わなにかかり殺処分寸前だった母犬 子犬とともに引き取られ、穏やかで幸せな日々

 元野犬の母犬と愛護センターで生まれた子犬たちは、殺処分寸前で少女に救われ、穏やかで安心できる居場所と家族を手に入れた。

(末尾に写真特集があります)

命の期限 

 2013年、当時高校生だったmoooさんは、ボランティアとして参加していた犬猫の保護団体の譲渡会で1枚の掲示物に目を止める。それは、愛護センターに収容されている犬たちの特徴や収容期限を掲載した紙だった。moooさんの目に飛び込んできたのは、愛護センター内で出産した野犬の母犬と7匹の子犬の情報。引き取り手が見つからず、収容期限が迫っていた。

母犬と子犬
愛護センターで出産した元野犬のモモ(moooさん提供)

「命がけで出産したのに、生まれた時から母子そろって命に期限がついているなんて」

 ショックを受けたmoooさんは、帰宅後、両親に思いを打ち明ける。

「母犬と子犬をわが家で預かり、譲渡先の募集ができないかと相談したんです。もともと動物は好きだったのでいつかは犬を飼いたいと思っていたのですが、まだ先のことだと考えていました。でも、今回はどうしても、子犬もお母さんもいっしょに助けたかった」

 moooさんの思いが伝わり、両親からは「命がかかっていることだから、断ることはできない。引き取っていいよ」と許可が下りた。

 しかし、moooさん一家が引き取りを決めるまでに低体温症が原因で2匹の子犬が亡くなり、さらに引き取り日までに1匹が亡くなって、7匹いた子犬たちは、4匹にまで減っていた。

子犬を探して

 さらに、センター引き出しの当日、一家は予想外の事実を知る。

「母犬はイノシシのわなにかかっていたところを捕獲されたことは知っていたのですが、引き取り日当日になって、わなにかかった脚のケガが壊死(えし)しかけていることが判明したんです。間に入ってくださったボランティアさんの判断でモモは子犬と引き離されて入院。診察の結果、脚は回復の見込みがあったものの、検査で子宮蓄膿(ちくのう)症が見つかって、手術のため入院させることになりました」

 親子そろって家に連れ帰ることはかなわなかったものの、母犬のいない状況をカバーするために、moooさんたちは周囲のボランティアにも協力を仰ぎつつ、はじめての子犬育てに奮闘した。

 ところが1週間後、入院予定の日数を終えずして母犬を退院させてほしいと、動物病院から連絡が来る。

「母犬は攻撃性がなくおとなしい性格だったのですが、病院から人がいなくなる夜間、外に出るためにケージを食い破ろうと暴れ、手に負えないと言われたんです。子犬の育児を手伝ってくれたボランティアさんからは、『退院させたとしても、そんなに暴れる子を引き取るのは無理じゃないか』『一度離れたら、もう子犬のことは覚えていないかもしれない』と言われ、行き場をなくした母犬は、当時無人だった近くの保護シェルターの犬舎に預けて様子を見ることになりました」

「私たちが会いに行ったら、なんとフェンスを破って敷地内をウロウロしていたんです。ずっと逃げようとしていて疲弊していたようで、私の姿を見るとおしっこまみれで黄色くなったボロボロの姿で、となりにどさっと横になりました。そこで、子犬の匂いをつけた毛布を差し出してやったら、鼻を突っ込んで必死にかいでいる。その様子を見て、『子犬を探して暴れているんだ。やっぱり連れて帰らなきゃ』と思ったんです」

けがをした母犬
イノシシのわなにかかった前脚は壊死寸前だった(moooさん提供)

 センター引き出しから8日後、moooさんの自宅で子犬たちに再会した母犬は、ひと目見た瞬間子犬の体をなめ、かいがいしく世話を焼き始めた。その後、子犬たちはすくすく成長し、2匹は数カ月後に譲渡先が決まり、母犬と残りの2匹は、引き取り手を募集しながらそのままmoooさん一家のもとで暮らしはじめた。

モモと子犬たち

「モモ」と名付けられた母犬は、優しく子煩悩な性格だった。産後の肥立ちが悪く体調がよくない時も熱心に子育てをし、けがをした脚は骨が見えるほど痛々しかったが、子犬たちが踏んでも決して怒ることはなかった。

子犬
生き延びた子犬たちは、モモが帰ってくるまでの間、ボランティアとmoooさんの家で2匹ずつ世話をした(moooさん提供)

