環境活動家グレタさんが伝えた思い 畜産は気候変動や生態系の危機につながっている

グレタさん
グレタ・トゥンベリさん(c)GrippingFilms

 国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)や国連気候行動サミットで注目を浴び、気候変動危機に関してリーダーとなったグレタ・トゥンベリさんが、畜産動物の保護団体であるMercy For Animalsからメッセージを発信した。

 気候危機という”危機”のさなかにあっても、見て見ぬふりをされてしまいがちな飼育下の動物たちの問題。グレタさんは、畜産という食糧生産の方法が、気候危機、生態系の危機、健康の危機と密接につながっており、直視しなければ人々の未来もないのだと強く警告している。今回は、このグレタさんのメッセージにそって考えてみよう。

健康の危機

 人の新興感染症の約75%は、他の動物から来ている人獣感染症である。ジカ熱、エボラ出血熱、ニパウイルス、豚インフルエンザ、狂牛病、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、そして新型コロナウイルス(COVID-19)など、世間を恐怖させている疾病は、動物由来だ。

 ウイルスと共生している野生動物が発端であることは多いが、それらの動物は自然宿主であり、それ自体が危険なわけではない。これらの疾病が人間にうつる過程には、自然宿主から中間宿主となる動物にうつり、中間宿主となった動物たちの中でウイルスが変異をとげて、人ひとり感染できる強力なウイルスが作り上げられる。ずっとこれを繰り返してきた。

 2020年に国連環境計画から出されたリポートにはこう書かれている。

「家畜化された動物種は、人と平均19(5〜31の範囲)の人畜共通感染ウイルスを共有し、野生動物種は人と平均0.23(0〜16の範囲)ウイルスを共有している」

 人との接触の高い動物、つまりは家畜動物の扱いを見直さなければ、私たちはずっと健康の危機を脱することはできない。

生態系の危機

 世界の農地の83%が畜産業に使われている。人間の10倍の畜産動物を養うというシステムを工場式畜産という方式で作り上げたのだから、それ相応のエサと、そのための水と土地が必要だ。戦後ずっと畜産物の生産は増え続けており、今ある農地では足りなくなり、まだ破壊されていない生態系に、開発の手が及ぶことは必至だ。地球がこんなに犠牲を払っているのに、人が畜産動物から得ているカロリーは18%に過ぎない。

 哺乳類の60%、鳥類の70%が畜産動物という構図は、サステナブルではない。この生態系の破壊が進むことはさらに、健康の危機を助長していく。

気候の危機

 温室効果ガスの排出を減らすために、その排出の14.5%を占めている畜産業を植物ベースに変えれば、毎年最大80億トンものCO2を削減でき、農地の多くが不要になり、間に合えば生態系が回復できるスペースが得られ、なにより新たな土地を開発しなくて済むようになる。

動物たちの危機

 動物たちが機械ではなく、私たちと同じような感覚、知覚を持ち、様々な能力を持つことを知っているのに、動物たちを工場に閉じ込めるという悪行を継続し続ける理由はなんなのだろうか。

 アメリカでは99%の畜産動物が工場の中で生きているとグレタさんは述べている。日本も同様だ。

あなたは何をしますか?

 コロナ禍が始まって以降、多くの人々がこの問題を知るようになったが、行動に移すことができている人はどれほどいるだろうか。行動に移さなければ、グレタさんが警告する通り、私たちの未来は明るくない。

 気候非常事態宣言決議を日本も昨年11月に採択し、その他様々な地方行政で採択されている。しかし、グレタさんが述べる通り、食糧生産の方法に向き合って対策を立てている兆しはほとんどない。日本は5月12日に、持続可能な食糧生産を目指す「みどりの食料システム戦略」を策定し公開したが、これまでの延長線上にある内容にとどまった。グレタさんは、「最も権力のある人に最も責任がある」と述べるがその責任は果たされそうにない。

 でも、市民にもそれぞれ責任があり、そして選択肢がある。一人ひとり、何ができるのか考えるきっかけに、グレタさんの言葉を聞いてみてはどうだろうか。

(次回は8月9日に公開予定です)

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認定NPO法人アニマルライツセンター
1987年設立。動物たちの苦しみを効果的になくし、動物が動物らしくいられる社会を目指す。食べ物や衣類、娯楽や実験に使われる動物など人の支配下に置かれている動物を守る活動と、エシカル消費の推進に取り組んでいる。
この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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