幼い頃からおなかを貸してくれた虎猫「トラ」 今でも彼は私のホーム
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
理想の男性、虎猫の「トラ」
今年は寅年ということで、猫好きとしては、ちょっとニンマリしてしまう。
幼い頃、雨上がりのいばらの茂みの中で、うずくまるようにして小さく鳴いていた3匹の子猫を、姉と犬のラッキーと一緒に拾った。
初めて飼うことになった子猫たちを、三毛猫はミー、虎猫はトラ、キジ猫をシマちゃんと、見たまんまの名前をつけ家族で大笑いした。頼りなくて小さくてふわふわの子猫達とこれから一緒に暮らせると思うと、うれしくてたまらなかった。けれどシマちゃんはすぐに神様の元に帰ってしまい、みんなで大泣きしながら庭に埋めた。
そしてトラは私に、ミーは姉に懐き、夜になると小さな姉妹はそれぞれの猫を抱えて布団に入った。
今も姉に懐く猫は布団の中に入り、私に懐く猫は一緒に枕をして眠る謎のルールがあるのだが、トラは眠くなると先にベッドに行ってさっさと枕をして横になり、後から来た私はトラのおなかに顔をうずめ、手をつないで眠った。
楽しいことがあるとトラに話をきいてもらい、悲しい時はトラのおなかを涙でぬらした。
きっとトラは、そんな子供の世話に色々と我慢していたと思う。
でも、毎日ちゃんと枕もとで待っていてくれる、性格も風貌(ふうぼう)もかなり男前な猫だった。
私にとってトラが理想の男性となったのは、自然な流れだったと思う。
テレビや映画で渋くてすてきな俳優を見る度に「トラみたい……!」と本気で思っていたし、初恋の人間も、どことなくトラに似ていた。
とはいえトラは猫。
ある日、ミーとの間に子供を授かった。
みんなで支えたミーのお産
ミーはまだ幼かったので家族は騒然となったが、みるみるうちに膨らんでいくおなかに、一番困っていたのはミー本猫だった。
そしていざお産が始まりそうになった時は、ミーがオロオロしながら母を呼びにきたので、母は彼女を連れて少し奥まった部屋にこもり、3匹の子猫のお産を手伝った。
数時間後、「たらいにお湯と、タオルをいっぱい持ってきてー!!」と母が叫び、部屋の外でトラと安産を祈って待っていた家族は、それらを手に部屋になだれ込み、我先にと生まれたばかりの子猫を見た。
まだ羊水でびっしょりぬれていて、へその緒もついていたけれど、とても元気な子猫たちだった。
ミーは生まれたての宝物を隠すでもなく、お産で疲れた体を横たえ、うっとりとみんなからの祝福を聞いていた。
大所帯となった竹脇家、けれどトラは私のホーム
子猫たちは、茶トラのキキ、キジねこのレオ、茶色ぶちのムクと名付けられ、猫の家族は5匹になった。
しかしミーにこれ以上お産をさせるのは負担が大きいという家族会議の結果、全て落ち着いた頃に全員去勢と避妊の手術を受けてもらった。
それからルルやボギーがもらわれてきたり、庭や外出先で保護したりと、竹脇家はあっという間に大所帯となった。
けれど20年以上生きたトラは、ずっと王様のように君臨し、私が眠る時はいつもおなかを貸してくれた。
どこにいても、何をしていても、トラのおなかはずっと私の「ホーム」だった。
トラが天国に引っ越したあとは、トラから引き継がれた猫が私におなかを貸してくれた。
そして昔はこんな話をすると、「君は変わっているね」と言われて少し困ったりしていたが、今は「わかるわかる」と言う人間ばかりが周りにいてくれる。
たまに出かけた先で、そうではない空気を持つ人と出会うと「ホーム」が恋しくて、なんとか早く切り上げて帰りたいという帰巣本能のカタマリになってしまう。
大人の人間としてはかなり困ったものだけれど、トラとミーとシマちゃんを拾ったときから私の宿命みたいなものなので、ネコ科の本年も、このまま邁進(まいしん)したいと思っている。
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