柴犬は「おすわり」「まて」が得意だけど「おいで」が苦手 トレーニングのコツは
「おすわり」「まて」「おいで」は、飼い主さんが犬に教えている3大指示トレーニングです。ところが、うまく教えられなかったり、成犬になったらできなくなったり……というケースはよくあります。
獣医師の山下國廣先生は、「柴犬はおすわりとまてが比較的得意で、おいでがやや苦手」と言います。今回は柴犬に指示のトレーニングを教えるコツを解説していただきます。3大指示トレーニングは日常生活や災害時に役立つので、ぜひ愛犬に教えておきましょう。
なんとなく「おすわり」を教えてみたけれど…
犬に教えておきたい基本の指示は「おすわり」「まて」「おいで」の3つ。この中で柴犬が得意なのは「おすわり」と「まて」です。柴犬のようなプリミティブ・ドッグ(原始的な犬)は、衝動の自己コントロールができる犬が多いからです。野生の肉食獣は、空腹でもやみくもに獲物に襲いかかったりしませんよね。獲物をじっと待ち、静かに忍び寄れるのは衝動の自己コントロール能力のたまもの。柴犬にもその能力が受け継がれているのです。
おそらく柴犬の飼い主さんも、おすわりとまてを教えている方が比較的多いと思います。ところが、教えたつもりなのに犬がうまくできないということはありませんか?
・指示を何回も言わないとできない
・食べ物を見せないと言うことを聞いてくれない
・指示を出してもすぐに動いてしまう……など
犬は指示と動作を結びつけて理解するまでが早いので、飼い主さんは「すぐに指示を覚えた」と勘違いしやすいのですが、この段階はまだトレーニングのスタートを切ったところ。トレーニングのゴールは、いつでもどこでもできるように教えることです。また、よくある間違いとしては、おすわりを維持しているときではなく、おすわりをやめるときにごほうびを出しているということもあります。
トレーニングは難しいからやりたくない、トレーニングをやらない代わりに犬に指示もしない、という考え方もあります。しかし基本の指示は日常生活のさまざまなシーンで役立つのはもちろん、災害などの緊急時に犬を守るためにも有効。教えたつもりでできていない指示をもう一度教え直しましょう。
食事をすべてごほうびに変えれば関係にもプラス
柴犬に指示のトレーニングを教える場合、主に食べ物のごほうびを使って誘導する方法をおすすめします。とはいえ柴犬は、ダックスフントやラブラドル・レトリバーと違って食べ物への関心が低め。トレーニングのときに「すぐ食べ物をくれないならいいもん」とあきらめてしまう柴犬も少なくありません。
このようなタイプの柴犬には食事(主食のフード)を食器でまとめて与えるのをやめて、すべてトレーニングのごほうびとしてランダムに与えましょう。柴犬はワクワクして、いつフードをもらえるのかと飼い主さんに集中するようになります。トレーニングの効率がアップするだけでなく、飼い主さんとの関係にもプラスです。
逆に柴犬のトレーニングで厳禁なのは、おしりを押して座らせる、前足をつかんでふせをさせる、といった拘束や無理強いの方法。トレーニングどころか柴犬と飼い主さんの関係が悪化するのでやめましょう。
指示のトレーニング1 おすわりの教え方
まずは誘導でおすわりを教える基本の方法を紹介しましょう。指示のトレーニングは、「おすわり」などの姿勢の指示と「おしまい」などの解除(終了)の指示がセットです。ただし最初は姿勢の指示を言わないのがポイントです。
【おすわりの基本の教え方1(姿勢の誘導)】
フードを指でつまんで立っている犬の前に出す
↓
フードを犬の目の前から犬の頭上へ移動させる
(ふせを教えるときは、フードを犬の前脚の間を通って胸下へ移動させる)
↓
自然におしりがついておすわりの姿勢になる
↓
おすわりの姿勢のままでフードを与える
【おすわりの基本の教え方2(誘導の廃止)】
確実におすわりの姿勢が誘導できるようになったら「おすわり」と言ってから誘導する
↓
「おすわり」と言うだけで座るようになったら誘導をやめる
(先にフードを見せない)
【おすわりの教え方3(姿勢の維持)】
