ち着き、規則正しくなる

穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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