人になれない2匹の猫、本棚の上にこもり雲隠れも 夫婦はゆっくりと心通わせた 

2匹の猫
お風呂型の爪とぎに仲良く入るアル(上)とリズ(恵里さん提供)

 ある夫婦が、結婚して4年目の今年、2匹の猫を初めて飼いました。きょうだいではないのに超仲良し、でも一致団結したように人になかなかなれない。2匹に翻弄(ほんろう)されながらも夫婦は工夫を重ね、距離を縮めていきました。するとあるとき猫に変化が……。“可愛くてしかたない”2匹について、伺いました。

(末尾に写真特集があります)

少しずつなれていった

 東京都世田谷区のマンション。リビングにお邪魔すると、愛らしいグレーのサバトラ猫が、テーブルの下から顔をのぞかせた。

「この子が、うちのお姫様のリズです。ふだんは、リーちゃんと呼んでいます」

「相棒のアルことアーくんは、カーテンの裏にいます。『誰か来るぞ』と察知して(笑)」

 電機メーカー勤務の木村亮太さんと、妻の恵里さんが、にこやかに説明する。ふたりは結婚4年目で、猫を飼うのはこれが初めて。部屋にはキャットタワーやおそろいの爪とぎなどが所せましと並び、すっかり猫仕様。猫を飼うため、2月に引っ越してきたのだという。

「3月に猫を迎えてから、8カ月が経ちました。リーちゃんは今1歳4カ月、アーくんは1歳2カ月。今では私たちに心を許してくれましたけど、なれるのは牛歩で、色々あったんですよ。いっときは家庭内野良も覚悟したほど……」

1匹のつもりが2匹に

 リズとアルは、保護活動をするmaiさんから譲渡された。恵里さんは数年前よりmaiさんのインスタグラムを熱心に見ていたのだという。

「迎えるなら保護猫がいいな、私たちが飼うことで一つの命を救えるならいいなと思っていました。そしてある日、インスタで見たリーちゃんに一目ぼれ。こんなに可愛い子がいるんだと驚いたんです」

夫妻と猫
リズを抱く亮太さんとアルを抱く恵里さん

 リズは東京の下町で生まれた元野良猫で、元々4兄弟。リズだけずっと捕まらず、道路のセンターラインにうずくまっていたこともあったのだが、保護主さんの「絶対に捕まえて助けたい」という強い思いのもと、兄弟たちから数カ月遅れで保護された。

 リズは猫好きな猫で、始めは「先住猫がいる家」を募集していたので、恵里さんは一度はあきらめた。しかしその後、maiさん宅に保護された黒猫アルが、リズと気が合ったため、“この2匹を一緒にもらってくれる方がいたら”と後日インスタに書いてあるのを見て、胸が高鳴ったそう。

「うちはまだ引っ越し前で、しかも夜中でしたが寝ている主人を起こして『1匹でなく2匹でもいい?』と確認し、maiさんに申し込みの連絡をしました。アーくんのほうは、都内の民家に迷い込んだ野良の子でしたが、どこかでネズミ捕りにかかり、毛がべたべたの悲惨な状態だったようです」

 違う場所で、危ない境遇を救われたリズとアルは、こうして縁をつかみ、2匹そろって木村さん夫妻のもとにやってきたのだった。

天上界から降りてこない

 夫妻のマンションは3LDK。夫婦の寝室、亮太さんの書斎、本棚を置いた5畳の洋間がある。その洋間を猫部屋にしようと決めた。ところが一筋縄ではいかなかった。

 恵里さんが初日を振り返る。

「猫は高い所が好きと聞いて、本棚の一番上に猫ベッドを二つ置いたんです。2匹ともそこに登ったのですが、リーちゃんはおなかがすくと食事に降りてきたし、触れるとぐるぐるいってくれた一方、アーくんは降りてこなくて。壁を向いたまま石のように固まって……ずっと高い所にいるので“天上界のひと”と呼んでいました」

