事故で前脚が曲がった子猫 にぎやかな家で妹のように可愛がられて幸せに

窓際の猫
窓辺でくつろぐマーズ(Aさん提供)

 沖縄で交通事故に遭い、前脚が曲がった子猫が、保護されて飛行機で関東へ。その後、埼玉の保護猫カフェで過ごしている時に「ずーっと猫が欲しかった」という家族と出会い、やがて家に迎え入れられた。3人の子どもは“妹ができたみたい”とその可愛さに夢中。猫も家族を慕い、ハッピーな日々を過ごしている。

(末尾に写真特集があります)

 関東近郊に住む家族のもとに雌の子猫がやってきたのは、昨年11月13日。

「マーズが来て約11カ月経ちますが、毎月、毎日がイベントみたい。いつも見ているのに、『毎日可愛いって言っちゃうよね』と家族と話しています」

 母親のAさんが笑顔で話す。その横で、「名前はマーズ」「三毛猫です」「尻尾は長め~」とにぎやかな声が。Aさんには3人の小学生の子どもがいて、皆、マーズが大好きなのだという。

初めて知った保護猫の存在

 マーズは一家にとって初めての猫だ。

 猫に強く惹かれたのは昨年7月、子どもたちと寄ったショッピングモールにいた子猫の可愛さに感激した。だが、Aさんは高い値段に驚き、また、ローンで生き物を購入することにも違和感を覚え、“飼うのは無理”と思った。

「それでもしばらく、みんな脳内が“猫”でした。それで、検索して見つけたのが、保護猫カフェねこかつで、保護猫の存在も初めて知りました。保護猫カフェには何となくナイーブなイメージがあり、子連れで行ってもいいのかと不安だらけでしたが、「18歳以下の方は、利用料金が半額」とあったので、良心的で、子どもも歓迎してくれていると感じたので行ってみることにしました。同じ商店街にある他の猫カフェは、中学生以下が入場不可でしたので……」

子猫
家に来て2週間経った頃。今より小さく幼い(Aさん提供)

 すると、そこはまさに猫パラダイス。触れ合えるだけでなく子猫たちがたくさん遊んでくれて、遊んだ後はひざの上でスヤスヤ。子どもたちも大喜びだった。そこでAさんは子どもたちとある約束をした。

「子どもたちは学校、お母さんは仕事を頑張ったら、ご褒美に月に1回、保護猫カフェにきて癒やされようと条約を結びました(笑)。その間隔が、月2回から隔週へと狭まり、ある日、『このペースで通い詰めていたら、猫と暮らすくらいのお金を使いそうじゃない?』となり、お父さんに言ってみようということになりました」

ハンデもなんのその、お父さんと楽しそうに遊んでいます(Aさん提供)

 Aさんの夫は、前に何度か「飼うのはダメ」と言っていた。だが決して猫が嫌いなわけではなかった。昔、保護をした猫が出産し、その子猫を育てて家族を見つけるまで経験し、命と向き合う大変さを知っていたのだ。

「餌代やもろもろで1匹に生涯かかる費用は200万、と夫に現実を言われると反論できず、私自身も実家でずっと犬と暮らし、老衰で息を引き取るまでの数年は介護もしました。苦ではないけど犠牲を払うこともいくつか出てくることを思うと、“生き物を家族に迎える覚悟”はとても大きいものだと改めて思いました」

 そう考えながら夫にアピールを続けると、「猫の全責任をお母さんがとるなら考えてみてもいいかもね」と夫が前向きになったので。Aさんは、ねこかつで気になっていた猫のことを話してみた。

「片方の前脚がこう曲がってて、でもすごく足が早くておもちゃに飛びついてくる子がいるんだよ、とマーズの動画を見せたら、『あー、かわいいな』と言ったんです。子どもたちのテンションも上りました」

 10月後半、家族そろってねこかつに行くと、夫からうれしい言葉を聞くことになった。運命の瞬間だ。

カードと猫
5月、1歳の誕生日を家族でお祝い。カードは次男が書いたもの(Aさん提供)

迎えるならマーズ!

