動物にトラウマがあった夫が子猫を保護、すると変化が 今では人より猫が多い大家族に

6匹の猫
この6匹にさらに昨夏1匹加わり、今は7匹(夏子さん提供)

 2005年秋に結婚して以来、7匹の猫たちと暮らすようになった女性がいます。なんとその半数以上は、動物に嫌われて続けてきた夫が「飼いたい!」といって迎えた猫。考え方などの違いから、“猫をめぐる夫婦げんか”もしてきましたが、それでもやっぱり猫は、家族をつなぎ、笑顔の元になっています。にぎやかな生活の様子やこれからのことを聞かせてもらいました。

(末尾に写真特集があります)

7匹の猫とのにぎやかな暮らし

「うちは猫の数が人より多いんです。気づけばこんなんなってました(笑)」

 大阪府東大阪市在住の主婦の夏子さん(41歳)が、屈託のない笑顔で話す。

 夏子さんは今、3歳上の夫と、中学2年生の娘、そして雌猫4匹、雄猫3匹とにぎやかに暮らしている。

 この日はリモートで取材だったのだが、ちらっと猫たちが映った。キジトラの猫や白黒柄の猫、長毛の猫もいる……。名前を尋ねると、みんなを紹介してくれた。

「私の横にいるキジトラが、最初に我が家に来た11歳の茶々丸です。この子を筆頭に、じゃこ天(8歳)、こてつ(7歳)、十兵衛(7歳)、新兵衛(7歳)、牛太郎(6歳)、笹次郎(9カ月)がいます。名前のせいで、ややこしくなりますが、茶々丸とじゃこ天とこてつと十兵衛は“女子”なんです(笑)」

猫を保護した夫が熱中症に

 夏子さんは2005年11月に結婚して、翌々年に娘を出産。その1年後、義母と夫と3人で喫茶店を始めた。初めての子育てと仕事で忙しい中、“猫との縁”がどんどんできたそうだ。

「もともと子ども好きなので、3人でも4人でも子どもが欲しいと思っていたんですが、気づけば、“猫だくさん”になっていました(笑)。旦那がほとんどの猫を連れてきたんですよ」

 最初の猫、茶々丸との出会いは「衝撃的なものだった」と夏子さんが振り返る。

「11年前の8月。私と義母がお店で働いている時に、旦那が車で買い出しに出かけたら、『車のどこかからずっとニャーニャー聞こえるんやけど』と私のケータイにかかってきて。『えー、それエンジンルームに入りこんでるんちゃうか、探した方がええ』といったら……本当に入っていたんです」

 かんかん照りの中、夫は駐車場まで戻って車を止め、ボンネットを開けたり、車の下に入りこんで、汗だくになって声の主を探した。するとエンジンルームに、生後3カ月くらいの子猫がいるのが見つかったのだ。猫は幸い無傷だったが、夫は暑さでふらふらになってしまったという。

2匹の猫
茶々丸(左)とじゃこ天(夏子さん提供)

「お店のお客さんが途切れた時に私が駐車場まで行って茶々丸を受け取り、とりあえず、お店が終わるまで段ボールで保護していました。旦那は猫の救出時に熱中症のようになって意識がもうろうとしていたのですが、トイレの手洗い場で頭から水をザブザブかぶって、なんとか無事でした」

 子猫をどうするか相談すると、夫は「俺がふらふらになって助けたし、家で飼うしかない」といった。夏子さんは仕事が忙しいため少し迷ったが、「迎えてあげよう」とうなずいた。

「翌日の仕込みや1歳児の世話で大変でしたが、お店は自宅のそばにあるし、猫1匹ならケアができると思い、茶々丸を迎えることにしたんです。旦那が自ら、猫を迎えると言ったのは意外でしたけど……」

 じつは、夏子さんの夫は、日頃から動物に警戒されるタイプだった。何もしないのに野良猫に激しく威嚇されたり、散歩中の犬に飛びかかられたりかまれたり。鹿がいる公園に行った時には、鹿が地面を蹴って突進してきて、吹っ飛ばされたこともあったという。

「鹿は角を切った後だったので旦那は無事でしたが、体から何か動物たちを刺激するオーラが出ているのかと思うくらい。夫自身もそれを自覚していて、長年トラウマがあったみたいです」

