稲村ヶ崎にて。大吉(左)と福助(右)
稲村ヶ崎にて。大吉(左)と福助(右)

先住犬は新入り犬と仲良くなれる? 多頭飼いになって分かったメリットとデメリット

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

迎える前は不安だらけ

 現在、わが家には大吉(11歳)と福助(8歳)がいるが、多頭飼いは初めての経験だ。もう8年になるのでこれが当たり前になっているが、実は福助を迎える前は不安だらけだった。散歩は同時に出来るのか、食べ物の奪い合いにならないか、やることが2倍になって大変ではないか、そもそも仲良く出来るのか。今回はその辺りについて私なりに実感したことを述べてみたい。

 福助は「ちばわん」という動物保護団体からうちにやって来た。大吉が2歳のときである。千葉県で放浪していたところを保健所に捕獲されたらしい。その子犬を「ちばわん」が引き出し、「いつでも里親募集中」というサイトに掲載していた。それを見たときの第一印象は「おびえた目をした小狐」だった。なんでも捕獲されたとき(※1)のトラウマで、強い人間不信になっており、抱き上げることすら困難とのことだった。

 それでもなぜかすごくひかれたから連絡して、トライアル期間を迎えることになる。トライアルとは先住犬(猫)との相性を見るため一定期間一緒に過ごしてみることで、だいたいどこの保護団体でも設けている。期間は1週間から1カ月くらいで団体によって違うが、その間に見極めてから正式譲渡になる。

 ただ、私は申し込んだ時点から、何があっても乗り越える覚悟で返すつもりはなかった。大吉は温厚で優しいやつなので、まぁ大丈夫だろうと。

わが家に来たときの福助

初対面でまさかの襲撃

 ところが、一時預かりの方に連れられて福助がわが家にやって来た初日に、予想だにしなかったことが起こった。大吉が、まだ子犬の福助に襲いかかったのだ。慌てて引き離したが、幸いケガはなかった。でも福助は完全に怯えて「キャイ〜ンキャイ〜ン」と鳴き叫んでいた。そして、脱糞(だっぷん)した。福助がうちに来て最初にしたことが、ビビリウンチである。

 普段は温厚でドッグランでも常にフレンドリーな大吉が、なぜ襲いかかったのか、そのときは訳が分からなかったし、しょっぱなからこんなんで仲良くなれるのか? と動揺しまくったが、対面した一発目だけで、あとは一切何もしなくなった。今にして思えば、新たな家族になることを察して、最初に一発かましてやる、くらいの気持ちだったのかもしれない。

 こうして新たに加わった福助を、大吉は受け入れた。福助の方は、あんなにビビっていたくせに、大吉のことが大好きになり、いつも後ろをついて歩いていた。だんだん調子に乗って大吉に闘いを挑むようになったが、大吉はそれを軽くいなし、ちゃんと手加減しながら遊び相手になってやっていた。そして正式譲渡になった。

最初はおびえた目をした小狐のようだった

飼い主の負担は増えるか

 福助を迎える前の不安は、実際に暮らし始めると苦でもなんでもなかった。散歩だって一緒に行けるし、食べ物の奪い合いもしない。もともと大吉が食に執着心がない方だっからということもあるが、なぜか福助にも執着心がなく、どちらもゴハンを残したりするから争いにならない。やることが2倍になったかといえばそうでもなく、散歩する時間は変わらないし、作るゴハンの量が増えた程度だった。

机の下から出てこなかったり

 唯一、手を焼いたのは福助の人間不信だった。大吉に対してはすぐに心を開いて「お兄ちゃん大好き状態」になったのだが、私や妻に対しては警戒心を解かなかった。近寄ると逃げるし、抱き上げようとすると牙をむく。

 最初の方は「大丈夫だよぉ〜」と猫なで声を出しながら近づいて、ゆっくり抱き上げるようにしていたが、一週間くらいで面倒臭くなった。攻撃的にかむわけではなく、かんで逃れようとしているだけなので、「かみたかったらかめ」と好きにさせることにした。

ちゃんと手加減してやる大吉

 とはいえ、子犬の歯はとがっているので痛い。だからかもうとすると、手を引くのではなく、口に押し込むようにした。すると「オェ」となって口を開くので、かめない(※2)。それを繰り返していると、かまなくなった。嫌がっても抱き上げるし、全身を触り、なでまくった。

 それは私なりに考えがあったからだ。嫌がるから止めていると、本当に触れない箇所が出来てしまう。そうなると、耳掃除や歯磨きも出来ないし、健康状態をチェックするための診察も受けられなくなる。子犬の頃に「抵抗しても無駄なことがある」と認識してもらわないと、大人になってからでは難しくなる。そのために、あえて嫌がられてもなで回した。

 そのおかげか、次第にどこを触られても平気になっていった(インスタに動画をアップしたが今では爪を切られながらうたた寝するまでに)。

丸くて態度がデカくなった福助

メリットとデメリット

 多頭飼いになって良かったと思うことは、まず大吉の変化だ。それまでは2歳なのに、つまらなそうに寝ていることが多かったが、福助がいることで一緒に遊んだり、走ったりするようになった。そして顔つきが兄っぽくなり、精悍になったことだ。

 8歳なのにいまだにガキンチョでやりたい放題の福助を許し、ときに優しい目で見ている。それをいいことに福助は自由に生きている。そんな光景を「バカだなぁ」と笑いながら眺める。簡単にいえば、やることは2倍になっていないのに、喜びが2倍以上になったように感じる。福助が来てくれたおかげで暮らしに彩りも増えた。

山の家のドッグランにて

 多頭飼いになったことによるデメリットは何かあるか考えてみたが、特にない。しいていえば2頭同時に洗って乾かすのが大変だが、妻と洗う係と乾かす係を分担しているので、そんなに苦でもない。

うまくいかないケースもある

 だからといって、多頭飼いを推奨しているわけではない。わが家の場合はうまくやっているが、仲良くならないケースもあるらしい。私が注意したのは、犬はプライドが高いので、当初は何をするにもまず大吉が先ということを意識したくらいだ。そのおかげか、大吉の心が広いからかは分からないが、本気でけんかしたことは一度もない。良く考えれば、それもすごいことだなと思う。

 また、多頭飼いをするにあたってはトライアル期間のある保護団体からがいいとは思うが、以前にも書いた通り、実は保護団体から犬や猫を引き取りたくても意外にハードルが高い。でもそれにはちゃんと訳があってのことだと理解しておけば、アンケートで踏み込んだ質問に腹を立てたりしないと思う。

今年の初雪にはしゃぐ大福

 多頭飼いになり面白いなと思ったのは、犬にもちゃんと個性があり、好き嫌い、得意不得意などが全然違うのが分かることだ。雷や花火にブルブル怯えまくる大吉の隣で福助が爆睡していたり、ドッグランで誰とでもフレンドリーに接する大吉とは対照的に、福助がポツンと孤立していたり。

 そして何より、11歳と8歳になるのに、いまだに一緒に仲良く走り回っているのを見られるのがうれしい。

雪遊びを楽しんでご満悦のよう

(※1)保健所の職員さんは悪くないです。
(※2)本気でかむつもりの犬にこれをまねすると危険です。

【前の回】犬の写真はたくさん撮っておくべき 人に見せるためではなく、自分のために

穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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