「昼寝をしてたら、食べ損ねたアジフライのこと思い出しちゃった」(小林写函撮影)
「昼寝をしてたら、食べ損ねたアジフライのこと思い出しちゃった」(小林写函撮影)

迫る出発の日 点眼に食事のこと、愛猫「はち」の留守番に心配は尽きなかった

 元野良猫「はち」を家に迎えて8カ月が経った頃、4泊5日の予定でツレアイと2人で家を空けることになった私は、初めてペットシッターを頼み、はちを家で留守番させることにした。

 インターネットでみつけた自宅近所に住むNさんに依頼することが決まり、出発が2日後に迫った日の朝、はちが右目をしょぼしょぼさせていたので動物病院に連れて行くと、眼球に軽く傷がついていることがわかった。ただ重傷ではないので、1週間、目薬をさしていればよくなる、とのこと。点眼薬が処方されたが、3日目以降、私は点眼ができない。

(末尾に写真特集があります)

留守中の点眼に思いは巡る

 投薬は、シッターさんに頼めるものなのだろうか。あるペットシッター会社の規約には「フードに混ぜて与えられるもの以外は、お引き受けできません」と書かれていた。初回の打ち合わせ時には特に気になる症状などなかったから、Nさんには確認しなかった。

 もし点眼を頼めない場合はどうしようかと不安になる。動物病院からの帰り道、はちの入ったキャリーバッグを荷台にくくりつけたまま歩道に自転車を止め、私はNさんに電話をかけた。

「点眼ですか、本来は初回お打ち合わせ時でのご依頼でないとお受けしていないのですが……。はちちゃんは、目薬をさせてくれる子ですか?」とNさん。

「やったことがないので、わからないのです。今日帰ったら、やってみます」と私。

「人懐っこいので、からだに触れられるのは大丈夫そうですよね。ただ、おうちにはソファの下など隠れる場所がたくさんあるので、目薬をさされることを察して、隠れてしまう場合は難しいかもしれませんね」とNさん。

 点眼を頼んだ場合は、1日につき数百円のオプション料金が発生するという。Nさんから提案されたのは、確実に点眼ができた場合のみ課金する、というプランだった。

 ぜひお願いしますと言って電話を切り、帰宅後、早速点眼に挑戦した。出発までの2日間、薬が効いて症状がある程度改善されれば、安心してNさんに託すことができる。

「僕いま真剣にアジフライについて考えてるんだ」(小林写函撮影)

 やり方は、猫の飼育本とインターネットでの解説を参考にした。右手に点眼薬を持ち、後ろから回り込んではちのお尻を自分のお腹にくっつけるようにし、左手であごの下あたりをしっかり支える。そのまま少し顔を上に向かせ、点眼薬を持った手の薬指と小指で上まぶたをそっと持ち上げ、薬を1滴落とす。

 猫が怖がらないように、背後に回って行うことと、猫から目薬が見えにくい方向、目の斜め上あたりから垂らすのがコツだそうだ。

 理屈ではわかるが、実際はそう簡単にはいかない。

 目薬は、抗生物質入りと、そうでないもの、2種類を投与しなければならない。初回の1種類目は、はちは訳もわからず、されるがままに受け入れてくれた。だが2種類目を投与するためにからだを固定すると、何をされるか察したらしく、からだをよじってするりと逃げた。

 ソファの下に潜りこもうとするはちの、お尻を掴みずるずると引っ張り出す。

「この辺にアジフライとか転がってないかな」(小林写函撮影)

「いやだー」と意思表示しているような「ほにゃー」という鳴き声。心を鬼にして耳を貸さないようにし、再びはちを固定し、2種類目に再度トライ。うまく入った!と思ったと同時にはちが頭をぶんと大きく振ったので、せっかくの薬が飛び出してしまった。

 もう1回捕まえて再挑戦。今度はなんとか成功したようだ。「とーってもいい子だった!」と言いながら頭をなでる私の手を振り払うように、はちはソファの下に潜りこんでしまった。

 私は立ち上がり、少量のウェットフードをのせた食器を持ってきてソファの横に置いた。

 点眼の直後に猫の好きなおやつを与えると、目薬にいい印象を持つこともあると、どこかに書いてあったからだ。

気がかりなことがもう一つ

 はちの長所は、屈託がないところだ。1分もしないうちにソファの下から這い出してきてフードを平らげると、喉をゴロゴロ鳴らしながらからだをこすりつけてきた。

 点眼は嫌がるが、かみ付いたり引っかいたりして抵抗することはない。

 それで私も心を強くし、朝晩2回行うのが理想と病院で言われた任務をなんとか出発までこなした。完璧ではないにしろ、一応薬はちゃんと目に入っていたらしく、右目の「しょぼしょぼ」は2日間でほぼ改善された。

「おじちゃん昨夜アジフライ食べたでしょ」(小林写函撮影)

 はちのことで気になることはもう一つあった。食事だ。

 食いしん坊のはちは「残す」ということを知らず、フードがあったらあっただけ食べてしまう。だから普段は、小分けにして与えている。

 Nさんが来るのは1日1回、そのときに1日分のフードを置いていってくれるが、ほぼ一度に平らげてしまうことは間違いない。その後24時間、誰もいない家でご飯を待つのは、自業自得とはいえ、かわいそうだ。

 そこで私は、しばらく使っていなかった自動給餌器を登場させることにした。先代猫「ぽんた」が一時期使用していたものだ。

 ただ問題は、この給餌器が蓋付きの容器が2つ並んだトレータイプで、1日2回しか給餌ができないことだ。もっと性能のよい給餌器に買い換えておくべきだったが、迷っているうちにそのままになってしまった。今回は、これで様子を見るしかない。

 出発の日の朝、フードをセットしていると匂いを嗅ぎつけたはちが寄ってきて、給餌器のまわりをウロウロする。

「明日から3日間、Nさんが来てくれるから、いい子でお留守番していてね」と、いつもの外出時より長く別れを惜しむようにはちをなで、家を出た。

(次回は12月15日公開予定です)

【前の回】寂しがりやの猫「はち」 留守番はホテルをやめてペットシッターに託すことに

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

sippoのおすすめ企画

sippoの投稿企画リニューアル! あなたとペットのストーリー教えてください

「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!

この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
Follow Us!
編集部のイチオシ記事を、毎週金曜日に
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。


動物病院検索

全国に約9300ある動物病院の基礎データに加え、sippoの独自調査で回答があった約1400病院の診療実績、料金など詳細なデータを無料で検索・閲覧できます。