うなる段階ですでに対立が発生 柴犬の問題行動の対処法を7つの事例別に解説
柴犬が飼い主さんをかむ場面は、なでているとき、食べているとき、足拭きのときなどです。「柴犬VS飼い主」という対立関係に原因があります。犬がうなる段階ですでに対立が起きているので「うちの犬はかまないから大丈夫」と安心は禁物です。
獣医師の山下國廣先生に、柴犬がうなったりかんだりする場面に合わせた対処法を伺いました。もし自力での対処が難しいと思ったら、すぐに問題行動に詳しい専門家に相談しましょう。
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飼い主が自力で対処するより専門家に相談を
柴犬のかむ問題に悩んだ飼い主さんたちの話を聞くと、私に相談する前にインターネットで調べた対処法を試した人が5割、ドッグトレーナーの指導を受けた人も2割ほどいました。じつは飼い主さんが自力でやってみたり日本犬に詳しくない人に聞いたりした対処法は、改善しないどころか悪化してしまうことが多いのです。たとえ正しい方法だったとしても飼い主さんが実践できなければ改善できません。
柴犬の場合、特に以下の方法は問題行動を引き出したり悪化させたりする危険があるのでやめること。まずは学習理論の裏付けがある専門家に相談して、それぞれの犬と飼い主さんに合う方法を考えてもらいましょう。
●柴犬の問題行動を悪化させる誤った方法
・オスワリやフセの訓練を続ける
オスワリやフセなどの服従課目と問題行動は無関係。犬と飼い主の関係が悪くなっているときに、型にはめようとする訓練はかえって問題行動の悪化にもつながる。
・上下関係に基づく指導
「飼い主が犬の上に立つ」という上下関係は根拠がない俗説。犬に対して暴力的・威圧的に対応することになることが多く、逆に犬と対立関係になってしまう。
・チョークチェーンを使う
チョークチェーンそのものが悪いわけではないが、一般の飼い主が使いこなすのは極めて難しい。
・体罰を与える
たたかなければ体罰ではないと考えるのは誤り。マズルをつかんだりひっくり返したりする叱り方も柴犬に強い嫌悪感を与える。
・訓練所に預ける
家庭内で起きた問題の対処には、家族の接し方や犬の生活環境を変える必要がある。家族ではない人に犬を預けて訓練しても解決しないことが多い。
柴犬にかまれたときに叱ってはいけない
柴犬にかまれたときに、体罰はもちろん「ダメ」などの言葉で叱ってもいけません。「犬が悪いことをしたのに叱らないのか?」とよく聞かれますが、犬は飼い主さんをかむことで自分や大切な物を守っていたのに、飼い主さんが叱ると犬は攻撃を受けたと感じて不安感が増し、さらに問題行動が悪化します。
柴犬が飼い主さんをかむ場面の多くでは「柴犬VS飼い主」という対立が起きていることが原因です。対立が起きる場面に合わせて対処してください。
事例1. なでているときにうなる・かむ
柴犬の飼い主さんから相談が多い事例が、なでているときにかまれるという悩みです。室内飼いが広まってから急増している問題です。しかも飼い主さんは口をそろえて「なでてもかまれないようにしたい」と言います。何のためになでるのか聞くと、「かわいいから」という答えが返ってくるのですが、相手(犬)が心地よいと思わなければ愛情を伝えることにはなりません。犬が寝ているときに抱きついてかまれるケースも同様です。
なでたり抱きついたりするのをやめればかまれないなら対処は簡単。柴犬と一緒に楽しめる別の方法を考えましょう。たとえば散歩の時間を増やす、お気に入りのおもちゃで遊ぶ、トレッキングに出かけるなど、飼い主さんの愛情を伝える方法はたくさんあります。
ただし、足拭きなどで触らなければいけない場面では別に練習してください。
事例2. ごはんやガムを食べているときに近づくとうなる・かむ
警戒心が強い柴犬は食事のときに食べ物を奪われるのではないかと危機感を覚え、うなってかむようになることも少なくありません。すでに近くを通るだけで犬がかむ場合は、通るときに大好物のおやつを落としましょう。大切な物をくわえているときに飼い主さんが近づいても奪われることはなく、むしろ良いことが起きると印象を変えられます。
食事のときに見られる攻撃的な行動をまとめて「フード・アグレッシブ」という人が増えたように思います。しかし問題行動を解決するには、犬の行動やかむ状況を詳しく知る必要があります。うなるだけなのか、うなったりかんだりするのか、どれくらいの力でかむのか。タイミングは食事の前、食事の途中、人が近づいたとき、くわえている物をとろうとしたときなのか。理由や対処法が変わる場合もあるので、問題行動を相談する場合は具体的に記録しておきましょう。
事例3. おもちゃをくわえているときにうなる・かむ
柴犬がくわえている物は、食べ物でもおもちゃでも木の枝でも、犬にとって取られたくない大切な物。叱って取り上げることを繰り返している場合は対立関係を助長して問題行動がさらに悪化します。犬がくわえたまま離さなくなると困る物は与えないのが一番です。もしガムやおもちゃを与えたい場合は、犬専用の生活スペースで与えましょう。
