飼い主の都合で住む場所を転々とした猫 今は「でっかいばぁば」の家で穏やかな日々

“でっかいばぁば”に抱かれるちょび

 ある男性宅で飼われていた猫が、男性の会社に連れてこられたが、都合で家に連れ戻された。と思いきや家を出されて町を放浪。男性の親族に保護されて別の会社の猫として落ち着いたのだが、今度は会社がなくなり……人の事情に翻弄(ほんろう)されながら生き延びてきた雄猫を「うちにおいで」と迎えたのは、会社の元従業員だった。どんな暮らしをしているのか、会いに行ってみた。

(末尾に写真特集があります)

大変な中を生き延びた猫

 梅雨の晴れ間、都内の住宅街にあるマンションを訪ねた。

 玄関近くの部屋から目の大きな三毛猫が顔を出し、続いて、奥のリビングでキジ白猫が「よく来たね」というように迎えてくれた。

 家主のA子さん(50歳)が説明する。

「三毛はすもも、もうすぐ13歳。キジ白が雄のちょびで、14歳。2匹とも保護猫ですが、とくにちょびは、大変な中を生き延びてきたんですよ……」

穏やかだけど、ヤンチャをすることも

飼い主の都合で転々と

 A子さんがちょびを家に迎えたのは、2016年11月のこと。出会いは、当時勤めていた会社だった。

 ちょびはその会社にくる前に別の会社にいて、そこからさらに居場所を変えてさまよった時代があったのだという。

「もともと上司の家にいた猫でしたが、“猫好きも多いから”と会社に連れていかれたようです」

 そこで数年暮らしていたが、上司が再婚することになり、また家に連れ帰ったのだという。

「お相手が雌猫を連れてきたので、自分の猫も家にと思われたのかわからないのですが……。ちょびの立場で考えれば、自分のテリトリーだった場に知らない猫がいたら戸惑いますよね。ちょびが室内で攻撃的になって、表に出たがったら『そんなに行きたいなら』と、外に出してしまったようです」

 しかもそれは夏の盛り。家の外に餌は置かれていたが、ちょびが室内に入りたがっても、入ることができなかったらしい。

 ちょびは暑い中を1カ月、放浪した。

ガリガリに痩せていた

 約1カ月後、ちょびはふらっとある家の庭に入ったのだが、そこは上司のお母さんの家だった。ちょびのことを知っていたお母さんが、不思議そうに、会社まで届けたそうだ。

「お母さんの家からは、ちょびちゃんが前にいた会社より私の勤める関連会社の方が近くて、『この子(息子の飼っている)ちょびよね、なぜ外にいるのかしら』と連れてこられたんです。その時に私はちょびを初めて見たのですが、ガリガリに痩せて、目をむいてました。声はかれていました」

2014年8月、保護されて前にいたのとは別の会社に届けられたちょび。汚れて痩せて目はぎょろついていた(A子さん提供)

 A子さんは、周囲からちょびの「それまでのこと」を聞き、ひどく胸を痛めた。

 ちょびはそのまま会社に暮らすことになったが、その時に上司が発した言葉に、A子さんは耳を疑った。

「『(ちょびは)もう死んだと思っていた』と仰ったんです。上司なので強く言えなかったけど……社員として絶対にちょびを守ろうと思いました。それで、動物好きな同僚と2人で“チームばぁば”というのを作って。背の低い同僚が小さいばぁばで、大きな私がでっかいばぁば。2人でちょびちゃんの面倒を見て、思い切り甘やかし、可愛がることにしたんです」 

営業部長に就任そして引退

 ちょびは人に冷たくされ飢えた時間もあったのに、決して人を嫌いにはならなかった。

 ちーむばぁばのひざにひざ乗ったり、デスクでくつろいだり。会社に来客がくると、「いらっしゃーい」「よく来たね」と人懐こく気さくに間に入るので、営業部長と呼ばれた。時には会議にも参加した。

 夜になると会社内が冷えるので、チームばぁばが、寒くないようにとちゃんちゃんこを贈った。ごはんも欠かさずもらって、社内で可愛がられ、“ちょび営業部長”は穏やかに過ごした。

 だがそんな生活も長くは続かなかった。2016年の秋、会社がなくなることになった。

 A子さんが続ける。

「社員の私たちも急なことで困りましたが、ちょびちゃんがどうなってしまうか……。もうこれ以上、人の都合で行き場を失うのは可哀想で、うちで引き取れないかなと考えました」

 A子さんは離婚しており、長男と長女の3人暮らし。家にはミニチュアダックスのじんぢゃー(当時13歳,愛称じん君)と、すもも(当時9歳)、亀や鳥もいた。

新たな家でのちょび、じんぢゃー、すももの3ショット。日だまりのなか、みんな幸せそう(A子さん提供)

