介護スペースのケージで目覚めると大声で相崎さんを呼び出す姫気質のステラ
介護スペースのケージで目覚めると大声で相崎さんを呼び出す姫気質のステラ

老猫ホームとホスピス併設の保護猫カフェ 困っている猫が穏やかに暮らせる場所に

 全国からの多大な支援を受けて誕生した「ちよだニャンとなるc a f é 神田神保町」(※sippo編集部注:9月1日から名称を「オープンシェルターbyちよだニャンとなる会」に変更)は、老猫ホームと終末期の猫を看取るホスピス機能を持った譲渡型保護猫カフェ。オープンから約半年が経った現在の様子を見に行ってみた。

(末尾に写真特集があります)

高度に都市化した千代田区の猫事情

「ちよだニャンとなるc a f é 神田神保町」は、書店やオフィス、学校が並ぶ神田神保町の小さなビルの4階にある。大きな交差点に近く陽当たりのいい店内にはやんちゃな1歳半から落ち着いた8歳までの個性的な猫たちが思い思いの場所でくつろぎ、奥の介護スペースには耳が聞こえず多くの病気を抱えたステラ(推定15歳♀)がいる。このカフェを運営している「一般財団法人ちよだニャンとなる会」は、千代田区と協働して20年に渡り保護猫活動をしてきたが、最近になってこれまでの活動では対応できないケースが増えてきたという。

大きな窓のある明るい空間で遊ぶ猫たち。右は介護スペース入口。階段状のかくれんぼボックスは横を全開にして掃除できる

「フードの質も上がって地域猫の寿命も延び、去勢・避妊してリリースした猫たちの多くが高齢になってきました。さらに都市化が徹底的に進み、地域猫が雨風や寒さ暑さなどの気象条件から身を守れる場所が道路脇の植栽しかないといったケースが現れはじめました。そこで、厳しい環境で生きている猫を保護し、譲渡型の猫カフェを秋葉原にオープンさせたのですが、今度は譲渡できない老猫や傷病猫のための場所が足りないという問題が表面化しました。コロナ禍で在宅勤務が増え、オフィス周辺の地域猫が心配という声もあり、早急な対応が必要になりました」と、ちよだニャンとなる会事務局長の古川尚美さん。

クラウドファンディングで届いた全国からの支援

 ちよだニャンとなる会は、街で暮らすのが難しくなってきた地域猫のために「老猫ホーム&ホスピス併設のカフェを神保町に!」というクラウドファンディングを昨年12月に立ち上げる。1ヶ月も経たないうちに700万円という第一目標をクリアし、最終的にはその倍以上の1500万円近い支援を得ることができた。

天井に近いキャットウォークの窓から顔だけ出したチタン(推定1歳半♂)は秋葉原の高架下で保護された兄弟猫のひとり

「千代田区という狭い地域に限定した猫のために、全国の方からこんなにも多くのご支援をいただけるとは思っていませんでした。困っている猫が幸せに暮らせるようにというメッセージに加え、猫を助けてくれてありがとうという感謝の気持ちを伝えてくださる方がたくさんいらしたことにも感激しました」と、古川さん。

 今年2月22日のオープン以来、店には支援してくれた人が大勢遊びに来てくれた。ここの猫たちが地域猫だった頃に気にかけていた人が通ってくれることもある。カフェで猫を通じた新しいつながりが生まれ、地域猫に対する理解も広がっていく。驚いたのは近所の小学生が毎日のようにやってきてくれるようになり、猫たちもその子が来るのを楽しみに待って甘えるようになったこと。カフェは、子どもが猫と、そして猫が子どもと付き合う方法を覚える貴重な場所にもなったのだ。

段差の低い階段が床から続いているので、ジャンプできなくてもカウンターやキャットウォークに上がれる

どんな猫も快適に過ごせるように

 現在、店内の介護スペースにいるステラは、神田のビジネスホテル周辺にいた地域猫。耳が聞こえなくなり、体調を崩した時期にコロナ禍が重なり、面倒を見てくれていた方の出勤頻度が減って以前のような手厚いケアが難しくなってきた。相談を受けた古川さんが様子を見に行くとステラはボロボロの身体で呆然としており、すぐに保護してカフェに迎えた。

保護される前のステラ。満身創痍の状態だった(写真提供・ちよだニャンとなる会)

 最初のうちは1日23時間も眠って過ごし、目が覚めると大声で人を呼んで甘えた。耳が聞こえないのでどうしても大声になり、人が見えたり、触れたりされると安心するのだ。厳しい生活の疲れが少し癒えてきた最近では、自分でケージから出て介護スペースで爪研ぎをするといった行動も見せるようになってきた。今もトイレでの排泄はできないけれど、店内はどこで排泄してもすぐに掃除して消毒できる部材で作られているので清潔を保てる。介護スペースの壁面には角がなくアールがついているので、目を離した隙によろけてもケガをしにくい。

抱っこしている相崎さんをはじめとしたスタッフのきめ細かいケアによって表情もしっかりしてきたステラ

 店内の設計は連携動物病院の獣医師監修を受け、スペースに対して最適な猫の数を保ち、ケガや病気があれば治療し、治せない病気の場合には最期までできるだけ穏やかに過ごせるよう看取りのケアを行う。実際のケアは大変ですよねと問うと、店長の相崎裕子さんは、「猫によって必要なケア、喜ばれるケアがかなり違い、老猫や傷病猫は老いやケガ、病気という個性があるという感じですね。ステラの場合、病気や障害に合わせたケアよりも、人好きだけど猫嫌いで甘えたい時は待ったなしという性格に合わせる方が大変だったりします」と笑う。

猫にも人にも優しい世界に

 みんなに愛されてきた地域猫も高齢になれば外で暮らすのが難しくなる。ケガや病気で終末期の地域猫には看取りも必要だ。そうした困っている猫が穏やかに暮らせる老猫ホーム・ホスピスを併設した「ちよだニャンとなるc a f é 神田神保町」が誕生し、現在はステラがわがままいっぱいに甘えながらマイペースに過ごしている。

「今回のクラウドファンディングに賛同・支援してくださった方がこれだけ多いことから、同じような施設を作る動きが広がっていくのではと期待しています。命の危機に瀕した猫を見つけた時に躊躇(ちゅうちょ)なく助け、受け入れてくれる施設があれば、猫も人も安心できますよね」と古川さん。

 このカフェがモデルケースになって、同じようなスペースを設ける取り組みが全国の民間・公共施設に広がり、社会全体で一般化していけば、老いや病気に苦しむ猫や、そうした猫に心を痛めている人も安心して暮らせるようになる。古川さんの話を伺って、猫にも人にも優しい世界が未来に開けていくように感じた。

(文・吉澤由美子 写真・じゃんぼよしだ)

ちよだニャンとなるcafé 神田神保町
東京都千代田区神田神保町2-38-10 多幸ビル4F
TEL 070-8957-5840
https://www.chiyoda-hogonekocafe.com
※9月1日より名称が「オープンシェルターbyちよだニャンとなる会」に変わりました

辰巳出版が隔月で発行している猫専門誌です。猫愛にあふれる企画や記事の質に定評があります。

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この連載について
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猫専門誌「猫びより」(辰巳出版)から提供された記事を集めた連載です。専門誌ならでは記事や写真が楽しめます。
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