 2匹の子犬、「奏(かな・雌)」と「Copain(コパン・雄)」も、母の愛情に応えるように、すくすくと成長した。

 モモはとくに、息子のCopainのことを溺愛(できあい)し、離乳の時期が訪れても、Copainにだけは欲しがるだけ母乳を与えていた。

「人間の母親も息子は特別にかわいいなんて話も聞きますけど、モモもそうだったみたい。そのせいか、Copainは大きくなってもお母さんが大好きでちょっと幼く、”ザ・男子”という感じでした(笑)女の子の奏は冷静で落ち着いているのに、Copainはテンション高く人のスリッパを脱がせて、ニコニコながら『投げてくれ!』とおねだりしてくる。走り回ってやぶに顔を突っ込んで蜂に刺された事件もありましたね」

 漫画のキャラクターのように陽気で跳ねっ返りのCopainだが、母親譲りの優しい面もあった。

川遊びをする白い犬
川遊びが大好きなCopain(moooさん提供)

「我が家はモモたちを引き取って以来、たびたび愛護センターから引き出した犬を預かって譲渡先探しをしていたのですが、Copainはどんな犬にも優しくて、仲間のように接してくれました。特に、最近まで預かりをしていた姉妹犬のことはすごくかわいがっていて、散歩中ほかの犬にほえられるとすぐに間に入ってかばうんです。『女の子だから自分が守ってあげなくちゃ』という意識があったのかな。まるでお兄ちゃんみたいに世話を焼いていましたね」

 もともとは譲渡先が決まるまでの一時預かりとしてmoooさんの家に迎えられたモモたち一家だが、気づけば5年近くの年月が経過していた。その間一度だけ、Copainとモモを引き取りたいという家族が現れたが、トライアル中に先方の事情が変わり、出戻ったこともあった。

「譲渡先募集を今後どうするか、改めて考えてみた時、この子たちが欠けた生活は想像できませんでした。本当に悩みましたが、共に過ごしてきた5年という年月もあり、『もう一生うちの子でいっか』、と、母子ともども正式に家族に迎える手続きをしたんです」

保護犬も、ふつうの犬

散歩する犬
元野犬のアランは、捕獲されたエリアから、モモの弟ではないかと言われている(moooさん提供)

 moooさん一家は、モモ一家を迎えた1年後、モモの弟と思われる元野犬のアラン(推定9歳)も愛護センターから引き取った。

「この辺りの地域は野犬がとても多く、私が知る限り、センターに収容されている犬の多くは元野犬です」とmoooさんは話す。

「野犬というと、凶暴で怖いイメージがあると思います。でも、ボランティアや譲渡先探しで野犬たちに接すると、モモやアランのようにおとなしい性格の子がほとんど。どの子も、いまこの瞬間を精いっぱい生きているんだということを、多くの人に知ってもらいたいですね」

 moooさんは、元野犬や保護犬へ抱かれがちな、可哀想、怖そうというイメージを変えられたらと考え、インスタやブログで愛犬たちとの何げない日常を発信している。

「自然豊かな地域なので、犬たちと川で遊んだり、公園に行ったりと、毎日にぎやかに暮らしています。犬と暮らしていると、雨でも台風でも散歩は欠かせないし、犬だけを置いて長時間出かけることもできない。でもそんな大変さ以上に、犬たちに幸せを与えられていますし、保護した犬たちの飼い主さんとつながれることもうれしいんです」

 保護犬と暮らすということについて、moooさんはさらにこう続ける。

「複雑な過去があって最初は心を開かない子でも、根気強く向き合っていけば、いつか『家族になれた』と思える瞬間が来ると思います。そしていつしか、お互いにとってかけがえのない大切な存在になっている。野犬に限らず保護犬を迎えるということは、人間にとっても学びが大きく幸せをもらえることだと思うんです」

4匹の犬と女性
「モモ一家にはできるだけ長く一緒に過ごしてほしい」とmoooさん(moooさん提供)

 moooさんに、今後愛犬たちとどんな日常を過ごしたいかを聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「モモが頑張って守った家族ですから、みんながそろった状態で、できるだけ長く一緒に過ごしてほしいですね。一時は命が終わる場所で処分を待っていたのだから、大変な思いをした分、幸せに天寿を全うしてもらえるように、寄り添っていきたいです」

 かつて人間の仕掛けたわなで脚を失いかけた上に、我が子ともども殺処分されかけていた元野犬のモモ。穏やかで優しいその目を見ていると、どんな過去がある動物も人間が粘り強く向き合うことで、最高のパートナーになってくれることを証明してくれているように感じる。

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原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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