犬猫のがんは種類も治療法も多い 発症してから亡くなるまで、飼い主ができること

 いつかやってくる愛犬、愛猫との別れに備える連載『病状別 犬猫の最期』。第5回は、近年の犬猫の死因で最も多い腫瘍(しゅよう)=がんについてです。田園調布動物病院院長の田向健一先生に、犬猫によく見られる腫瘍の種類や亡くなり方をうかがいました。

 がんは種類が多く治療法や緩和ケアもさまざまなので、選択肢に迷ってしまう飼い主さんが少なくありません。「どこかで間違えてしまったのではないか」と悔いを残さないように、がんのことを知っておきましょう。

※悪性腫瘍を「がん」「病気」と表記しています。

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愛犬、愛猫を穏やかな最期へ導くために飼い主ができること

良性腫瘍と悪性腫瘍の違い

 腫瘍とは、細胞が分裂するときに突然変異を起こした細胞の集まりです。その場で大きくなるだけの良性腫瘍と、大きく広がったり全身に転移したりする悪性腫瘍(がん)があります。人間の場合、健康でもがん細胞は1日に5000個程度発生していますが、免疫機能によって消滅しています。やがてがん細胞が消滅しなくなるとがんになります。がんになるしくみは基本的に犬猫も同じです。

 体にとってがんは自分の細胞なので、発生初期には痛くもかゆくもありません。しこりができたとしても、犬猫は人間のように自分で触って異常に気づくことができないので、早期発見には飼い主さんの観察力が重要です。とはいえ毛に覆われているため、がんがある程度大きくなってから気づくことが多いと思います。

 がん細胞は自然発生的にできるもので、がんになる原因もわかっていません。人間では喫煙や飲酒、食事(赤肉や加工肉)などががんのリスクを上げると指摘されていますが、犬猫には当てはまらないものもありますよね。「何が悪い」とは言い切れないのです。愛犬・愛猫ががんになると自分を責める飼い主さんが多いので、私はいつも誰のせいでもないことをお伝えしています。

犬猫のがん
がんは“何が悪い”とは言い切れない。自分を責めないで

犬に多いがんの種類と亡くなり方

 ここで紹介するのは、犬猫共に統計的に多いとされるがんの種類です。症状が出にくいがんは発見がしづらく、実際には多くても統計上は少なくなります。また、がんは転移したり、手術をしても再発を繰り返したりすることもあります。

・乳腺腫瘍(乳がん)
 乳がんは主に避妊手術をしていない(手術の時期が遅かった)雌(メス)によく見られます。がんと良性腫瘍の割合が半々です。毛が少ない腹部にしこりができるので、飼い主さんが見つけやすい腫瘍のひとつです。

 乳がんだけで亡くなることは少ないものの、肺や肝臓に転移しやすいのが問題です。転移して肺がんになれば、息ができなくなって苦しんで亡くなります。肝臓に転移した場合は、元気や食欲がなくなるので老衰に近い最期を迎えられるかもしれません。

・皮膚腫瘍(肥満細胞腫)
 免疫細胞の一種の肥満細胞が腫瘍化したもので、体格が肥満かどうかは関係ありません。皮膚にできた肥満細胞腫は飼い主さんが触ったとき、しこりなどに気づきやすいと思います。リンパ節、脾臓(ひぞう)、肝臓、骨髄、腸(消化管)など全身に転移しやすいがん。

 特にリンパ節や骨髄に転移すると貧血になります。貧血は軽く考えられがちですが、血液が足りなくなる致命的な症状です。意識が遠のいてくるので老衰に近い亡くなり方かもしれません。

・リンパ腫
 免疫をつかさどる全身のリンパ節ががんになります。元気や食欲がなくなり、あごの下やわきの下が腫れることで気づく飼い主さんが多いと思います。抗がん剤の治療によってリンパ節が小さくなるので症状を抑えられる一方、根治することはできず、継続した治療が必要です。最期は抗がん剤が効かなくなり、食欲や元気が消失して亡くなります。

 犬は動物病院での健康診断で腫瘍が見つかることもあります。犬種によってもがんの種類に傾向があり、肥満細胞腫は日本犬、リンパ腫はゴールデンレトリバー、コリー、アメリカン・コッカー・スパニエルが比較的多いことがわかっています。大型犬は骨肉腫にも注意が必要です。

犬猫のがん
早期発見が難しいがんもある

猫に多いがんの種類と亡くなり方

 猫は犬に比べて動物病院を受診する機会が少ないものの、見たり触ったりしてがんに気づく飼い主さんが多いと思います。

・口腔腫瘍(扁平(へんぺい)上皮がん)
 皮膚や粘膜にある扁平上皮細胞ががんになります。猫は口腔(こうくう)にできることが多いのが特徴です。耳が白い猫は耳先に発生しやすいので要注意。口腔にできるとその場で大きくなり、外科手術による切除がしづらいため、見た目がどうしても痛々しくなります。転移することがまれですが、大きくなる速度が速いのが特徴です。

