柴犬のトラブルを防ぐ安全管理 他犬と仲良くできない、他人への攻撃はどうする?
柴犬は野生動物に近い特性をもっているため、人間社会で家庭犬として暮らす際にトラブルが起きやすい犬種です。他犬と仲良くできない(攻撃的な行動をする)、他人を警戒して吠える、脱走する、呼んでもこない、サークルやクレートに入らない……など、なかには命に関わる危険なトラブルもあります。
獣医師の山下國廣先生は、「柴犬のトラブルには人や犬がからむことが多いので、まるで問題犬種のように思われてしまう」と気の毒な一面もあるという見方を示しています。愛犬の柴犬を守るためにも、トラブルを予防する方法と、問題が起きたときの対策を知っておきましょう。
前編では、「柴犬は問題やトラブルを起こしやすい?」「他犬と仲良くできない」「他人への攻撃」をお伝えしていきます。
柴犬は問題やトラブルを起こしやすい?
これまでの連載『柴犬のすべて』でお伝えしてきたように、柴犬は野生動物の性質を強く残しているプリミティブ・ドッグです。いつまでも“子ども”のようなトイ・プードルやラブラドル・レトリバーとは異なり、心身ともに“おとな”の動物として自立心や警戒心が強くなり、ときにはテリトリーや資源(食べ物など大切なもの)を巡って戦います。
柴犬は人や犬への攻撃性が出やすいので問題が際立って見えますが、トラブル全般が多いわけではありません。犬種には犬種特有の問題があるのです。たとえばトイ・プードルは家族から離れられない分離不安、ラブラドル・レトリバーは異物を口にしてしまう誤飲、ボーダー・コリーは車を追うことなどが挙げられます。いずれも飼い主さんと犬は困るものの、周りに直接被害が及ぶことが少ないので、柴犬のトラブルとは違って目立たないのかもしれません。
柴犬のトラブルには人や犬が関わるからこそ、飼い主さんが予防することが大切。問題を解決するためのトレーニングには、基本的に主食のフードをごほうびとして使います。食器ではなくすべて飼い主さんの手から与えてくださいね。
トラブル対策(1)他犬と仲良くできない
柴犬は警戒心の強い犬種なので、他犬を追い払うためにほえたりかみつくふりをしたりする“疑似攻撃”をすることがあります。これが本気の攻撃に見えて、トラブルメーカーのように扱われてしまうケースも少なくありません。
しかし人間だっていきなり触られたら怒るのが当たり前ですよね。傍若無人に接してくる方が失礼であり、それを拒否するのは当然の権利です。拒否のための疑似攻撃は正当性が認められていいと思っています。しかし犬の場合はどうしてもほえたほうが悪者扱いされがちです。
犬同士の好き嫌いは人間がコントロールできるものではなく、成長すれば犬が自分で仲良くできる相手を決めます。人間だって子どものころはみんなで遊んでいたとしても、おとなになれば付き合う相手を選びますよね。仲良くできなくてもケンカをしなければ十分と考え方を変え、トラブルを防ぐトレーニングをしましょう。
[トラブルを防ぐためにできること]
・子犬のころから社会化トレーニングを行う
他犬が近くにいるときにごほうび(フードやおやつ)を与える社会化トレーニングを子犬のころから続ける。攻撃をしかけるよりごほうびを食べるほうがいいと教える。成犬になっても繰り返しトレーニングを続けることである程度は慣れる。
・相性のわからない犬との自由交流を控える
社会化トレーニングのつもりで犬同士の相性を確認しないまま接触させたり、無理におしりのにおいを嗅がせ合ったりすることもトラブルの原因。柴犬は犬同士のトラブルを一度でも経験すると、先制攻撃をしかけるようになる場合も。いきなり鼻を突き合わせるようなあいさつは控える。出かけるならドッグランより家族と楽しめるハイキングがおすすめ。
・仲良くしたい場合はいっしょに散歩をすることから
仲良くしたい犬とは、いっしょに散歩に行って視線が合わないように前後にずれて歩く。飼い主同士はなごやかに話ながら、ときどき前後を交代する。一緒に散歩を続けることで仲良くなれることも多い。
[もしトラブルが起きてしまったら]
・柴犬が相手に攻撃をしかけたらすぐに立ち去る
柴犬は攻撃をしかけたときに叱ったり、中途半端にリードをツンツン引っ張ったりしていると、さらに攻撃的になるケースが大半。攻撃をしかけた途端に全速力で相手と反対方向へダッシュ。※トラブルが生じたとき、名前を呼ぶ(こちらに意識を向けさせる)、「ダメ」と止めるなどの命令で行動を変えさせようとする発想を捨てるべき。
トラブル対策(2)他人への攻撃
柴犬は来客や見慣れない人(制服を着ている人や予想外の動きをする子ども)にほえたり、急に近づいてくる人に攻撃したりすることがあります。柴犬を誰にでもなでられるフレンドリーなタイプにしようと思わず、他人が近くにいても落ち着いていられることを目指しましょう。
[トラブルを防ぐためにできること]
・叱るのではなく社会化トレーニングを行う
叱るとほえやむかもしれないが、その場しのぎの対策になってしまう。犬が人に対して警戒心をもたなくて済むように、ほえそうな人が犬の視界に入ったらごほうびを与える社会化トレーニングを行う。子犬のころから行うとより効果的。
・柴犬をむやみに他人になでさせない
柴犬は急に近づいてくる人や手を伸ばす人には恐怖心を抱きやすい。飼い主が犬の気持ちを想像し、「ちょっと怖がりなので」と相手を制止してトラブルを回避する。
・番犬としてほえるなら環境を変える
通行人が見える場所や周囲の物音が聞こえる場所を避けて、落ち着ける環境に変える。窓際に行かれないようにしたり、窓に目隠しシートを貼ったりする方法もおすすめ。
[もしトラブルが起きてしまったら]
「トラブル対策(1)他犬と仲良くできない」と同じように、すぐ立ち去るのが鉄則。ただし相手にけがを負わせてしまった場合は、治療費の相談や保健所への連絡などが必要です。
※後編では、「自宅からの脱走」「散歩中の脱走」「ハウスに入らない」問題についてお伝えしていきます。
- 監修:山下國廣(やました・くにひろ)
- 獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。
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