自宅や散歩中の脱走、ハウスに入らない柴犬 トラブルを防ぎ安全管理をしよう
柴犬は野生動物に近い特性をもっているため、人間社会で家庭犬として暮らす際にトラブルが起きやすい犬種です。他犬と仲良くできない(攻撃的な行動をする)、他人を警戒して吠える、脱走する、呼んでもこない、サークルやクレートに入らない……など、なかには命に関わる危険なトラブルもあります。
獣医師の山下國廣先生は、「柴犬のトラブルには人や犬がからむので、まるで問題犬種のように思われてしまう」と気の毒な一面もあるという見方を示しています。愛犬の柴犬を守るためにも、トラブルを予防する方法と、問題が起きたときの対策を知っておきましょう。
前編では「柴犬は問題やトラブルを起こしやすい?」「他犬と仲良くできない」「他人への攻撃」について予防策と対策をお伝えしました。今回の後編では、「自宅からの脱走」「散歩中の脱走」「ハウスに入らない」をお伝えしていきます。
前編の記事はこちら
トラブル対策(3)自宅からの脱走
家庭犬はいつも時間を持て余しているので、好奇心や探究心でドアを開けたりフェンスの下を掘ったりして外へ出られることを覚えてしまいます。「うちの犬は勝手に出ていかないから大丈夫」と言う飼い主さんもいますが、柴犬はチャンスが巡ってくれば隙を見て脱走します。当たり前のようですが、環境の安全を確認してくださいね。
[トラブルを防ぐためにできること]
・脱走することを前提にドアを開けるときには犬がいないか見る
玄関のドアや門扉を開ける前に周りに犬がいないことを確認する。「階段から降りない」「玄関から出ない」といった思い込みは禁物。
・ペットゲートを設置する
配達員や来客が不意に玄関のドアを開ける場合があるので、犬がいる部屋から玄関までの間に遮るものがない環境は脱走のリスクが高い。ペットゲートなどを設置する。
・門扉やフェンスの安全を点検する
門扉や庭のフェンスに抜けられるところがないか定期的に点検する。係留している場合はワイヤーを定期的に点検する。
・指示が出てから出入りするトレーニング
扉やゲートを少しだけ開けて、犬が出ようとしたら無言ですぐに閉じる。扉を開けても待っていたら「OK」など許可の指示を出して出るように誘導する(日本犬は習慣として確立したことをかたくなに守るので、指示で出ることを習慣にすることが脱走対策において最も重要)。
・「おいで」の練習をする
「おいで(呼び戻し)」の練習をしておくと、柴犬にありがちな呼んでも来ないという問題の解決にもつながります。柴犬は「おすわり」「まて」が得意だけど「おいで」が苦手 トレーニングのコツの「指示のトレーニング3 おいでの教え方」をご参考になさってください。
[もしトラブルが起きてしまったら]
・その場で犬を呼んで自宅へ誘導する
犬の名前を呼んで自宅のほうへ走る。もしくはおやつの袋を見せたりカサカサと音で気をひいたりして犬を自宅や敷地内に入るよう誘導する。
・犬を追い越してからさりげなく近づく
犬が自宅から離れていく場合は、見失わないようにあとをついて行き、においを嗅いでいるときなどを狙って追い越してからさりげなく近づき、とっておきのおやつを与えながら首輪やリードをつけて連れ帰る。追い詰めると接触や拘束への嫌悪感でかみつくこともあるが、周囲が危険な状況であればけがを覚悟で保護する。
トラブル対策(4)散歩中の脱走
柴犬は散歩のときに後ずさりした拍子に、首輪やハーネスが抜けて脱走するトラブルが多い犬種。いわゆる“拒否柴”の状態のときにリードを引っ張ると、スポッと抜けてしまうことがあって危険です。
首輪が抜けるからハーネスにしている飼い主さんの話をよく聞きますが、問題は首輪ではなく犬に合うサイズ調節ができないこと。たとえ首輪とハーネスを両方つけていても、サイズがゆるいままなら安全とは言えません。それにリードをつける支点が2つになるので、犬をコントロールしづらくなります。
[トラブルを防ぐためにできること]
・犬に合う首輪やハーネスを使う
首輪やハーネスを「きつく締めると犬がかわいそうだから」と緩めている飼い主が多い。犬のサイズに合う道具を首輪やハーネスを選ぶ。動物病院やドッグトレーナーに相談するのも一案。
・首輪やリードを定期的に点検する
[もしトラブルが起きてしまったら]
リードの持ち手の中に金具がついている端を通して投げ縄のような形状にし、素早く犬の首にかけて連れ帰る。ゆるい首輪やハーネスでは再び脱走する危険があるので使わない。
トラブル対策(5)ハウスに入らない
クレートやサークルに柴犬を無理やり入れていると、柴犬は「閉じ込められる場所」と認識して入らなくなります。逆に「入りたいけどなかなか入れてもらえない場所」という認識をもたせることが重要なポイントです。多少の手間をかけてもハウストレーニングをしたほうがその後の生活が楽になります。
[トラブルを防ぐためにできること]
・ハウストレーニングをする
犬に首輪とリードをつけ、犬が空腹のときにクレートの中にフードをまいて犬に食べさせる。
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まだ残っているうちにリードを持ってずるずると引っ張り出して扉を閉める。
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犬がクレートの中に残っているフードを食べたくてジタバタしているときに、わざとゆっくりクレートの扉を開き、「まて、まて、まて……OK」などの合図でリードを離す。
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犬がクレートの中のフードを食べて出てきた瞬間、扉を閉めて再びクレートの中にフードをまき、外で10分程度自由にさせる。
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「ハウス」などの指示を出してクレートの扉を開け、フードを食べさせる。
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まいてあったフードを食べきらないうちに、クレートの横の窓からフードを落として追加した後、知育玩具やガム(食べ終わるまでに時間がかかるもの)を入れて、気づかれないようにそっと扉を閉める。
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あとは犬が騒いでも無視。視線も向けず声もかけない。落ち着いたらクレートから出す。
[もしトラブルが起きてしまったら]
・おやつで釣ってクレートに入れる(1回限りの対応)
その場しのぎの対応としては、フードやおやつで釣って入れる方法がある。ただし犬が「食べ物をもらう前に入ったら損だ」と覚えて飼い主が手ぶらのときには入らなくなる。ハウストレーニングがおすすめ。
柴犬の安全を守れるのは飼い主だけ
飼い主さんに改めて知っておいてほしいのは、柴犬は“家庭で飼える野生動物”ということ。飼い主さんが柴犬のキャラクターに合わないことを求めていませんか?たとえば柴犬に「どんな犬とも仲良くしてほしい」と言うのは、ダックスフントに「足が長くなってほしい」、ラブラドル・レトリバーに「番犬になってほしい」というようなもの。柴犬の特性に合う暮らしを心がけるだけで減らせるトラブルもあります。
かわいい表情や愛嬌(あいきょう)のあるしぐさを見ていると忘れがちですが、人間よりも高いサバイバル能力の持ち主です。だからこそ危険が及んだときには自力で身を守り、避けようとします。その行動はかむ、ほえる、逃げる……と、さらなるトラブルを招くことも。飼い主さんの安全管理で大切な柴犬を守ってくださいね。
- 監修:山下國廣(やました・くにひろ)
- 獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。
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