 茶々丸と暮らすことで、そのトラウマは消えていったようだ。そして茶々丸が3歳になった頃、夫がとつぜん“2匹目の猫”を家に連れてきた。

猫をめぐって夫とけんか

「旦那が連れてきたのは、ホームセンターで売られていたロシアンブルー。『茶々丸がひとりでさみしそう』と思いながら店内を歩いていたら、猫と『目があった』と。茶々丸の妹分が欲しいのはわかる。夫が猫好きになったのもうれしい。でも私は幼い頃から、保護された犬や猫と暮らしてきて、ペットショップに抵抗があったし、相談もなく何でや?ともめて……けど返してこいとも言えず、迎えることにしました」

 茶々丸は、じゃこ天と名付けた妹分の面倒をよく見て、仲良くなった。

 2014年には、サバトラのこてつ、キジトラの十兵衛、長毛の新兵衛が、家に仲間入りした。

 こてつは、夫の友人宅の近くで保護された野良の子だった。夏子さんは夫から話を聞き、一緒に猫を見にいき、引き取ることにした。十兵衛は、家族で営む喫茶店の裏をウロウロしていたところを夫が見つけ、保護した。

猫にフードを与える
店の裏で夫が保護した十兵衛(夏子さん提供)

「『気づいたら十兵衛が足元にすり寄っていた』というんです。確かにこの頃には、夫は動物に嫌われるどころか、猫を吸い寄せていた気がします。でも、その後、大きな夫婦げんかをすることになったんですよ」

 十兵衛を迎えた翌月のことだ。金魚の餌をホームセンターに買いにいった夫が、猫を連れて帰宅した。夏子さんにすぐ気づかれないように、着ていたパーカーの服の中に、モフモフのノルウェージャンフォレストキャットの子を隠して部屋に入ってきたのだ。

「売れ残っていたようですが、また事前に連絡もなく、さすがにその行動に打ちひしがれ……。私は2日間くらい旦那と口を利きませんでした。猫に罪はなく、家に連れてこられたら、どうしようもできないんやけど……夫婦でも考えが違うことはある。わかってもらおうと思い、よくよく気持ちを伝えしました」

 そこで、「ペットショップではもう買わない」と夫とあらためて“約束”をした。そのうえで、猫に新兵衛を名づけ、受け入れることにした。もちろん新兵衛のことは、他の猫たちと分け隔てなく可愛がった。

「新兵衛はとにかく体が大きくシッポもふっさふさ。それで、市販のトイレだと、うんちをした後にシッポに少しついてしまうので、トイレの工夫が必要でした、そこで、旦那の出番です。DIYを頼みました」

 ホームセンターで横の長さ90㎝の大きなプランターを買ってきて、トイレ代わりにし、猫が足裏の砂を落とせる“すのこ”を連結。それを横の長さ120㎝ほどの引き出しに入れて、外から見えないようにしてカーテンをつけた。

 すると、新兵衛はシッポを汚すことなく用を足し、ほかの猫たちも好んでそこでするようになった。

専業主婦になると、猫が甘えん坊に

 夫婦間でどたばたはあったものの、5匹は仲良く健康に育った。娘も、猫が大好きな子に育った。

「娘に少しアレルギーがあったので、2階の寝室には猫たちを入れないようにしたら、ぜんそくも出ずにうまく共生ができました。仕事で家を空ける時間が長いので、猫たちは、人に頼らず、”猫同士“でのんびり好きに過ごしていましたね」

 このまま家族3人と5匹で生活……のはずだったが、2015年、また喫茶店の裏に子猫が現れた。その時も、夫が第一発見者だった。

「梅雨の合間、親からはぐれた生後2カ月くらいの白黒猫が、目が見えない状態で店の裏をふらふらと歩いて、旦那の足にぶつかったんです。目やにで両方の目がくっついていたので、私がぬるま湯でふやかして、仕事が終わってから病院にいったのですが、栄養状態も悪く、獣医さんには『数日がヤマかな』といわれました。でも注射をしてもらい、家に連れかえり、何とかその後、元気になりました。牛のような柄なので、牛太郎と名付けました」

白黒猫
超甘えん坊に育った牛太郎(夏子さん提供)

