こわもてだけど優しい犬 散歩道で見つけたボロボロの子猫を育て上げて、大親友に

 長男のために犬を飼おうと、一家は決めた。「性格はなまる」という添え書きにひかれて会いに行った保護犬ジオは、オオカミのようなこわもてだったが、とんでもなくさびしがりやの優しい犬だった。衰弱した子猫を散歩道で見つけたジオは、父のように母のように慈しむ。ふたりは、いまや大親友になった。

(末尾に写真特集があります)

犬も猫もみんなワケアリ

 恵理さんは、夫、レイカちゃん(7歳)、ケンちゃん(5歳)、犬1匹、猫3匹と千葉県内で暮らしている。犬は、推定年齢4歳のシェパードミックスのオスで、名は「ジオ」。猫は、迎えた順に、キジトラの「プニ」(メス・1歳)、茶白の「ポニョ」(オス・1歳)、サバ白の「クロ」(オス・推定3カ月)である。この1年半で次々にここにやってきた。

「みんないい子で仲良しなんですけど、ジオとポニョの仲のよさは、もう格別ですね。母子というか、父子というか、大親友というか、いつも寄りそっています。ジオが自分を慕うポニョへの可愛さあまって、枕にしたり、パックリ頭から食べるのはいつもの風景」と、恵理さんは笑う。

猫のおなかにあごを乗せる犬
ジオの前脚を枕にするポニョのおなかを枕にするジオ(恵理さん提供)

 ポニョが、ジオを慕うのは、ボロボロの子猫だった自分を発見し、愛情込めて育てあげてくれたからだ。

子どもたちをビビらせた初対面

 子どもの時からの猫好きで、どちらかと言うと苦手だった犬を恵理さんが飼おうと思ったのは、去年の春のこと。当時4歳だった長男のケンちゃんに「自閉症スペクトラム」と「軽度の知的障がい」のあることがわかってきたからだ。「犬と暮らすと情緒が安定する」と知り、夫と相談して保護犬を迎えることにした。

「保護犬サイトで、犬種はともかく性格重視で探したんです。ちょっとコワそうな顔だけど、『おっとりしてて優しく、はなまるの性格』という犬に目がとまって。連絡を入れ、その犬ジオが参加する譲渡会に一家で出かけました」

 ジオは喜んで迎えてくれたのだが…‥写真で見るよりはるかに大きな犬だった。肝心のケンちゃんはひいてしまい、レイカちゃんは「いやだ。違う犬がいい」と言い出す。だが、「せっかく縁あって会いに行ったのだから」とトライアルを申し込んだ。

 ジオは、さまよっているところを県の愛護センターに収容され、保護団体に引き出してもらって、預かりボランティアの家で過ごしていた。「なぜこんな優しい子が捨てられるのか」と誰もが思うほどに人が大好きな甘えん坊だった。もしかしたら、番犬として飼われていて、その優しさゆえに捨てられたのかもしれない。

お座りする犬
どんどん穏やかな顔になっていったジオ

散歩の途中で子猫発見!

 ジオがやってきてすぐ、レイカちゃんは「ジオでいい」と言った。ケンちゃんは、力加減がわからず、ジオをガッとつかんで、遊んでもらえると喜ぶジオに追いかけまわされるも、少しずつ少しずつお互いの距離がわかっていったという。 

 困ったのは、ジオのさびしがり。捨てられた体験からの分離不安があるためか、恵理さんの一挙一動をじーっと観察。留守番をさせると、おしっこをしていたり、室内を荒らしていたり。

「外出は5時間までとし、帰宅直後にかまいすぎないなど、必ず帰ってくるという信頼関係を築いて解決しました」

 そのあと、家族で出かけた猫イベントの譲渡会場で出会った保護猫プニを迎える。ジオとはお互いにほえたりシャアシャアし合っていたが、3日目に急転直下、仲間として認め合ったとか。

 去年9月、台風15号が千葉県を襲った1週間前。散歩の途中、前日も足を止めた場所で、またジオはパタと足を止めた。ジオの目の先、道ばたにガリガリボロボロの子猫がいた。恵理さんは、この辺りの飼い猫ではないことを近くの家に確認し、子猫を連れ帰った。ノミだらけの栄養失調だったので、ノラ生まれと思われる。

ガリガリの子猫
保護直後のポニョ。消える寸前の命だった(恵理さん提供)

種を超えて、親子から大親友に

 自分が見つけて命を救った子猫ポニョを、ジオはなめたり、添い寝したり、転げ合って遊んだり、片時も離れず溺愛して育てた。

 ポニョがどんどん大きくなっても、ジオのポニョへの「ボクの大事な子」扱いは変わらない。「食べちゃいたいくらい、キミが好き!」とばかり、大きな口でポニョの頭ごとパクリ。

 だけど、愛情表現がどんなにハードでも、ポニョのほうからジオにすり寄っていく。ポニョは、いつだってジオの体のどこかに触れていたいのだ。

 2カ月前、パパが、仕事場の建設現場に居ついたノラの子クロを放っておけず連れ帰ったとき、大喜びのジオを見たポニョは大いに怒ったものだ。今では、やんちゃな末っ子クロくんを、全員で面倒を見ているという。

犬と猫2匹
ジオとポニョとクロ

犬と猫を迎えてよかったこと

 恵理さんは言う。

「犬と猫、猫と猫がくっついて寝ている姿や、楽しそうに遊んでいる様子を眺めていると、心があったまりますね。

 ケンちゃんも、動物の触り方が優しくなっていくと共に、気持ちが安定してきたように思います。ケンちゃんには外でたくさん体を動かす経験が大事なのですが、毎週ジオを連れて自然の中に出かけるようになり、とてもよかった。

 外で思いきり遊んで帰ってきた子どもたちは、家で猫たちをナデナデして癒やされる。犬と猫、両方いてくれるしあわせをしみじみ感じています」

「ジオがうちに来てくれてよかった?」と恵理さんはケンちゃんに聞いてみた。自分の感情を口にすることのあまりないケンちゃんは、ニコッとして、ジオをギュッと抱きしめた。

 この家では、言葉にせずとも、ジオとポニョをはじめ、あちこちで今日も「キミがいてよかった。好き」の風景が繰り広げられている。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「猫との約束」「里山の子、さっちゃん」など。Webサイト「フェリシモ猫部」にて「道ばた猫日記」を、辰巳出版Webマガジン「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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この連載について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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