キャットタワー
迎えた当時は脚立に乗り、天井近くにいる2匹に会いにいった(恵里さん提供)

 脚立を使って、ちゅーるをあげにいってもアルはなめない。引っ越してショックだったのかなと、恵里さんはmaiさんに連絡した。すると「アーくん、大丈夫だよ」とmaiさんがボイスメモを送ってくれた。その声を聞かせるとアルは安心したのか、ちゅーるをなめた。だが下に降りてくる気配がない。

「とにかく猫たちとの距離を縮めたくて、初日は寝室でなく猫部屋に布団を敷いて、夫婦で寝たんです。こわくないよ、一緒にいようねという思いで……下僕の布団作戦です(笑)。そうしたら夜中、暗闇の中でどちらかの猫に顔をのぞかれて。シッポをそっと触ると長かったので、アーくんだとわかりました。天上界から下界に降りてきてくれたんです」

 ところが喜びもつかの間。翌朝、「一大事」が起きた。猫がこつぜんと姿を消したのだ。

とにかく仲良しの2匹

書斎に猫部屋を移動して

 猫部屋の扉は引き戸で、左右に開閉できるようになっているのだが、寝ている間はぴたっと閉まっていた。窓も閉まっている。部屋から出ることは100%ないはずだが、姿が見えなかった。

「夫と一緒に探し回りました。ここにいるのが嫌すぎて、どうにかして別の部屋にいったのかなとも思いましたが、どこにもいなくて。キツネにつままれたみたいでした」

 すると3時間後くらいに、しびれをきらしたように、リズが「にゃっ(ここよ)」と鳴いた。

 なんと、本棚の本の奥の狭い隙間に、2匹がくっついて隠れていたのだ。

隠れる2匹の猫
本の奥に隠れていた2匹(恵里さん提供)

「本を倒さないようにそーっと数冊だけ前に少しずらして入り込み、息を潜めていた。猫ってなんと賢いのだろうと驚きました」

 思いがけないことはまだ続く。本棚事件が解決した翌日、恵里さんが猫部屋の戸を一瞬、閉め忘れた。するとリズが部屋から出て、パニックになってしまったのだ。

 亮太さんが説明する。

「リーちゃんは見慣れない部屋にびっくりしたのか大きな声で鳴いて、走り回った揚げ句、僕の書斎の隅に入ってしまった。今度はそこから出てこなくなってしまったんです」

 仕方なく、ケージやキャットタワーを書斎に移し、アルにも移動してもらい、しばらく書斎を猫と分け合うことにした。亮太さんは、その猫との時間が有意義だったようだ。

「基本的にリモート仕事なので、猫とずっと一緒にいて新鮮でした。独身時代には想像もしなかったシチュエーション(笑)。仕事を邪魔されるわけでもなく楽しかったですね。猫に僕を知ってもらうよい機会になり、僕も猫のことがわかった。猫って昼と夜で違うんですね、夜になるとスイッチが入る」

 3月も末になると、書斎が暑くなってきたため、猫たちのスペースを元の猫部屋に戻した。再び本棚の上に乗るようになったが、おなかがすけばアルも下に降りてくるようになった。
その後、2匹をフリーにしてみた。

 2匹はとにかく仲が良く、特にアルは“リーちゃん命”のようにくっついていたが、(アルは)夫婦に対してはよそよそしかった。本棚の上やケージや爪とぎの中など、狭い所にいる時はなでることができるが、どことなく緊張していた。

触れ合いを求め猫カフェに、その後奇跡が?

