耳が聞こえなくても大丈夫だからね 捕獲した白い子猫、頼もしい猫家族がお世話
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
子猫の大音量の鳴き声が聞こえる
子供の頃、近所は庭のある家が多かった。
どこからか逃げてきたインコやリスが庭にひょっこり現れたりして、野良猫たちもそれをのんびり眺めている、そんな風景が当たり前だった。40年くらい前の話だ。
なかでも、お向かいさんの敷地には大きなケヤキの木があって、そこにはカラフルなインコやオウムの大軍が住んでいた。
父も母もそんな鳥たちが来るのを喜んで庭に餌台をつくり、八百屋さんで少し傷んだりんごを安く分けてもらっては、毎日やってくる鳥たちを眺めていた。
私が小学生の時、長梅雨で寒い日が続いた。そしてケヤキのあるお向かいさんの方から、子猫が大音量で鳴いているのが聞こえてきた。きっと親猫を呼んでいるのだろうと、部屋でハラハラしながら聞き耳をたてていたが、一向に鳴きやむ気配がない。気になって仕方がなくて、母に相談した。もちろん母もその声に気がついていたが、もう夜の9時を回っていた。
お向かいさんは高齢のおじいちゃんがいるのでみんな早く寝てしまう。でも、一晩中鳴いていたら、あの子猫は死んでしまうかもしれない。
母と意を決し、お隣の呼び鈴を鳴らすと、幸運なことに夜更かしの高校生のお兄さんが出てきてくれた。そして事情を説明して庭に入れてもらい、子猫を捜索することになった。
捕獲した子猫、なぜかぼんやりしている
小さな私は、大人がちゅうちょするような茂みの中でもぐんぐん進んでいける。泥だらけになりながら広い庭を鳴き声のする方向へ進んでいった。
そして茂みの中から、真っ白な子猫が鳴いているのを見つけた。子猫はおびえながらも、なぜかすんなりと捕まったが、しっとりとぬれた体は震えていて、今にも壊れてしまいそうだった。
ぬれた子猫をトレーナーをめくっておなかの中にしまいこみ、お向かいのお兄さんにお礼を言って、飛ぶようにして家に帰った。そして母とその子猫をたらいのお風呂に入れた。
それにしてもこの子猫、なんというか、ぼんやりしている。不思議に思っていると母が「この子、お耳が聞こえていないみたい」と言った。
そうか、だからあんなに声が大きかったんだ。
そうかそうか、怖かったね。でも、もう大丈夫。
お耳が聞こえなくても、この家の中なら何も怖くないからね。
そう言いながら、この子猫につける名前を考えていた。
耳が聞こえないくらい、なんでもない
その頃、私は同級生からグーフィーをいう犬のキャラクターに似ていると言われていた。たしかその犬は、おとぼけで優しくてのんびり屋さん。
「グーフィーはどう?」そう母に聞くと、「うん、可愛い」といってくれた。
でも、きれいになったその子猫は真っ白な毛並みと透き通るような青い目で、グーフィーとは似ても似つかない。
それでも、このアニメのキャラクターは永遠に不滅だ。きっと長生きしてくれる。耳が聞こえないくらい、なんでもない。
「ね、グーフィー?」と言うと、きょとん、とこちらを見つめ返してくれた。
そしてグーフィーは、どちらかというと人間より猫といる方が安心らしく、いつも先住の猫たちに囲まれていた。
昔のシンプルなカメラは部屋の中ではフラッシュがないとうまく撮れなかったので、フラッシュを怖がったグーフィーの写真は極端に少ない。
でもやさしくておっとりした、真っ白な毛並みとブルーの瞳をもつグーフィーを私が忘れることはない。
この目で、耳で、手で、五感全てで記憶した、それぞれの猫たちをいつでも思い出すことができる。そして現像した写真は、やっぱりすてきな糸口になるな、と最近実感している。
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