 進行してがんが大きくなると、食事や飲水がしづらくなっていきます。食べたいのに食べられない、水がほしいのに飲めない、という状態で最期を迎えることになります。ただし、飼い主さんが食事や飲水の介助を行うことで長生きできることも少なくありません。また、皮膚から胃にカテーテルを通して給餌を行う胃ろうを選択する飼い主さんもいます。

・乳腺腫瘍(乳がん)
 詳細は上記の「犬に多いがん」を参照。猫の場合、9割ががんです。肺や肝臓に転移しやすいため、触っていてしこりに気づいたらすぐに動物病院で検査を受けてください。

・肥満細胞腫
 詳細は上記の「犬に多いがん」を参照。猫は比較的良性腫瘍のケースが多いものの、油断は禁物です。

 ・リンパ腫
 詳細は上記の「犬に多いがん」を参照。

犬猫のがん
日頃から犬猫をよく見て触ることが早期発見につながる

「かわいそう」という思い込みで治療の選択肢を狭めない

 慢性腎臓病や心臓病は治療法がほぼ決まっていますが、がんは種類が多い分、治療法や対症療法もさまざまです。外科手術、放射線治療などのがんをなくす治療から、抗がん剤のほかモルヒネや飲み薬で痛みをとる緩和ケアまで、選択肢が多いので飼い主さんが迷ってしまうのではないでしょうか。

 私は痛みを和らげたり寿命を大きく伸ばせたりするのであれば、外科手術や抗がん剤をすすめます。それで完治・寛解した犬猫と、喜ぶ飼い主さんを見てきたからです。ところが中には、「体にメスを入れるなんてかわいそう」と思い込んで、すべての治療を拒む飼い主さんもいます。犬猫にとって本当に良い選択肢は何でしょうか? 思い込みを捨てて考えてほしいと思っています。

 愛犬・愛猫ががんになると、飼い主さんは動揺してしまいます。突然の告知にショックを受けて、「前の病院と治療方針が合わない」と、私のところに転院してきた飼い主さんもいます。前の病院でも間違ったことを言っているわけではなく、その獣医師にとって最良の提案をしたのですが、それを飼い主さんが受け入れられなかったのかもしれません。

 もし転院やセカンドオピニオンを受ける場合は、それまでの治療の経過や検査の結果を持って行きましょう。セカンドオピニオンは本来、主治医ではない別の獣医師に意見を求めるもの。もしセカンドオピニオン先にそのまま転院したい場合は、事前に伝えておくことも大切です。

犬猫のがん
「かわいそう」だけで治療の選択肢を狭めないで

がんは飼い主が最後までケアでき、別れの時間がある

 がんは発生した部分にある臓器を標的としてじわじわと湿潤していくので、すぐには死なない病気です。ゆっくりと別れの時間がとれるので、落ち着いて看取(みと)りができたという飼い主さんが多いと思います。がんは人間の死因でも最も多いので、がんによる死が身近になりつつあることも考えられますね。

 発生や転移した臓器によっては、亡くなるまでつらさと付き合っていかなければいけません。たとえば肺に転移すれば息苦しさが続き、リンパ腫にできれば貧血が続く状態になります。口腔の扁平上皮がんなら食事と飲水が不自由になってしまいます。治療や緩和ケアで痛みを和らげることができるので、主治医となる獣医師と相談して今後の方針を決めましょう。

 飼い主さんに知識がなくても獣医師は責めません。わからないことがあれば聞いてくださいね。犬猫にとって最良の選択肢ができるよう、私も一緒に考えていきたいと思っています。

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監修:田向健一(たむかい・けんいち)
獣医師。幼少期からの動物好きが高じて、学生時代には探検部に所属時、アマゾンやガラパゴスのさまざまな生き物を調査。麻布大学獣医学科卒業後、2003年に田園調布動物病院を開院。『珍獣ドクターのドタバタ診察日記: 動物の命に「まった」なし! 』 (ポプラ社ノンフィクション)をはじめ、犬猫およびエキゾチックアニマルの飼い方に関する著書多数。田園調布動物病院
金子志緒
ライター・編集者。レコード会社と出版社勤務を経てフリーランスになり、動物に関する記事、雑誌、書籍の制作を手がける。愛玩動物飼養管理士1級、防災士、いけばな草月流師範。甲斐犬のサウザーと暮らす。www.shimashimaoffice.work

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この連載について
病気別・犬猫の最期
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