ボルソナロからルラ政権に変わることは動物にも朗報か? ブラジルの動向を追う
2022年10月30日、ブラジルの次期大統領が決定し、2023年1月1日からルラ大統領による新たな政権が発足する。ブラジルの自然をひたすらお金に変えてきたボルソナロ大統領の人気が終りを迎える。環境保護団体は大きな勝利として喜んでいる。
ルラ次期大統領は、環境問題を大きな争点として選挙中の公約にもブラジルのアマゾンの熱帯雨林と重要な生態系を保護することを掲げてきた。ルラ次期大統領は2003年から2010年までの期間を大統領として政権を握ってきているが、その間にも最終的に森林破壊を大幅に削減してきた実績を持つ。
だが、動物たちの苦しみを減らすという観点で見たときに、どうなのか。彼の発言や実績などから予測してみよう。
動物を守る意図はないけれど飼料生産は減る可能性
ルラの動物福祉や動物に配慮するといった発言を見つけることは難しかった。むしろボルソナロ大統領は犬猫の虐待についての法改正を行った実績を持つ。
またルラ政権にしてもボルソナロ政権にしても、すでにブラジルの食肉企業にとってアニマルウェルフェアはビジネス的要因の大きな部分を占めており、それらを阻害するようなこともなく、企業は着実にアニマルウェルフェアを上げてきていると言える。1960年代から進んできたのだから、アニマルウェルフェアを上げ続けることはもはや前提事項なのだ。さらにルラ政権になれば停止してしまっていたEUとメルコスール4カ国の自由貿易協定が実現されると予測されるため、アニマルウェルフェアはさらに上がっていく可能性が高い。
一方で、動物性タンパク質を減らすという取り組みはどうだろうか。南米で大きな問題である、大豆の生産による森林破壊への影響に言及しているのかどうかを見てみたい。ルラ次期大統領は大豆の生産について言及しているが、動物のための飼料には言及していない。バイオディーゼル、つまり大豆の19%しか占めていない油に言及をし、残りの81%を占める大豆粕のほうはあえて発言から外しているようにみえる。
ルラ次期大統領は、2006年に大豆モラトリアムという、大豆のためにアマゾンを破壊した場合その大豆を仕入れてはいけないという企業間の誓約を支援した。しかし、この誓約には抜け穴があり、牛肉のために森林破壊したエリアを大豆畑にすることは許されている。そのため、実際には森林破壊を1.6%しか防ぐことができなかったと報告されている。公式に出てくる大豆による破壊面積はかなり小さく見積もられてきたのだ。
結局、大豆モラトリアムによって、森林破壊や気候危機の原因の中に飼料=工場畜産があるという事実を多くの人が見過ごす原因を作ったとも言える。もちろん善意だったのだろうが……。
一方で、ルラ次期大統領は、前政権時代の就任直後の2003年に遺伝子組み換え大豆を巡る論争を最悪な形で終わらせ、ラウンドアップ ・レディ・グリホサート耐性(RR)の大豆を認可し、その後もGMO大豆の流通を緩和させてきたという過去を持つ。強力な除草剤に耐性を持った大豆、そして遺伝子組み換え大豆が広まっていったことにより、この後ブラジルは大豆生産量を一気に伸ばし2020年に世界一位になった。言うまでもなく、大豆の74%は世界中の工場畜産の中で苦しむ鶏、豚たちの餌になっている。
世界の森林破壊をゼロにする必要がある
アマゾンだけでなく、どの目的でもどの地域でも、すべての森林破壊をゼロにする必要がある。ルラ次期大統領は2030年までに「森林破壊ゼロ」を達成すると発言している。これが達成すると、飼料生産はブラジルの手から離れていく可能性はある。
ブラジルの経済は森林破壊によって成り立っている部分が大きい。すぐに森林破壊ゼロになるわけでもないとはいえ、今後どのように森林を破壊して儲ける仕組みから変換させるのか、それにより、動物の犠牲がどれほど減っていくのか、ブラジルから飼料を得ている日本のような国や企業はどのように動くのかは、注意して見守る必要がある。
ルラ次期大統領が動物への配慮をしようとしているわけではないことにも注意が必要だ。
(次回は2月13日公開予定です)
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。