「夫が、『実物の方がマーズは可愛いね』と言い、『片方の前脚が不自由で、ねこかつで暮らすか、誰かが引き取るかしないと生きられないだろうから、引き取るならこういう子かな』と言ってくれたんです。子どもたちも『迎えるなら絶対マーズ!』と言って一択でした」

 少し時間はかかったが、こうしてついに念願の猫との生活が始まったのだ。

 マーズは家に来た当初は緊張し、子どもたちにも圧倒されていた。しばらく爪研ぎポールから動かなかったが、子どもが寝静まった後、動き出した。Aさんは最初の晩が忘れられない、という。

「トイレに行き、ご飯をがつがつ食べて、今度はうんちをして、探索。おもちゃで遊んで、毛繕いして、私と2人きりでゴロゴロ喉鳴らして。まったく眠れない長い夜でしたが、すごーく幸せな夜でした(笑)」

 マーズから改名するか、家族会議もしたが、子どもたちは3人とも「変えない!」で一致。宇宙が好きな夫も、“火星”を意味するその名がいいねと言い、マーズのままになった。

 前脚は確かに不自由そうに曲がってはいるが、当人は気にせず行動は自由。生活の上で支障はほぼなく、階段も登る。Aさんは、排泄の後に丁寧に砂をかけるきれい好きなところにも感心したそうだ。  

子どもたちとの関係

 マーズのことを、子どもたちにも聞いてみた。それぞれ、取材のために紹介文を紙に書いてくれていた。

 まずは7歳の次男、コジくん。

「マーズは、ごはんを食べたらマッサージチェアの後ろで寝る。マーズは食いしん坊。マーズは左手がおれてる。マーズは遊びはじめると走ったりする!」

 末っ子のコジくんは、自分より小さな遊び相手ができたのがうれしくて、よく観察しているようだ。

「マーズは早起き。遊びたい時、にゃあにゃあ言って起こしてくる時があります」

 なかなか起きないコジくんを、マーズは「生きてるよね」というように確認することがあるのだそう。 

 一方、9歳の長男かいくんは、じゃらして「遊ばせる」のが得意で、マーズが繰り広げる“技“に注目する。

「マーズはおしりふりふりアタックをする。これは獲物に狙いを定めてアタックすることで、家に来ていちばん先に覚えた技です。くびわ回しは、足でくびわを回す技。獲物を逃がした時には、でんぐり返しもします」

 マーズは窓から電車を眺めるのも好きで、かいくんはそんな姿からインスピレーションを得て、『ツンデレマーズは駅長さん』という本も手作りした。

猫とぬいぐるみ
長男の作った帽子をかぶり、ねこあつめの駅長さんとニャルソック(Aさん提供)

「駅長の帽子も手作りしました。フェルトを切って、接着剤でつけました。マーズに似合うと思う」

 11歳の長女、レミちゃんは、「妹のような存在」ができたことを喜び、行動のすべてを愛しく感じている。

「寝ている時に口や手を動かす。自分が牛乳を飲んでいる時によこどりしてくる。そんなとこが可愛いすぎるし、弟たちがいなくてお母さんと私とふたりだけの時、よくへそ天をします。私が帰る時だけ迎えてくれるのも嬉しい。一緒に寝るのは、すごく暖かくて幸せな感じです」

 どうやら女の子同士、“姉妹の絆”がある様子。

母からのメッセージ

 マーズが来て、「子どもたちが変わってきた」とAさんは目を細める。

「たとえば、動物のニュースをすすんで見たり、学校の図書館で本を借りたいと言ってきたり。皆、動物への興味がぐっとわきましたね。笑顔も増えました」

机の上の猫
「え?にゃにか?」破ったプリントを隠し、とぼけた顔を見せる(Aさん提供)

 先日、マーズが勉強のプリントを破ってしまったが、「可愛いから仕方ない」と皆で笑ってしまったそう。

 子どもだけでなく、Aさん自身にも変化はあったようだ。最後に、こんなことを話してくれた。

「マーズはまるで“4人目の子ども”のようです。末っ子の手が離れたら母として寂しいなと不安にかられた時があったのだけど、そんな気持ちも安定しました。ペットというより本当に家族……そして、マーズもそうだけど、ハンデや病気のキャリアがあったとしても、保護猫を家族に迎えたら幸せなことが増えるし優しくなれる。いいこともいっぱい!そういう子の家族がたくさん増えるといいなあって、心から思います」

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は18歳の黒猫イヌオと、4歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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