ドヤ顔でやりたい放題のポメプー　他の子と比べずに向き合ったら素直で甘えん坊に変化

　家の中を爆走し始めたら止めることもできないほどのハイパーなポメラニアンとトイプードルのミックスの子犬が、ＵＧ　ＤＯＧＳアトラスタワー中目黒店（以下ＵＧ）にやってきた。賢さゆえの頑固さは、高橋信行店長も焦るほど。１週間の社会化お泊まりで、どうなったのか？

　激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。

「『子犬のステレオタイプ』をぶっちぎってくる子犬もいる。比べても意味がない！」

（前回のお話はこちら）

アスリート並に強かった

　暴れてお父さんやお母さんの手にかみつき、血だらけにしていたポメプーのルルちゃん。「お母さんから送られてきた動画のルルちゃんは、月齢４カ月とは思えないほどドヤ顔でやりたい放題。これは早い方がいい。今すぐやらなかったら絶対に後悔する。そう伝えました」

　カウンセリングにやってきたルルちゃんは、お母さんのひざの上で不満げに「ガルル〜」とうなり、手にかみつこうとした。店長は当時のルルちゃんのことをこう振り返る。

「体は小さいのに、瞬発力があり体力も底なし。アスリート並みの体の強さがあり、飛びつきながらかみつく。それも、かむことを楽しんでいるようにすら見えました。これまでたくさんの子犬を見てきましたが、ニュータイプが来た！　と。見た目はポメラニアンとトイプードルのミックスでかわいいのに、中身はヤバい柴犬、みたいな」

　お父さん、お母さんは店長からこう言われたことを覚えている。

「ルルちゃんは自分が一番の『女王さま』になっている。世間を、現実を知った方がいい」

　なかなか厳しいひとことだが、お母さんは「救われた」と話す。

「周りから『そのうち落ち着くから大丈夫』とか『子犬なんだから甘がみは当たり前』とか言われるたびに、私が過剰になりすぎているんじゃないか、私の育て方が悪いんじゃないかと、自分を責めていました。今思うとそれが一番つらかった。だから店長にルルはほかの子と比べて強いと言われ、ルルにとっても私にとっても、やっと理解してくれる人が現れたと気持ちが楽になったのです」

手ごわいルルちゃんに店長もあせる

　しかし、群れの中に入ったルルちゃんが生意気な態度をとり、他の犬たちから厳しく注意される様子にお母さんは驚き、「かわいそう」と思わず泣いてしまう。店長は「大丈夫！　ルルちゃんは激強なんだから」と笑い飛ばし、こう言った。「犬の世界の常識は犬にしか教えられないのです。ルルちゃんも変わる、でも、お母さんもルルちゃんへの意識を変えてください」。その言葉に「この環境ならルルはきっと変わると確信しました」とお父さん。お母さんも「私も変わって強くなろう、と心を決めました」

　こうしてルルちゃんの社会化お泊まりは幕を切った。しばし群れの様子を観察したルルちゃんは、わずか１時間で環境に慣れた。しかし、自分の思うようにいかないこと、ルールに従わされることが気に入らなかったのか、みんなで一緒にやるごはんの前のフセ、マテを断固拒否。ごはんを食べることも拒んだ。お散歩も最初は歩かず、動き始めたと思うとダッシュと止まるを繰り返し、さらに拾い食いも。

「首周りを触られるのも嫌がり、リードやハーネスの付け外しも暴れてかもうとしたので、毎日僕らスタッフで全身を触りまくりました。刺激を与えることと緩めることとを何度も何度も繰り返しやっていくしかない。遠慮は無用。強くて賢いからこそ、これから暮らしていく上での必要最低限のストレスには慣れないといけない」

　お泊まりの中盤を過ぎれば変わるだろう。そう読んでいた店長だったが、ルルちゃんは手ごわかった。「正直ちょっと焦りましたね」。残り１日の段階でもルルちゃんはかたくなで、さすがに頭を抱えたという。心配したお母さんはお泊まりの延長を相談したが、店長は「子犬は最後の最後に状況がひっくり返る奇跡が起きることがある。あと一日、時間をください」と告げ、お迎え前日の朝を迎えた。

　すると、まさに奇跡が。ごはんを完食し、お散歩もスタッフドッグの玲生那のサポートもあってスタスタと歩けるように。ルルちゃんの心の扉が開いたのだ。そしてお迎えの日。フセ、マテもビシッと決めてみせた。その姿に驚き、感動するお父さんとお母さん。店長は「ルルちゃんはプライドが高く『己がルール』みたいなところがありましたが、頭がいいので理解し納得すれば変わる。ルルちゃんの明るさ、賢さを信じてなんとか間に合いました」と胸をなで下ろした。

「ベースはできた。ここからが本当のスタートです」

ステレオタイプに惑わされないで

　家に帰ってきたルルちゃんは、ほとんどかまなくなっていた。毎日お散歩をすること、基本のトレーニングを欠かさないこと、甘やかさないこと、という店長のアドバイスを実践。月齢８カ月ごろには警戒心が強まり反抗期もあったが、１歳をすぎた今、「相変わらず気は強いし、頭がよくズル賢いところもあるけれど（笑）、とても素直になり、何より甘えん坊になりました」とお父さんは目尻を下げ、こう語った。

「ルルも変わったけれど、それ以上に変わったのは僕たち。妻はとても強くなりましたし、ルルのことを考え、話し合い、一緒に出かけ、家の中がにぎやかになり、『家族』になることができた」

　この夏、家族に新しい一員が加わる。お母さんのおなかの中で赤ちゃんがスクスク育っているのだ。「不安もありますが、きっと一緒に成長してくれるはず。ルルがどんなお姉ちゃんになるのか、とても楽しみです。ルルにも子育てに参加してもらえたらいいな」とお母さん。悩みながらもルルちゃんと向き合った経験、精神的に強くなったことは、「子どもを育てていく中できっといい影響があると思います」と笑顔を見せた。

　人間の子どもも、子犬も、当たり前だがそれぞれに性格も個性も違う。わかってはいても、つい比較し不安になってしまう人は少なくない。

「『１歳過ぎれば落ち着く』『子犬なんて甘がみするもの』という周りの人たちからの励ましが、お母さんを苦しめた。育て方が悪いからかもと自分を責めてしまった。でも、他と比べたところで何の意味もありません」と高橋店長はキッパリ。

「世間が考える『ステレオタイプの子犬』に当てはまらない、ぶっ飛んだ子犬たちがうちにはたくさんやってきます。それでもきちんと向き合い、やることをやれば、その強さやハイパーさが光り輝き、家族に幸せな時間を運んでくれる最高の存在になる。でも、強いからこそ早い方がいい。月齢６カ月を過ぎていたらルルちゃんもそう簡単にはいかなかったと思います。常識やステレオタイプに惑わされず、悩んだらすぐに動いてほしいですね」

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高橋信行店長　プロフィール

物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。

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