 猫をなでて満たされたい!そんな思いがマックスに高まった恵里さんは、亮太さんと一緒に近所の保護猫カフェに行くことにした。5月のことだ。

「お二方をナデナデできず心が折れかけていたので、『他の猫を触りにいこうか』と(笑)。猫の匂いをつけて帰ると、興味を持つかな、という淡い期待もありました」

「保護猫カフェには、アーくんと同じくらいの月齢の黒猫がいて、触らせてくれた。それでちょっと心が満たされたよね。いちばん可愛いのはもちろんうちの子たちだけれど」

黒猫
アルが初めて恵里さんの手を受け入れた瞬間(恵里さん提供)

 そんな夫婦の切なる思いを察知したのだろうか。保護猫カフェに出かけた2日後、アルが恵里さんと居間にいた時、突然、甘えるようにくっついてきたという。

「うれしかったですね、家に来て2カ月弱……じゅうたんの上で手を伸ばしたら、逃げないでなでさせてくれて、こつんと頭をぶつけてきて。そこから私たちも調子に乗り、また猫部屋に布団を敷いたんです(笑)。省エネの意味もあり、空調一つでみんなで過ごそうと」

 すると、かたくなだったアルが気を許し、布団の上に乗るようになったという。恵里さんのひざにも。

「8月に、私があぐらを組んで布団をかけていたら、ポンと乗ってくれて、うれしくて泣きました。相手が心を開くことって、こちらの努力で何とかなるものでもないですからね……」

リズも戸惑うアルの変化

 アルの甘え方に拍車がかかると、その行動やリズとの関係にも変化が起きた。

「9月になって私たちが寝室で寝るようになると、なんとアーくんが寝室のベッドで寝るようになったんです。でも、リーちゃんは寝室には入らず、部屋の外から見ていて」

 ある晩、リズが寝室に入るそぶりを見せると、アルが「待てよ。ここは俺のテリトリー」といわんばかりに、パンチを出そうとした。

「アーくんは独占欲がでたみたい。リーちゃんをなでているとそばにきて、『俺も』と鳴くんです。初めは猫たちの中に人間が入れない感じでしたが、“リーちゃん命”から“人間もいいかな”とシフトしていきました」

 アルが寝ている間にそっとリズをなでてあげるなどフォローするほか、寝室の亮太さんのクローゼットを猫用にして布団を置くと、リズも入ってくれるようになったという。

今後の伸びしろに期待 

 一緒に暮らすうちに「うちの猫は異性が好き」ということがわかった。

「私たちは、自分たちを猫のかあちゃん、とうちゃんって呼ぶことがあるのですが、どうみても男子のアーくんはかあちゃんが好きで、女子のリーちゃんはとうちゃんが好き」

 40歳を過ぎて初めて猫を抱く亮太さんの手元は少しおぼつかないところもあるが、そこは、かあちゃんがしっかりアドバイスをしている。

「私たちがふたりでいる時に、アーくんが私の方にきたら、『今、リーちゃんをなでてあげて』と夫に声をかけています。リーちゃんは控えめで、甘えたいけどどうしていいかわからないような時もあるので……。でもアーくんが劇的に変わったように、リーちゃんも変わって、夫のひざから離れない日が来るかも。伸びしろに期待しています」

夫妻と猫
カメラを気にしながらぺろっ。可愛さに夫婦も満面の笑み

 猫との距離が近づき、恵里さんは「ほっとしている」という。いつでもなでられる関係だと、異変にも気づきやすいからだ。

「動物は痛いとかつらいとか言えないので、家庭内野良の距離だとそれがわかってあげられない。もっと触らせてもらえる関係になりたい。リーちゃんともベッドで一緒に寝たいな……この冬、寝室でみんなでぎゅうっと暖をとれたら最高なんだけど」

 猫を抱いて話す恵里さんの顔が、ほころんでいる。そんな恵里さんを見て、亮太さんもほほ笑んだ。 

「猫がいるといないとでは、きっと生活が大違いだっただろうなと思います。今のように平穏でゆとりのある暮らしの中で、楽しそうな妻を見ることができて、2匹が来てくれたことには本当に感謝しています」

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は18歳の黒猫イヌオと、4歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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