発症後48時間以内で命を落とす危険がある猫の膀胱の病気。しかし、早期発見で命を救える(c)gettyimages
発症後48時間以内で命を落とす危険がある猫の膀胱の病気。しかし、早期発見で命を救える(c)gettyimages

猫の膀胱の病気は発症後48時間以内に命を落とす危険が 飼い主がすぐできることは?

 いつかやってくる愛犬、愛猫との別れに備える連載『病状別 犬猫の最期』。第6回は、猫に多く見られる3つの膀胱(ぼうこう)の病気です。慢性腎臓病と同じく尿に異常が現れ、尿路閉塞が起きれば48時間で命を落とす危険もあります。

 田園調布動物病院院長の田向健一先生は、「飼い主さんの早期発見で命を救える数少ない病気のひとつ」と言います。心臓病や腎臓病は死期を遅らせることしかできませんが、膀胱の病気はもとの元気な姿に戻れる可能性があります。

 第1回はこちら
愛犬、愛猫を穏やかな最期へ導くために飼い主ができること

48時間で亡くなることがある膀胱の病気

 猫の飼い主さんは腎臓病の怖さをよく知っていると思いますが、膀胱の病気にも注意が必要です。慢性腎臓病がゆっくり進行するのに対し、膀胱の病気は具合が悪くなってから48時間で亡くなることがあります。

 私は「あと1日早ければ助けられたのに」という猫を何度も診てきました。具合が悪くて様子を見ているうちに自宅で亡くなり、突然死扱いされている猫は多いのではないでしょうか。

 膀胱の病気は飼い主さんが早く気づけば命を救える病気です。腎臓病や心臓病は老化の一種で治すことはできませんが、膀胱の病気は治療でもとの元気な姿に戻れることを知ってほしいと思います。

猫の膀胱の病気
膀胱の病気は治療でもとの元気な姿に戻れる (c)gettyimages

頻尿は命に危険が迫っている症状と考える

 早期発見の手がかりになるのは尿の異常です。尿は腎臓で濾過(ろか)された有害物質(窒素)や老廃物などを体外に排出するためのものです。腎臓で作られたあと、尿管を通って膀胱にたまり、尿道を通って尿道口から排出されるしくみで、この尿の通り道のどこかに異常が起きます。

 慢性腎臓病の代表的な症状は多飲多尿ですが、膀胱の病気は頻尿(少量頻回)が特徴です。気をつけなければいけないのは、命に関わる「尿路閉塞(へいそく)」と、緊急性が低い「膀胱炎」の症状が似ていること。飼い主さんがこの2つの症状を区別するのは難しいので、頻尿が見られたらすぐに動物病院を受診しましょう。

・尿路閉塞:尿が出せない状態
 尿の通り道のどこかに結石が詰まったり腫瘍ができたりして、尿が少しずつしか出せない状態になるので、尿を出そうとしてトイレの回数が増えて頻尿になります。尿の通り道が完全にふさがってしまうと尿毒症を起こして48時間で死に至ります。

・膀胱炎:尿をためられない状態
 膀胱が炎症を起こして伸縮しづらくなったり、尿が溜められなくなったりします。尿が少しでも膀胱に入ればすぐに排尿したくなるので頻尿になります。尿がまったく出ない状態は、慢性腎臓病の末期で尿が作られないことも考えられます。尿が少しずつ出ている状態とは症状の重さや病気の種類が違うので、獣医師に排尿の状態をできる限り正確に伝えると診断に役立ちます。

水を飲ませていれば予防できるとは限らない

 猫はもともと水をあまり飲まない動物で、飲み水の好みにもこだわりがあるタイプが多いのが特徴です。愛猫が水を飲みたくなる工夫も必要ですが、水を飲ませたからといって必ずしも病気を予防できるとは限りません。

 獣医学的に「水をたくさん飲む多飲の病気」「食欲が旺盛になる過食の病気」「食事を取れない食欲不振の病気」はありますが、「水を飲まなくなる飲水不振の病気」はありません。

 水を飲まないことが人間から見ると問題に見えても、猫にとってはそれほど苦ではないのです。飲水のサポートは必要ですが、私はちょっとした変化を見逃さない観察力のほうが大事ではないかと思います。

猫の膀胱の病気
飲水サポートは必要だけど変化を見逃さないで (c)gettyimages

猫に多い膀胱の病気(1)結石症

 マグネシウム、リン、カルシウムなどのミネラルなどの結晶が尿の通り道や膀胱を傷つけたり、どこかに詰まったりするのが結石症です。年齢に関係なく発症する病気です。尿道が細いオスのほうが詰まりやすく、問題になりやすい傾向があります。

【症状】
初期
・尿の量が減る
・トイレに行く回数が増える

中期
・尿に血が混じる
・トイレ以外の場所で排尿する
・猫砂やトイレシートに結晶がついてキラキラと光って見える

末期
・結晶が石になり、尿の通り道のどこかに詰まる尿路閉塞の状態になり、尿毒症を起こす

 トイレに行く回数が増えたり、トイレまで間に合わなくて漏らしたりするのがわかりやすい病気のサイン。健康でも尿に結晶が混じっている猫もいるので、必ずしも「結晶=病気」とは限りませんが、見つけたらまずは動物病院を受診してください。

