今でも思い出す そうめんを前に宇宙一可愛い顔をする猫の「クッキー」
切れ長の美しい猫「クッキー」
猫の名前を呼ぶとき、どうしても自分流に呼んでしまう癖がある。
今までに登場したアトムは「アトミュン」、カヌレは「カヌピョン」という風に、好きの気持ちがついつい前のめりに出てきてしまう。愛称が付けづらい名前には最後に「たん」や「ちゃん」、を無理やり付けてしまうこともしょっちゅうだ。
今回の主人公クッキーも、クッキーと正しく呼んだ記憶はほとんどない。
いつも「クーニャン」と呼んでいた。
中国語っぽい響きなのでちょっと調べてみると、発音はよくわからないけれど「お嬢さん」のような意味らしいのだが、クッキーは切れ長の目をした美しい男の子だった。
小首をかしげる小柄な子
動きがゆっくりで、小柄なクーニャンは、生後半年くらいの大きさで竹脇家の庭にたどり着いた。
その時、小首をかしげたまま歩くので、すぐに獣医に連れていくと、三半規管に問題があるらしいとのこと。
それ以外は別段問題なかったけれど、ほわほわしていて妙に頼りなげなので、すぐに「うちの子」になってもらった。
クーニャンは、いつも私のベッドの上に長々とねそべり、たまに年の近い仲良しのセナとじゃれては、首をかしげながらトトトトトッと小さく走ってみたりして、なんともチャーミングだった。
そしてちょこんと座ってこちらを覗きこむ姿は、あの「蓄音機の横にいる白い犬」によく似ていた。
ソーメン、チョーダイ!?
ある夏の日、そんなクーニャンが突然タタターーンッと、見たこともない速さで食卓に上がってきた。
竹脇家の猫たちは、食卓にのることを特に禁じられていない。
母も魚を香り高く調理したような、猫が狙いそうなメニューは絶対に食事に出さなかったので(後でわかったことだけれど、母は焼き魚や魚の煮つけがそもそも好きではなかったらしい)、いつも綿菓子のようにはかなげなクーニャンのその俊敏な動きに、家族全員びっくり仰天した。
しかも、その時のメニューはそうめんと野菜の天ぷらだったので、みんなでキョトンとしてしまった。
けれど目をキラキラさせたクーニャンは、「ソーメン、チョーダイ!」と鳴きだした。
瞬間的に目で交わした家族会議の結果、1本くらいならいいかな、ということなり、代表で母が目の前にそうめんを1、2本置くと、クーニャンはうれしそうにそれを食べ始めた。
猫の健康を考えると塩分の強い人間の食べ物はご法度だが、このときばかりはつい、「もう1本食べる?」「私もあげてみたい」と、甘やかしてしまった。
そしてその日を境にそうめんが食卓に並ぶときは誰かがクーニャンガードをすることになり、ただでさえずるずると慌ただしいメニューなのに、より一層慌ただしくなってしまった。
それでもキラキラとお裾分けを待つ瞳に一人屈し、二人屈し、ついには全員からちょっとずつそうめんをもらうクーニャンは、なかなかの策士だったのかもしれない。
今でもそうめんをゆでると、クーニャンのあの、小首をかしげてそうめんを見つめる宇宙一可愛い顔を思い出さずにはいられない。
地上から旅立った猫たちは、いつも記憶の引き出しから突然ひょっこりと顔を出して、私の五感をくすぐる。
旅立った時のことも思い出してしまうのは辛いけれど、一緒に過ごした、その何倍もの楽しい時間と思い出を前面に押し出して、今夜のメニューは夏の残りのそうめんにする予定だ。
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