「もしかして、おでかけ?」の顔
「もしかして、おでかけ?」の顔

多頭飼いを始めるときは優先順位とジェラシーに注意 犬は自分への愛情に敏感

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

何をするのも大吉が先

 この間、『先住犬は新入り犬と仲良くなれる? 多頭飼いになって分かったメリットとデメリット』という話を書いた。が、後になって書き忘れたことがあるのに気がついた。そこで、今回はそのあたりを補足したい。もう一匹迎えたいけど、仲良くやれるだろうかと不安な方は参考にしてください。

 まず前回書き忘れたのは、2匹目である福助を迎えた当時、ものすごく注意していたことがあったのだ。それは、何事も大吉を優先すること。たとえば、散歩に行くときにリードを付けるのも、なでるのも、おやつを上げるときも、何をやるにしても必ず大吉、その次に福助という順になるようにした。

 なぜかというと、犬はプライドが高いからである。普段のほほんとしているようで、実は意外に自分の立場を気にしている。先輩後輩ともちょっと違う、その場においての自分の立ち位置を意識している。

 以前、犬ぞりのドキュメンタリー番組で、餌をあげる順番を間違えると犬たちが大喧嘩を始めたのを見たことがある。同じ犬ぞりのチームでいつも一緒に走っているのに。普段は先頭を走るリーダー各の犬に最初に与え、その次、また次、とあげている分には争い事は起こらない。新人トレーナーがその順を間違えると大喧嘩になった。恐らくそれぞれの立ち位置があり、それが崩れるのが気に食わないのだろう。

いつもちょっかいを出す福助

なぞのルールがある犬社会

 なんて器の小さいやつらだと思うが、よく考えれば人間社会も似たようなものだ。どこの組織やグループにもそれぞれの立ち位置があり、その中で絶妙なバランスと距離感を保ちながら暮らしている。で、なじめなかったり、耐えられなくなると離れる。

 少し脱線するが、たとえばドッグランを思い出して欲しい。ドッグランでは、なぜか先にいた方が偉いという犬界の謎のルールがある。だからある程度の年齢の犬が後から入ると、先にいたそれより若い犬たちが「よぉ、新入り」みたいな感じで寄ってくる。年配犬もどこかちょっと遠慮がちに「ど、どうも」みたいな感じであいさつしているのを見たことがないだろうか。

 犬界がさっぱりしているのは、最初のあいさつが終われば先輩ヅラすることはなく、後は気が合うか合わないか判断し、合えば遊ぶし、合わなければお互い干渉しないだけだ。

 たまに拒否られているのに空気を読まずしつこくちょっかいを出して「ガウ」と怒られたりしているが、これも人間社会でたまに見る光景だ。

けれど大吉は決して本気で怒らない

長男と次男になっていく

 話を戻そう。ドッグランなど一時的な場ならいいが、多頭飼いとなるとずっと一緒に暮らすことになる。しかも自分が望んだわけでもないのに。となると、大吉のプライドや立場をしっかり意識してやらないと、へそを曲げてしまうかもしれない。ひとりっ子で愛情は全部ひとり占めだったのが、分散する(と犬が考える)。その不満の矛先は新入りに向かうはずだからだ。

 本当にそうなるかどうかは分からなかったが、一度崩れてしまった関係を修復するのは難しいはずだ。そう思ったので、福助を迎えてからは何事も大吉を最優先するよう注意した。そのおかげかどうか分からないが、大吉は福助を「しょうがないなコイツ」という顔で受け入れてくれた。福助もそれが当然になっていったので、常に大吉が先でもまったく問題ない。

雪でゴロゴロする福助を「何やってんだろ」と見守る大吉

 唯一、私が大吉に対して不満だったのは、トイレの場所は教えてくれないし、留守の間に福助が家具を破壊しても叱ってくれなかったことだ。帰宅して、破壊されたソファを見て「あぁぁぁぁぁー!!」と驚いていると、大吉がしれっと「あ、それ、オレじゃないからね」という顔をしていた。「わかっとるわそんなこと!」と何度思ったことか。

自分への愛情に敏感な犬

 また、犬は嫉妬深いという一面もある。嫉妬というか、不公平に敏感なのだ。たとえば、こんな実験を見たことがある。2匹の犬を前にした試験官が、一方の犬がお手をしたらオヤツをあげる。次にもう一方の犬にお手を要求するが、してもオヤツは与えない。それを繰り返していくと、オヤツをもらえない犬は、そのうちふて寝してお手をしなくなる。というように、犬は不公平を嫌う。

 他の犬をなでていると「オレもオレも!」と割って入ってくる犬がいたりするが、やっかいなのはジェラシーをストレートに表現する犬がいる一方、表に出さない犬がいることだ。

 大吉は後者で、福助をなでていると、素知らぬ顔で寝ている。が、流し目の奥に「はいはい、そいつの方が可愛いんだよね」という思いが見える。なので、なでるときも大吉が先なのを意識したし、うっかり逆になったときは大げさに「お前も可愛いよぉ〜」と言いながら大吉をワシャワシャしたりする。そういうところには結構気を使った。

今でも大吉の方が力は強いが手加減して負けてやる

トライアル期間がある譲渡先募集

 福助を迎えた当初は本当に気をつけていたが、そのうちだんだんゆるくなっていった。とはいえ、今でも大吉のプライドとジェラシーには気をつけている。福助の自由奔放さは好きにさせているが。

 これはあくまでもわが家のケースでしかないが、犬は、特に先住犬はそういうことを気にするのを意識しておいた方がいいと思う。また、新たな犬を迎える場合、先住犬が望んだわけではないというのも忘れてはいけない。逆の立場になって考えてみると、親が突然ある人間を連れてきて「今日からコイツと仲良くやってくれ」なんて言われたら「はぁ?」となるはずだ。相性もあるだろうし、好き嫌いもある。

 だから、先住犬を優先しつつ、トライアル期間がある保護犬や保護猫の「譲渡先募集」がいいと思う。けれど良く考えたら、うちも福助を戻すつもりはなかった。大吉にとっては迷惑だったかもしれない。だから最善の策を考えて、なんとかうまくやってもらおうとした。犬同士の相性はもちろんあるが、飼い主の接し方も重要だと思う。

 幸いにして、福助は「兄ちゃん大好き」で好き勝手やって、優しい大吉はそんな福助をいつも許し、いとおしく思っているのが見ていて分かる。偉いなぁ大吉は、といつも思う。

ベッドはふたつあるのになぜかくっつく福助

穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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