急に食事をとらなくなった愛猫 緑色の液体を吐き、すぐに動物病院へ

 自宅でフラワーアレンジメント教室を主宰し、夫と3人の子どもと暮らす智子さんの家に、生後推定1週間の雌猫がやってきたのは2016年の秋のことだった。夫が保護したその猫は「あずき」と名付けられ、にぎやかな環境の中で活発で気の強い猫に成長した。

(末尾に写真特集があります)

気が動転して

 あずきが生後8カ月が過ぎた頃、急に食事をとらなくなったので近所の動物病院に連れて行った。院長夫妻以下数人の獣医師が勤務する地域密着型の病院で、友人の紹介で一度、予防接種をお願いしたところだった。

 診察は、院長先生が担当した。レントゲンを撮ると胃と腸の間に何か詰まっているようにも見えたが確定できず、しばらく様子を見ることになり、家に連れて帰った。

 同じタイミングで、中学に入学して間もない長女が激しい腹痛を訴えた。虫垂炎と診断され、手術のために入院することになった。

穴からのぞく猫
「あずきです。前話の続きだよ」(小林写函撮影)

 無事手術が終わり、ひと息ついたとき、あずきが緑色の液体を吐いた。

「あずきちゃん、じーっとうずくまって動かない。調子悪そうだよねえ」と、小学生の息子たちが話していた矢先だった。

 不吉な色の吐瀉(としゃ)物に気が動転し、智子さんは、すぐに動物病院に運んだ。

すべてを託すことに決めた

 院長先生には、家には猫にとって害になる植物は一切置いていないので、誤食はありえないことなどを話した。

 いろいろ相談した結果、院長先生は、

「あずきちゃんはこのままお預かりして、病院で様子を見ましょう」

 と言ってくれた。

 入院中に食欲が戻らず、追加の検査で「胃と腸の間に詰まっている何か」の存在が疑われるようなら、開腹して確認し、手術も必要になる、とのことだった。智子さんに心あたりはないが、もし異物を飲み込んでいたとしても、レントゲンやエコーでは確定できないからだった。

つめとぎする猫
「やる気満々」(小林写函撮影)

 体力ない小さな体にメスを入れることはできるだけ避けたい、あらゆる方法で検査をしたのちの手段と、院長先生が考えていることはよくわかった。

 智子さんはすべてを託すことに決め、「お願いします」と頭を下げた。

うちに来て1年もたたないのに

 翌日は休診日で、その翌日の午前中、あずきは開腹手術をすることになった。

 長女の術後の経過は良好だった。だが、あずきに関しては、元気になることを祈る半面、もし戻って来なかったらどうしよう……という気持ちもあった。

 早朝からごはんの催促をし、家の中の階段を何往復もダッシュし、高いところに飛び乗るのも大好きだ。気に入らないことがあると威嚇したりかみ付いたりもしてくるが、智子さんにとって、はじめて一緒に暮らす猫という動物は「そんなもの」と捉えていた。

 そんなあずきが、食事もとらず、動かないなど、そうとう悪い状態に違いない。手術に耐えられる体力があるかどうかも心配だった。

 ひざに乗ってきて甘えたり、おなかを見せて爆睡する姿を思い浮かべた。うちに来て1年もたたないのに、と胸がつまった。

猫とドライフラワー
「お母さんね、草花のミイラを逆さにつるしてるの。おまじないかな?」(小林写函撮影)

 張り詰めた気持ちで手術の日を迎えた。午後、病院から無事に終わったと連絡があったときは、気持ちがゆるみ、からだが軽くなるのを感じた。

 入院中の長女を見舞い、その足で動物病院に寄った。

 ケージの中のあずきは、腹部の毛をごっそりそられ、エリザベスカラーを装着され、疲れた様子で智子さんを見た。そして、不安を訴えるかのように鳴いた。

 入院中にバリウム検査を行ったところ、胃のところでバリウムが流れず、止まったそうだ。そこで開腹手術を行うと、十二指腸からおもちゃの一部らしきものが出てきたという。

 それは確かに、あずき用の、ネズミのぬいぐるみの鼻の部分だった。

 おもちゃ類は、使わないときは、あずきの目の届かないところにかたづけるようにしていた。だがネズミに関しては、うっかり出しっぱなしにしていたのかもしれない。やや高価な外国製で縫製もかなりしっかりしており、ひもなどの付属品もついていないから危険はないだろうと見過ごしていた。

 あずきは遊び方も激しい。夢中になるうちに食いちぎってしまったのだろう。

 その後、智子さんがおもちゃの扱いに神経をとがらせるようになったことは言うまでもない。

かたく決めているかのように

 この一件があって、あずきは、すっかり病院嫌いの猫になってしまった。

 術後の回復は早かった。数カ月後には発情の兆しが見えたため、避妊手術を受けさせた。立て続けの入院手術がこたえたのかもしれない。

 安心させるために洗濯ネットに入れ、ケージに入れて病院に連れて行くまでは難しくない。診察台に出すとうなり声を上げ、全身の毛を逆立て、尻尾を膨らませ、爪を立てる。鬼の形相とはこのことか、というような顔をしており、飼い主でも慎重になるぐらいだ。

 一度、あまりにも興奮が激しく、なだめようと智子さんが手を出したらひっかかれた。軽い傷だったが、その場で応急処置をしてもらった。

 命の恩人である院長先生の手をわずらわせる様子を見ていると、身が縮む思いだ。多種多様な動物を診ている先生の腕には、たくさんの引っかき傷がある。それなのに、

「あずきちゃんのような性格の子は他にもいますよ」

 とこちらを安心させるように言い、慣れた手つきであずきを扱う先生は、神か仏のように見える。

 幸い、今年5歳になるあずきが病院に行くのは、年1回のワクチン接種のときだけだ。

 誤飲以来、くしゃみひとつせず、「末娘」として勝手気ままに過ごすあずきは、「お医者なんかに絶対にかかるもんか」とかたく決めているように、智子さんの目には映る。

(次回は9月10日に公開予定です)

【前の回】駐車場で保護した赤ちゃん猫、縁を感じて飼うことに やんちゃで気の強い猫に成長

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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