人生を変えてくれた保護犬との濃厚な10年の軌跡 今も深いところでつながっている

つばきさんがお作りになったお洋服を着て行った最後のドッグカフェにて。支えていないと倒れてしまうのでずっと抱っこしていたそう(つばきさん提供)

 いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。

 2020年9月にワイヤーフォックステリアのふるむちゃん(享年14歳)をお見送りしたつばきさん。10年という歳月を共にし、つばきさんの人生を変えたという愛犬ふるむちゃんについて、譲渡された当時から現在にいたるまでのお話をお聞きしました。

(末尾に写真特集があります)

3~4歳で迎え、14歳で虹の橋を渡った愛犬

――つばきさんは約2年前に愛犬を亡くされたとお聞きしていますが、なぜ亡くなったのでしょうか?

 死因は特定できていません。亡くなる2~3週間前に、口腔(こうくう)内メラノーマが見つかったのですが、本当に気が付かない程度のものだったので、それが直接の原因ではなかったようです。保護犬で、正確な年齢がわからなかったのですが14歳くらいだったので、最期は老衰だったのかなと思います。

――ペットロスはありましたか?

 ありませんでした。やれることはやったと思いますし、ふるむ自身が逝くときを決めたのだと思いました。

 亡くなる10日ほど前から寝たきりになり、食べなくなって1週間、私が点滴を自宅で行い、最後の3日くらいはほぼ昏睡(こんすい)状態でした。その10日間はリビングでずっと私も一緒に過ごし、私が彼女の死を受け入れる準備ができるまで待ってくれて……。最後はただただ「ありがとう」という感じでした。すがすがしい気持ちでした。

歩行器に乗っていた、亡くなる2カ月くらい前のふるむちゃん(つばきさん提供)

秩父の山の中で保護され、直感でお迎えした

――保護犬だったふるむちゃんをお迎えされた経緯は?

 保護犬の譲渡先募集サイトを見ていて、「この子だ!」と感じ、夫にも相談せず、すぐ保護団体に連絡しました。「テリア飼いの経験がある方が好ましい」と書いてあったのですが、とんとん拍子に話が進み、テリア飼いの経験のないうちが引き取ることになりました。

――どこで保護された子だったのですか?

 秩父の山の中で保護されたと聞いています。警察が見つけて保護して、保健所にいたそうなのですが、羊のように毛が伸びていて、半年くらいは山の中にいたのではないかとのことでした。保健所から保護団体が引き出し、そちらから譲渡していただきました。その時の年齢が推定で3~4歳くらいでした。

――ふるむちゃんはどんな子でしたか?

 ちょっと変わった子でした。自傷行為がある子だったんです。普段はとてもおとなしく、ほえることもなく、あまり感情の抑揚のない子で。でも何かスイッチが入ると、自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回り始めるんです。気が付いたら家中血まみれ、ということもありました。

 スイッチが入ったときは本人の意識が飛んでしまっていて、止めようとする私の手が視界に入ると、私の手をかむので、私の手も血まみれになり何度も病院へ行きました。しばらく上手に止めることができなかったのですが、数年かけて習得し止めることができるようになりました。

――自傷行為はつばきさんが引き取ってから始まったのでしょうか?

 いえ、保護団体の方が保健所から引き取って、自宅で保護しているとき、気が付いたら自分で自分の尻尾をかみち切っていたそうです。そのまま病院へ連れていき、手術をして、飲み込んだ尻尾を胃から取り出したところ、3~4節飲み込んでいたとのことでした。

ふるむちゃんが保健所から引き渡された当時。保護団体のボランティアの方が撮影した一枚(つばきさん提供)

愛犬のために作った洋服をきっかけに販売を開始

――現在はドッグウエアの製造、販売をされていらっしゃるとお聞きしました。

 ふるむの介護が必要になってから、ずっと一緒にいてあげたいなと思い会社を辞めました。そのころシニアになったふるむに合う洋服がなかなか見つからず、自分でふるむの洋服を作り始めました。もともとアパレル関連の仕事をしており、服飾の専門学校に行っていたので縫製も自分でしていました。ふるむが与えてくれた、私の人生の転機でした。

――それが現在のお仕事につながっているのですね。

 ふるむのために作った洋服を原型とし、テリア、トイプードル、ミニチュアシュナウザ―など胴が長い体形の子のための洋服を製造販売しています。ここ最近では、大手デパートに商品を納品するようになりました。

――つばきさんはふるむちゃんの死を乗り越え、前に進んでいるのですね。

 そうですね、乗り越えてというより、一緒にまだいる感じで、「死んじゃったな」とかはないですね。いた時と変わらない感じです。実際にいないことに「ポカーン」とすることはあっても、それ以外は変わりません。今もずっと深いところでつながっていると思います。彼女は私たち夫婦の人生を変えた大きな存在でした。

つばきさんがふるむちゃんのために最初に作ったお洋服を着て寝ている様子(つばきさん提供)

 秩父の山から救出され、つばきさんご夫婦の愛情を全身全霊で受けながら10年間を過ごしたふるむちゃん。ふるむちゃんは幸福感に包まれ、息を引き取ったのだなと筆者は感じました。

【前の回】「私の師匠でベストパートニャー」 21歳で旅立った愛猫が見せた生き様とは?

岡山由紀子
某雑誌編集者を経て、2016年からフリーのエディター・ライターとして活動。老犬と共に暮らす愛犬家。『人とメディアを繋ぎ、読者の生活を豊かに』をモットーに、新聞、雑誌などで執筆中。公式サイト: okayamayukiko.com

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この連載について
ペットの死に向き合う
いつか来るペットとのお別れの日。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。みなさんの思いを伺います。
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