【治療】
初期〜中期
・食事療法食
・投薬

末期
・カテーテルを入れて尿の通り道を確保して排尿させ、血液中の有害物質の濃度を下げる

 結石がいつどこに詰まるかわからないので、中期の段階ですぐ動物病院に連れて行けるように準備しておいたほうがいいでしょう。

【自宅でのケア】
・食事療法食を食べさせる
・処方された薬やサプリメントを飲ませる
・水を飲ませる工夫をする

 猫に水を多めに飲ませると結晶や結石が流れる可能性があるので、結石症のケアには愛猫が水を飲みたくなる工夫が有効です。

【予防】
 猫にミネラルが多い煮干しやかつおぶしは控えめに。水はミネラルが少ない軟水を選びましょう。日本の水道水は軟水が多いといわれますが、ミネラルが多い硬水の地域もあります。お住まいの水道局に問い合わせて確認しましょう。

猫の膀胱の病気
ミネラルが多い煮干しやかつおぶしは控えめに (c)gettyimages

猫に多い膀胱の病気(2)膀胱炎

 結石症の結晶が膀胱の粘膜を傷つけると「膀胱炎」を起こします。結石症と膀胱炎は併発することケースが大半です。膀胱炎は猫の直接の死因にはなりませんが、炎症を繰り返すと膀胱が伸縮できず尿をためられなくなり、腎不全で亡くなることもあります。

【症状】
(1)結石症と同じ

【治療】
・抗生物質を投与
 結石症を併発している場合は結石症の治療を行いながら、抗生物質を投与します。

【自宅でのケア・予防】
・ストレスの緩和
 猫はストレスによって膀胱炎を起こしやすい動物です。落ち着いて過ごせる生活環境を整えたり、運動したい欲求を満たす工夫をしたりすることがケアになり、予防にもつながります。

 猫の膀胱炎には、原因がはっきりしないうえ免疫の働きで自然に治る「特発性膀胱炎」もあります。この病気は薬があまり効かないことも多く、飼い主さんが「なかなか治らない」と動物病院の転院を繰り返しているうちにいつの間にか治り、「最後の動物病院のおかげで治った」と勘違いしやすい病気です。

猫の膀胱の病気
膀胱炎は猫の直接の死因にはならないが、炎症を繰り返すと急性腎不全で亡くなることがある (c)gettyimages

猫に多い膀胱の病気(3)膀胱がん

 膀胱がんはその他の腫瘍と同じく原因はわかっていませんが、慢性的な炎症からがん細胞が発生することもあるので、膀胱炎を繰り返している場合は膀胱がんのリスクが上がる危険もあります。

【症状】
初期~中期
(1)結石症と同じ

末期
 腫瘍が尿の通り道や膀胱をふさぐ尿路閉塞の状態になり、尿毒症を起こす

【治療】
初期~中期
・外科的手術で腫瘍(しゅよう)を摘出する
・抗がん剤を投与する

末期
・おもに緩和ケアを行う
 末期は腫瘍が転移したり尿路閉塞を繰り返したりしている状態なので、緩和ケアが中心になります。

【自宅でのケア】
(1)結石症と同じ
 がん細胞は自然発生的にできるので、猫の膀胱がんの予防や原因も明らかになっていません。

尿石症と膀胱がんの亡くなり方

 尿石症と膀胱がんは尿の通り道に異常が起きる病気で、進行すると慢性腎臓病の末期と同じような状態になります。

 血液中に有害物質が回ってしまい、意識がある間はずっと気持ち悪さを感じていると思います。やがて寝ている時間が長くなり、何も食べなくなり、死に近づいていきます。意識がもうろうとする段階になると、そこまで気持ち悪さを感じないかもしれません。

猫の膀胱の病気
尿石症と膀胱がんから尿毒症になると48時間が猫の命の期限 (c)gettyimages

飼い主の気づきで死を避けられる病気

 結石症、膀胱炎、膀胱がんは、いずれも飼い主さんの気づきで死を避けられる病気です。尿石症と膀胱がんから尿路が閉塞して尿毒症になれば約48時間が猫の命の期限なので、2、3日様子を見ていては間に合いません。

 飼い主さんが早く動物病院に猫を連れてきてくれれば対処する方法がたくさんあり、生存率も圧倒的に高くなります。尿石症による尿路閉塞であれば、結石の詰まりを解消するだけで瀕死の状態から元気になりますから。膀胱がんも早い段階で腫瘍を切除できれば完治を目指せるのです。

 飼い主さんを責めるわけではありませんが、気づくのが遅れると猫が亡くなってしまう病気とも言えます。猫の突然死は心臓病による動脈血栓症以外ではほぼないので、必ず何らかの異変が起きるはず。愛猫の小さな変化を見逃さない日ごろの飼い主さんの観察力がとても大切です。

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監修:田向健一(たむかい・けんいち)
獣医師。幼少期からの動物好きが高じて、学生時代には探検部に所属時、アマゾンやガラパゴスのさまざまな生き物を調査。麻布大学獣医学科卒業後、2003年に田園調布動物病院を開院。『珍獣ドクターのドタバタ診察日記: 動物の命に「まった」なし! 』 (ポプラ社ノンフィクション)をはじめ、犬猫およびエキゾチックアニマルの飼い方に関する著書多数。田園調布動物病院
金子志緒
ライター・編集者。レコード会社と出版社勤務を経てフリーランスになり、動物に関する記事、雑誌、書籍の制作を手がける。愛玩動物飼養管理士1級、防災士、いけばな草月流師範。甲斐犬のサウザーと暮らす。www.shimashimaoffice.work

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この連載について
病気別・犬猫の最期
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