「ごはんやガムを食べているときにうなる・かむ」の対処法と同じく、近くを通るときに大好物のおやつを落とす方法も改善に有効です。
事例4. 足拭きやシャンプーのときにうなる・かむ
柴犬は足拭きやシャンプーなどのケアを必要と思っていないし、やってほしいとも思っていません。かまれながら無理にケアを続けるより、犬が嫌がらず飼い主さんができる範囲にとどめるのも一案です。トレーニングだけが解決方法ではないのです。
もしどうしてもケアを続けたいなら、慣れさせる練習が必要です。犬が嫌がるケアをいったんやめて、ケアを受け入れてもらうトレーニングを一からやり直すのが解決への近道。以下の記事で紹介している手順を参考にして「嫌い」から「我慢できる」に変えるのが目標です。
【参考】柴犬が苦手な足拭きやブラッシングの慣らし方 ケアを受け入れてもらうトレーニング
事例5. ソファやベッドにいるときにうなる・かむ
柴犬と飼い主さんが生活スペースを共有していることで問題が起きることもあります。くつろいでいるところを邪魔されれば不快に感じるのは犬も同じなので、うなったりかまれたりする原因になります。柴犬と一緒に遊ぶときはリビングなどの部屋に出して遊び、それ以外のときは犬専用の生活スペース(サークルや別室、クレートなどのハウス)で過ごさせ、安心してくつろげるようにしましょう。
もし生活スペースを共有していても問題がなければ分ける必要はありません。飼い主さんが犬にぶつかったときにうなる程度であれば、「わざとじゃないよ、ごめんね」とプラスでもマイナスでもない言葉をかければ、「しかたがないな」と犬も許してくれます。
私の愛犬すぐり(甲斐犬)は、寝ているときにそばで足を動かされることをひどく嫌がりました。私がうっかりして足を組み替えると「うるさいな」と言いたげに不満そうにうなるので、「わかった、悪かったよ」とあやまりとあしらいの半々の気持ちで対応していました。こちらに悪気がないことは犬にも通じるのです。
事例6. 首輪、ハーネス、リードをつけるときにうなる・かむ
散歩のときに首輪、ハーネス、リードのつけはずしをしていたとしても練習は必要です。散歩が好きなのにリードなどをつけようとすると逃げる場合も練習を。飼い主さんが犬を追いかけて無理やりリードなどをつけている場合、追い詰められてうなったりかんだりするようになることもあるので、問題が出る前に練習してください。
[リードをつける・はずす方法]
(1)首輪を軽く触ってからフードやおやつを与える
(2)首輪を触ると犬が期待してしっぽを振るようになったら、首輪を持って少しだけ持ち上げてからフードやおやつを与える
(4)首輪の金具を揺らしてカチャカチャと音を立ててからフードやおやつを与える
(5)首輪の金具にリードをつけてからフードやおやつを与える
首輪やリードを装着するときにもたつくと犬にかまれることが多いので、スピーディーにつけはずしができるように飼い主さんも練習しましょう。もし首輪やリードが切れそうですぐつけかえなければいけない場合は、動物病院に頼むのも一案です。
事例7. ちょっとしたことで怒り出して激しくかむ
わずかな不安や不満を感じてイライラしただけで激しく怒る「衝動制御障害」の柴犬もいます。生まれつき感情をコントロールできないので、練習やトレーニングでは解決できないことも。
まずは家族と犬の生活スペースを分けて家族の安全を確保し、犬がイライラしない生活環境をつくること。何があってもかまなくなるわけではありませんが、接し方と生活環境を変えるだけで問題行動は改善します。必要であれば行動診療を行う獣医師の治療を受けましょう。
「スペースを分けるなんて犬がかわいそう」と言う飼い主さんに限ってかまれ続け、「恐怖しか感じなくなった。もう飼えない」と、もっとかわいそうな飼育放棄や安楽死を選択する事例もあります。この段階でも接し方や生活環境を変えれば飼い続けられるのですが、愛情がもてなくなってしまうのでしょう。飼い主さんには犬への愛情がある間に本気で対処に取り組んでほしいと思っています。
もし柴犬にかまれてしまったら?
もし柴犬かまれてしまったら、理想は痛みを我慢してやろうとした行動をまったく変えないこと。犬は無駄な行動をしないので、かんでも飼い主さんの行動が変わらなければ「かみついても無駄」と学んでかまなくなります。たとえば足を拭いていてかまれたら、そのまま気にせず拭き続けるか、「ごめんね」とプラスでもマイナスでもない声をかけてゆっくりと手を引きましょう。
逆にビクッと急に手を引っ込めると、犬はかむことで自分の意志を通せることを学び、さらにかみつくようになります。とはいえ、犬にかまれると痛いので難しいですよね。だからこそ飼い主さんが犬にかまれないような接し方や生活環境に変えることが重要なのです。
- 監修:山下國廣(やました・くにひろ)
- 獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。
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