おすわりの姿勢を維持している時にほめてごほうびを与え続ける
↓
最初は5秒程度でも姿勢を維持できたら「おしまい」と言って解除
(飼い主が動けば犬はつられて立ち上がる。解除のあとには食べ物のごほうびは与えない)
↓
徐々に解除するまでの時間を長くして行く
(急に長くしすぎるとフライング解除の習慣がついてしまうので注意)
犬はやがて誘導されたおすわりの姿勢をキープしていればごほうびがもらえると理解し、徐々に維持できる時間が長くなります。次に室内、庭、散歩中の緑道、公園などのいろいろな場所でトレーニングを行い、いつでもどこでもできるように教えましょう。そのためには地道に根気よくトレーニングを続けることが大切です。
指示のトレーニング2 まての教え方
じつは「おすわり」などの姿勢の指示と「おしまい」などの解除の指示を教えていれば、改めてまての指示を教える必要はありません。解除の指示があるまでは姿勢を維持するわけですから、自動的にまてになっていますよね。
おすわりとは別に、ちょっと変わった姿勢(前脚を台の上に置いたポーズなど)を維持してほしいときには、まてを教えておくと役立ちます。
【まての基本の教え方】
維持してほしい姿勢をフードで誘導して「まて」と言う
↓
姿勢を維持しているときにほめてフードを与え続ける
↓
5秒程度でも姿勢を維持できたら「おしまい」と言って解除
すべての指示のトレーニングに共通の重要なポイントは、成功させて終わること。失敗したから「仕方ないな」とごほうびを与えてはいけません。
指示のトレーニング3 おいでの教え方
「おいで」は、犬がもっとも理解しやすい指示ですが、実行させるのがもっとも難しい指示でもあります。飼い主さんはトレーニングを意識しなくても、おいでと声をかけて呼び寄せていますよね。子犬のころは呼ばれて無邪気に来ていた犬が大半でしょう。ところが成長するに従って呼ばれても来なくなる犬は少なくありません。
呼んでも来ない柴犬は、おいでの意味を理解したうえで、行きたくないから来ないのです。呼びつけられると良くないことが起きると学習している犬が多いと思います。手前で止まる犬も同様です。
【おいでの基本の教え方】
犬が飼い主に意識を向けていないが、とくに何もしていないときに「おいで」と呼ぶ
↓
犬が来たらほめてごほうびを与える(食べ物を与える、散歩に行く、おもちゃで遊ぶなど、犬によって良いことを提供する)
↓
呼ばれたら良いことがあると犬が覚えたら、公園などでロングリードをつけて「おいで」と呼ぶ
↓
犬が来たらほめてごほうびを与え、ロングリードの範囲ですぐに自由にする
伸縮リードは常に首に軽くテンションがかかっているので、犬がリードを意識してしまいます。軽いロングリードをおすすめします。柴犬にはパラコードを使った手作りロングリードでもいいでしょう。
手の指示「ハンドシグナル」も教えよう
指示のトレーニングには、「おすわり」「まて」「おいで」の声の指示に加えて、手の指示の「ハンドシグナル」もあります。手を上げる、指を立てる、手のひらを見せるといった手のしぐさで指示を伝えるのです。犬は声の指示よりも手の指示のほうが伝わりやすいともいわれています。
教え方は難しくありません。手の指示を出した後に声の指示を言うことを繰り返していれば覚えてくれます。声の指示あるいは手の指示、どちらかひとつだけでもできるようになるのが理想です。
私の愛犬のすぐりは老犬になって耳が聞こえづらくなってしまったのですが、教えておいたハンドシグナルを見て意思の疎通ができました。トレーニングは難しいからやりたくない、なんて言わずに、ぜひ愛犬と楽しんでくださいね。
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- 監修:山下國廣(やました・くにひろ)
- 獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。
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