鶏をケージフリーにしない「言い訳」の根拠は? 鳥インフルエンザが私たちに示すこと
2020~2021年の秋冬は、鳥インフルエンザが国内で大流行し、実に960万羽以上の鶏たちが病気を防ぐためとして殺された。そのうち885万羽を占めたのは卵用の鶏、つまり採卵鶏だった。
そしてこの885万羽すべての採卵鶏が、ケージで飼育されていたことを世間は見逃しているようだ。採卵鶏においては平飼い、放牧飼育は1件も発生しなかったのだ。
根拠がない情報であるにもかかわらず
企業やお店にケージフリーにしてほしいとお願いすると、よく言われる言い訳の一つが鳥インフルエンザだ。
例えば、「鳥インフルエンザなどに対してケージで飼われている鶏のほうが安心ではないか」という誤った情報を伝えられるケースが多い。この情報には根拠がないにもかかわらずだ。企業がこのうそをついてしまうのは、生産者が企業にそう伝えているからであることが多い。
ケージ飼育は疾病から鶏を守ったりはしない。それは2020年度の鳥インフルエンザがよく示している。
採卵鶏(育雛育成含む)での鳥インフルエンザ32件のうち、平飼いは0件だ。
ウイルスは弱い動物にとって致命的
新型コロナウイルスの流行により多くの人が認識したはずだが、ウイルスは誰にでも感染する可能性がある。しかし、過去に抗体を獲得している場合は別として、多くのウイルスは疾患を持つなど体の弱い動物にとってより致命的であることが多い。また密であると感染が容易になるし、遺伝的に同一の動物が集まっていると感染が容易になる。
鳥インフルエンザも同じだ。
ケージの中に閉じ込められ、1羽に与えられる面積が自分の体の大きさくらいしかなく、狭くて隣の鶏といやが応でも接し続ける環境で、そのケージが一つの鶏舎に何千と連なり重ねられているのだから、内的要因による感染リスクは高い。
鳥インフルエンザが広域的に移動する際には野鳥は役割を果たしているだろう。彼らはもともと鳥インフルエンザの自然宿主なのだから、彼らに罪はない。しかしそれが鶏に感染する経路ははっきりしていない。少なくとも2020年度は、人々が想像するように、野鳥が鶏と接触したり、野鳥のふんが鶏を直撃したりして感染しているわけではない。
72%はウィンドレス鶏舎で発生
農林水産省は、鶏舎に窓がない「ウィンドレス鶏舎」で鳥インフルエンザが防げるのではないかと考え、ウィンドレス鶏舎に億単位で補助金を出した。当時担当者に確認しているが、この政策に科学的な根拠はないとのことだった。
さすが、根拠がないだけに、2020年度の採卵鶏の鳥インフルエンザの71.8%はウィンドレス鶏舎、6.2%はセミウィンドレス鶏舎で発生した。窓をなくすことで、疾病から鶏を守ることはできない。
しかし今でも、ウィンドレス鶏舎が増え続け、またせっかく放牧飼育をして鶏を健康に育てている養鶏場に対して、行政職員が鶏を狭い鶏舎内に入れろと指導している。
放牧飼育は、動物たちが運動でき、太陽の光を浴び、好奇心を屋内での飼育よりも満たすことができる飼育だ。太陽の光は菌もウイルスも寄生虫も殺す作用がある。実際、バタリーケージは、平飼いや放牧飼育よりもサルモネラ汚染が高いことが科学的に証明されている。
自分で考えさえすれば
誤情報の出どころは政府のようだ。しかし誤った情報によってケージフリーが阻まれることはどうにも納得がいかない。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)により、ウイルスについての理解は進んでいる。今の時代、みんな自分の頭で考えさえすれば、運動もできず、殺菌もできず、密にならざるをえないケージ飼育が、または自然の光を一切与えない異常なウィンドレス鶏舎が鳥インフルエンザを防いだりしないことはわかるだろう。
誤情報にだまされない賢さを、消費者は身につけないといけない時代なのかもしれない。
(次回は10月11日に公開予定です)
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