 じつは、牛太郎を保護した翌月、夏子さんの家族は、家の事情で喫茶店を閉めることになった。

 喫茶店と同時に営業していた中古車販売店だけ夫が続けることになり、それを機に、夏子さんは専業主婦になった。

「私が家にいられるようになったせいか、牛太郎は、留守が多い中で育った他の猫よりずっと甘えん坊になりました。腰をたたく“お尻トントン”が好きで、しかもかなり強めにたたかれるのが好み(笑)。手を止めると、『もっとたたけ』というように向きを変えてひざに乗ってきて、こちらのおでこに触れて催促する変態キャット。でも可愛くてしかたなかったです」

 末っ子猫として、夏子さんや夫、娘にとことん甘えていた牛太郎だが、昨年7月、牛太郎にとっても「よもや」の出来事が起きた。子猫がやってきたのだ。

「家のそばでさまよっていた野良の子猫を、旦那とご近所さんとで保護しました。うちの駐車場にあった鉄の筒に入り込んだところをみんなで塞いで、前の家の方がキャリーケースを持ってきて下さり、4人がかりで捕まえ……さあどこで飼うかなとなって、旦那が『我が家で』と手を挙げたのです」

 七夕の季節だったので、子猫に笹次郎と名付けた。保護した時から片方の目の角膜が傷ついて白濁し、見えていないようだったが、とびきり元気な可愛いサバトラだった。

 先住猫5匹は、久しぶりの子猫をすぐに受け入れたが、牛太郎だけは「すねてしまった」という。

「牛太郎は、末っ子の座を奪われて大変でした。いつもだったら、『牛ちゃん』というだけで、ぴゅーんと飛んでくるのに、笹次郎が来てからは、名を呼んでも振り返らないし顔も見てくれない。なだめるために牛を抱いても、顔をみいひんし、うにゃうにゃと文句を言って。その拗ねっぷりが人間みたいでした」

 大丈夫かなと家族で心配したが、3週間もすると、牛太郎は笹次郎と打ち解けた。2匹の姿がふいに見えなくなったので室内を探したら、階段の上の方で、並んで寝そべっていたのだという。

「暗い中、廊下から手を伸ばして動画を隠し撮りして後で見たら、牛が笹の顔をなめてあげていた。可愛いやん!と驚きました。そこから2匹はすごく仲良しになりましたが、牛太郎がなにか話してきかせたのかな(笑)。たくさんの猫を見てきているけど、まだまだわからないことも多いですね」

2匹の猫
笹次郎(右)を受け入れ仲良くなった牛太郎(夏子さん提供)

猫を増やさず、向き合いたい

 夏子さんは、これまでを振り返り、こんなふうにいう。

「時間が流れるのは、あっという間でした。猫が増えるのも、あっという間でしたね。時間に余裕がなかったので、最初の頃は猫の誕生日を祝ったりもできなかったので、これから、ゆっくり向き合いたい。幸いみんな健康ですが、茶々丸やじゃこ天はシニアになってきたので、健康面を気を付けないと。あと約1名、まだしつけが必要で……」

 じつは夏子さんは、笹次郎を迎えいれる時、夫とあらためて話し合ったのだという。

 猫が好きだから、出会った猫はみんな幸せにしたい。けれど家で迎えるにはやはり限りがある。そこで、猫についての誓約書を作成中なのだとか。

「旦那さんの知り合いの家には猫部屋があり、10数匹いるらしいけど、7匹でも十分に多いですからね。“さっきうんちを取ったばかりなのに、また、さらにまた”という感じ。最初の5、6年、私もお店の仕事があるのに猫の世話を手伝ってくれないから数えきれないほどけんかをしました。だから、猫の食器洗いとか動物病院の送迎とか、やってほしいことを箇条書きにして押印してもらおうと思ったんです。書きだしていたら膨大になってしまい、まだ途中です(笑)」

抱っこされる子猫
7番目にやってきた笹次郎を抱く夏子さん(夏子さん提供)

 おおらかに話す夏子さんの周りに、いつしか猫が集まっている。その頭を、1匹ずつ、なでていく。

 じつは昨秋、夏子さんは大好きだった祖母を亡くした。その時、猫たちにとても癒やされたそうだ。

「おばあちゃんが私の家にくると、牛太郎が寄っていって、そうすると背をトントンしてくれていたなあ……なんてシーンを思い出しました。私自身が小さい時も、こうして大人になってからも、家族の思い出の中に当たり前のように猫がいる。それはとてもうれしいこと。これからもずーっと猫との生活は続くでしょう。あ、でも、数は増えないですよ。旦那さんと約束しましたから!」

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
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