黒猫「ノワール」のおかげでコンプレックス解消 猫はいてくれるだけでいいのだ
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
私のコンプレックス
小さい頃、自分の鼻の形にコンプレックスがあった。
両親も姉も母方の祖父母も、スッと鼻筋が通っていて誰が見ても美しい顔なのに、私だけ鼻がぺしゃんこで、てっぺんがヒュッと上にあがっていた。
この顔は母方の曽祖父由来で、私は曽祖父が大好きだから構わないのだけれど、家族の中にいるとあまりに「不公平だ」と思うことが多かった。
というのも、小学校1年生の時、髪が短くて薄茶色だったこともあり、クラスの男の子に「サル」と呼ばれては落ち込んでいたからだ。
見知らぬ人からも「ぼっちゃん、元気だねー!」と言われ、私の小さな乙女心は傷ついていた。
父も「うーん、麻衣ちゃんの鼻、高くなれー!」と寝る前に私の小さな鼻をつまんで、謎のおまじないをかけたりしていた。
幼い私はなんとか「サル」とか「ぼっちゃん」と言われないよう知恵を振り、髪が伸びれば少しはマシかなと結論を出した。
そして文字通り柱にしがみついて美容院に連れていかれるのを断固拒否した。
チャーミングなノワールと出会う
さて私が10歳くらい、家の中に猫が増え始めたころ、真っ黒な子猫が迷い込んできて「うちの子」になった。
その黒猫は私と鼻の形がよく似ていて、でもとってもチャーミングで、私はうれしくなってしまった。
黒はフランス語でノアール、という少し大人びた情報をどこかで聞きかじり、その猫をノアールと名付けた。
しなやかな体につややかな黒い毛、短くきゅっと上を向いた鼻。
人懐こくて可愛くて、自分の付けた名前があまりにもピッタリだったので、私は有頂天だった。
「ノアーーーーーーーーール?」とふざけて呼ぶと、その調子に合わせて「ニャォォォォォォーーーン?」と鳴いてくれるノアール。
ふたりで上を向いた鼻をちょん、とくっつけて「エスキモーのキス」と言って笑った。
猫たちがいれば悩みなんて忘れる
ハンサムな猫も、美しい猫も可愛い猫もたくさんいるけれど、ノアールみたいにチャーミングな猫って、ちょっといない。
彼女のおかげで自分の鼻を好きになれたし、すてきなノアールとおそろいなら、きっと私もすてきになれるはず!と、勇気がわいてきた。
思えば、どんなに学校で嫌なことがあっても、テストの点数が悪くても、家族とケンカしても、猫たちといれば気持ちが落ち着いた。
猫たちといっしょなら、悩みなんてすぐに忘れてしまう。
猫たちは、かわるがわる私のそばにやってきては、
「いいじゃない、そんなこと。それよりあたしと遊ぼうよ」
「一緒にお昼寝しない?」
「宿題?ふーん、横で待っててあげる」
「見て。ほら、顔を上げて。空がきれい!」
「庭のあの花が咲いたよ」
「鳥が来たよ」
と、私を穏やかで幸せな気持ちにしてくれた。
ノアールには、これといったトピックはない。
チャーミングなお鼻をツンと上に向けて、猫らしくしなやかに、のびのび暮らした。
そして歳をとって、人間の家族と大勢の猫たちに見守られて、静かに旅立った。
それだけ。
ノアールと同じ頃にいたヘーキチも太郎もミケもオイデもビッキーもまーちゃんアンもイーグルも……と、名前を上げればキリがないが、みんなそうだった。
でもそれでいい。それがいい。
目立ったトピックなんて、なくていい。
同じようなのどかな1日を、今日も明日も明後日も猫たちが過ごせれば、それが飼い主にとって最高にしあわせなことだと思う。
ただ、連載を続けるうえで、少々困ったことになりそうな予感がしなくもない、という私のひそかな心配があるだけだ。
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