天井裏から子猫が落ちてきた 壁に穴あけ救出「この子はしっかり育てます」
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
しじみとあさり
私が20代の頃、黒とハチワレの子猫の姉妹が庭に居ついた。
ハチワレは活発で、少し大きくなると恋をして巣立っていったが、黒猫はとても小柄な骨格でのんびりしていたので、すぐに捕まえることができ、「うちの子」になった。
小さくてまっくろで愛くるしいので「しじみ」と命名し、時々遊びにくるハチワレを「あさり」と名付けた。
名前を呼ぶときは「しーちゃん」「あーちゃん」と、なんだか昭和感のある姉妹ができたみたいでうれしかった。
さて、しーちゃんはずっと小さいまま(2.5キロくらい)、家の中でのびのびと暮らし、恋多きあーちゃんはなかなか捕まえられず、ある日、庭に作ってあった小屋の中で子猫を4匹産んだ。
いつも「あーちゃん、困ったらいつでも入ってきてね。しーちゃんも待ってるよ」と言っていたのが功を奏したのか、わりとあっさり5匹まとめて「うちの子」になった。
子猫が大大大好きな姉はピックル(ピクルスを文字った)、エルモ(エルメスから拝借)、フィアット(姉が好きなヨーロッパ車)、パセリ(ふわふわで可愛いから)と、しっちゃかめっちゃかな名前を子猫たちに付け、5匹にあてがわれた一部屋に簡易ベッドを運び、「今日からここが私のお部屋」と居座った。
あーちゃんは姉に子育てを手伝ってもらいながら、ようやく決まった安住の地に満足している様子だった。
しーちゃんは、そんなことには我関せず、クールでマイペースにふるまっていて、姉妹でも性格が全く違うのは人間と一緒だなぁ、と思わず笑ってしまった。
子猫が落っこちてきた
しーちゃんは手術できる年齢になったときにすぐに避妊手術をしたのだが、実はあーちゃん、保護する前に一度、出産をしていた。
その時の子猫はみんな元気に巣立っていったが、1匹だけ、我が家に落っこちてきた子猫がいた。
そう、文字通り、天井裏から落っこちてきたのだ。
そのとき家を改築していて、仮住まいにしていた平屋部分の天井に(我が家は猫と犬がいるので住みながらの改築だった)穴が開いていたのだが、あーちゃんと子猫たちは天井裏を巣にし、その穴からあーちゃん一家がチラチラと見えていた。しかしある時、壁づたいに「ぼとっ」と音がして、壁の中からミャーミャーと子猫の声が聞こえてきた。
天井の穴からあーちゃんが下を見下ろしてオロオロしているし、天井裏の他の子猫たちはびっくりして大騒ぎしているし、人間たちは顔面蒼白(そうはく)、竹脇家は騒然となった。
でも今は改築中。壁もどうせ壊すし、と母はあっという間に決断し、どこからともなく物々しい工具を取り出し壁に大きな穴をあけ、子猫を救出した。
そして、天井に向かって、「あーちゃん、この子は家でしっかり育てますからねー!」と言った。
あーちゃんは、他の子猫達のお世話で手いっぱいだったようで、「それでは、よろしくお願いします」と言わんばかりに安堵(あんど)した面持ちで天井裏に消えていった。
大変だけど面白い多頭飼い
落ちてきたのは真っ黒でしっぽの長い女の子。「みかん」と名付けられ、すくすくと育った。
しーちゃんにとっては姪(めい)だったけれど、とりわけ気にするでもなく、「あら、あなた真っ黒ね」「そうね。あなたもね」くらいの距離感が面白かった。
そして数年後、ばらばらになった姉妹(とその子供たち)は再会するのだけれど、見事なまでに全員平常心。
特別再会を喜ぶこともなく、おのおの友達を作って楽しそうにしていた。
竹脇家は庭があることと、家族全員困っている動物を放っておけない性格のせいで、選択の余地なく多頭飼いだ。でも、それを可能にしてくれているのは、実は「うちの子たち」なのだ。お金もたくさんかかるし、苦労も頭数分。だからよく考えて選択した方がいいとは思うけれど、多頭飼いって本当に面白いんだよなぁ。
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。