豚熱発生で2カ月にわたる豚の殺処分が進行中 壮絶な現場は大規模な工場畜産の代償か
2022年7月23日、栃木県那須烏山市の養豚場で豚熱の発生(県内4例目)が確認されました。今回の飼養頭数は約5万6000頭、豚熱では国内最大規模の殺処分となります。那須烏山市の人口の2.25倍の動物が狭い農場に密に閉じ込められていて、その全てが2カ月の間に殺されるというのは、社会の倫理観を崩壊させるような感覚にもなります。
これにより国内の豚熱は全83事例、殺処分数は合計約35万5852頭に。発生しては殺すことでその場しのぎの対策を繰り返してきましたが、私たちはいつまで、どれだけの命をこれからも無責任に殺処分し続けていくのでしょうか。
苦しみが充満する殺処分の現場
このような大量殺処分の現場ではアニマルウェルフェアが特に蔑ろにされることが過去の事例からわかっています。
豚の場合、殺処分方法は消毒薬(パコマ)の注射や電殺、炭酸ガス殺です。
簡単に説明すると、殺処分時のパコマ使用は国際的に認められておらず、それだけ動物を苦しめるものと認識されているにも関わらず、日本では使い続けているのです。電殺器は当てる位置がずれていたり時間が短かったり、メンテナンスが不十分であれば、効果が薄れ、動物を苦しめます。炭酸ガス殺には専用のコンテナと測定器が必須ですが、現場では簡易なやり方で行われています。そもそも二酸化炭素は嫌悪刺激があり豚を苦しめるものなのです。
生きたまま埋められる豚もいる
そして5万6000頭分という数の多さを前に、全頭の死亡確認が確実になされるという補償が全くありません。以前の殺処分では、死体を入れたフレコンバッグが埋める際に動いていたということも耳にします。つまり、死にきれずに生きたまま埋められる豚がいるということです。
大きな豚は電気ショックを与えた後にパコマで致死処分をするというケースもありますが、麻酔と異なり電気ショックだと気絶時間が長くはありません。そのため電気ショックで痛みを感じた後に目覚め、またパコマで、動けない中窒息死するという二重の苦しみを味わっている可能性もあります。
電気ショックの場合は、スタンキルという、電気ショックで意識を失わせた直後に再度心臓部に電気ショックを与える方法が推奨されていますが、そのようなアニマルウェルフェアのことをあまり知らない自治体が多いというのが日本の実態です。
大規模な工場畜産の代償
豚熱のような伝染病では、早期に農場内にいる動物を全頭処分することで、ウイルスを封じ込めようということになっています。しかし現在の畜産は大規模化しすぎており、早期に対応することがもうできない。これは工場畜産のリスクの一つで、ウイルスを早期封じ込めすることはもはやできない畜産の形になっているのです。実際に鳥インフルエンザも豚熱も、アフリカ豚熱も世界中で発生はどんどん増加しているのです。
9月までの2カ月間、この農場では豚たちが殺されるときの恐怖と悲鳴が充満し続けることいなります。遅くに殺されるほど、その恐怖、ストレスは高くなることは間違いありません。嗅覚、聴覚ともに人間よりはるかに優れている豚に、外からの異常な人の出入りと豚たちの悲鳴は相当なストレスをもたらすことでしょう。
殺処分に向け、今できること
防疫とアニマルウェルフェアの両方の観点からも、アニマルウェルフェアに則した健全で節度ある生産に取り組む必要があります。大量生産、大量消費を、命ある動物に当てはめてはなりません。
そして、2カ月で殺される5万6000頭の豚たちのために、たった今必要なのは、防疫指針にあるように、殺処分される豚たちに対して必ず麻酔剤を使用し、その他可能な限りのアニマルウェルフェア上の配慮を確実に行うことです。
(次回は10月10日公開予定です)
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