イエネコたち、無断外出はいかんよ 愛猫「ムク」をきっかけに我が家は完全室内飼いに
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
日なたぼっこしていたはずが…
時々SNSで「猫を探しています」と文字を見ると、胃がキューッとなる。実は私も昔、その張り紙を作ったことがあるからだ。
今から約40年前、家の2階には庭に面したベランダがあって、初代の猫たちは、いつもそこで日なたぼっこをしていた。
中学2年生の私の夏休みが終わるころ、トラとミーの夫婦とその娘のムクは、ベランダに干していた枕や布団の上に乗って幸せそうにまどろんでいた。
日が傾きかけてきたのでそれらを取り込もうとベランダに出た時、ふと、ムクがいないことに気づいた。
あれ?もう部屋かな?
万が一庭に落ちたとしても怪我をするような高さではないし、いつもお散歩させている場所だからすぐに見つかるはず、そう思い、「ムクー、ムクちゃーん!」と、名前を呼んだ。
……いない!
どうしよう!どうしよう!どうしよう!
今まで気づかなかった自分を責めながら、庭と近所中を探して回ったが、全く手がかりがなかった。
ムクはおとなしくて、好奇心で庭から出て行くような猫ではなかったから、きっとどこかでおびえているに違いない。
早く、とにかく早く見つけなくては!
けれどそんな気持ちをよそに、その日、ムクは見つけられなかった。
ムク、どこへ行ったの?
竹脇家の周りは奥深い住宅地なので自然が多く、畑や林が今もたくさんある。
私は近所の友達とそんな中を走り回って遊んでいたから、子供の割には顔が広かった。そしてそれを武器にあちこちのお宅にムクを探していると伝えて回ったが、結局見つからないまま時間だけがむなしく過ぎていった。
ムクがいなくなって2週間が過ぎた頃、家のすぐ裏の畑の奥に、猫の影を見たような気がした。
ザ!ザザザザッと畑に入り、夢中で駆け寄ったが、それはすがすがしいまでの丸見え不法侵入(しかも私は真っ白なTシャツにスカイブルーのズボンを履いていた)。
そしてそこにタイミングよく自転車に乗ったお巡りさんが通りかかり、私を見てびっくり仰天。
「こらー!!そこの女の子、出てきなさーーーーーーい!」と大声で怒鳴られてしまった。
精神的にも肉体的にもボロボロになっていた私は、お巡りさんの前に出て行ったとたん、「うわぁぁーーーーーーーーん!!」と泣きだしてしまった。
慌てたお巡りさんが私の途切れ途切れの釈明を聞きながら、「どうしたの?ねこ?猫がいなくなっちゃったの?ありゃー。張り紙を作って交番に持ってきなさい。ね?貼っといてあげるから」と言ってくれた。
でも優しく言ってくれればくれるほど、ずっとこらえていた気持ちが吹き出して、涙が止まらなくなってしまった。
その晩、一生懸命張り紙を作って交番に持って行ったけれど、それでもムクの行方はわからなかった。
(もう見つからないのかも)、そう思うと全然眠れなかった。
ムクが帰ってきた!
3週間が過ぎ、秋の足音が遠くで聞こえる頃、学校から戻った私に母親が満面の笑みで、「ムク、帰ってきたよ!」と言った。
私は荷物を放り出して2階へ駆け上がり、少しほっそりしたムクを泣きながら抱きしめた。
ごめんね。ごめんね。
もう、ベランダ、駄目だからね。
ごめんね。ごめんね。ごめんね。
その日から、我が家の猫たちは完全室内飼いとなり、庭は自由な猫たちがのびのびと住み着くようになった。
ムクは庭や勝手口に置いてある、「通い」の猫たち用のゴハンを食べて、どこかで息をひそめていたようだった。
逃げた猫はそんなに遠くには行かないという。
きっとムクもそうだったのかもしれない。
ならば、どうしてすぐに帰ってきてくれなかったんだろう?
お外は確かに空が広くて、草や鳥や虫や自然の楽しい匂いがすると思う。
私が猫だったら、自由を選ぶかもしれない。
でも一度人間と暮らした猫は、雨風をしのげる暖かいおうちと、時間になれば出てくるご飯の記憶がある。
イエネコたち、だから、無断外出はいかんよ。
私が猫の学校の先生なら、まず、そう教えるんだけどな。
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