じん君とすももは犬猫の垣根を超えて兄妹のように仲良しでした。ちょびが来たら最初は戸惑うかと思い、『会社にこういう猫はいるのだけど引き取りたいの、うちの子たちが慣れるまで、ちょびちゃんをあなたの部屋に置いてもらえないか』と長男に相談しました」

 長男は、いいよと快諾した。

 こうしてちょびは、営業部長を2年で引退し、A子さんの家族となった。10歳の時だ。

3匹のにぎやかな時間

 ちょびと先住猫、犬との関係は、A子さんが想像した通り、初めはスムーズではなかった。

 じん君はちょびに興味を持ったが、ちょびは受け入れず。一方、犬しか知らないすももは、ちょびを威嚇。それでもちょびは、自分を部屋で守ってくれる長男をアニキのように慕い、男同士の結束ができた。

A子さんの長男のひざでくつろぐちょび。「僕はアニキにずっとついていく」(A子さん提供)

「長男の部屋は北向きで狭かったし、もう少し広い所で過ごせるように、2019年にこのマンションに移ってきました。日当たりのよいリビングで、犬も猫も亀もみなで過ごすことができればいいなと思って」

 そして、現在の家に越したタイミングでフリーにすると、それまで萎縮していたちょびが、伸び伸びしてきた。リビングで犬猫3匹がそろうことも増えてきた。触れ合ったり、じゃれあったり、時々ケンカしたり、にぎやかな時間が続いた。

耳元でにゃあと鳴いた

 しかし2019年秋になると、高齢のじん君が食事をとれなくなってきた。以前から慢性的に悪かった腎臓病が進み、翌年の1月、病院で「余命1、2週間」と告げられてしまった。

「家にいる時はじん君から目を離せず、世話もかかりきりになりました。じん君がちゅーる好きだったので、エネルギー補給のために何本もなめさせていたのですが、ちょびちゃんはじん君がなめ終えるまで後ろでじっと待っていたんです。今から考えると、まっさきになめたいのを我慢していたのかも……」

 ちょびは、家の様子や家族と動物の関係をよく把握していた。

 じん君の腎臓の症状が進むと寝る時間も増えたが、ちょび君は、ちょっと変わった行動をとったそうだ。

 朝ごはんを食べたい時など、A子さんに直接要求せず、じん君の耳元でにゃあと鳴いた。

「私がじん君ばかり見ているのを知っていたから、じん君に向かって大声で鳴けば私が跳び起きるとわかっていたんですね。じん君が亡くなる数週間には、目を離したすきに、ちょびがじん君の耳をかんでかさぶたを作ったこともありました……。悪いことをするなと思ったけど、やきもちもあったのかな。『ばぁば僕をもっと見て、会社にいた時にみたいに独り占めしたいのに。なんで僕は2番目、3番目?』と、葛藤していたのかもしれません」

「ばあば、そろそろ、にゃめーる(ちゅーる)の時間じゃない?」取材中、目で訴えるちょびちゃん 

ペットロスを癒やすちょびの存在

 今年1月、犬のじん君が、息を引き取った。17歳の誕生日の翌日のことだった。

「余命宣告から1年もがんばってくれました。長く一緒にいたし、長男も長女も子どもの頃から一緒に育ち、さいごは交代で介護をし、見送った時はみんなぼろぼろ大泣きでした」

 しかし、家族が集まって沈む中で、ちょびが皆を笑顔にすることが起きた。

「棚にいたちょびちゃんが、飛び降りようとした時に、珍しくずっこけたんです。たまたまだろうけど、『ちょびがコケた~間抜けだけど、可愛い』とみな泣き顔からの大笑いでした」

 じん君が旅立った後、ちょびの行動には、いくつか変化が起きたようだ。

「前よりひざに乗ってきて、ちゅーるも遠慮せずになめて。夜、私のそばで寝るようにもなりました。しかも、じん君がいた右側でなく、左側で寝る。姿が見えなくなっても『右側のテリトリーはじん君の』と尊重しているようです。彼なりの仁義なのかも」

 A子さんは「絶賛ペットロス中」というが、ちょびの存在に確実に癒やされているという。

「プライドの高いすももとも、うまく共存しています。鼻であいさつしたり、すもものトイレを使ってみたり(笑)。この前、2匹の検診にいきましたが、数値は問題なし。ずっと、これからも“でっかいばぁば”と家のみんなと暮らそうね。思い切り甘えていいのよ、ちょびちゃん、今はあなたの時代だよ」

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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