富士丸の教えも引き継がれ 気がつけばすべてが犬中心、犬基準になっていた
先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。
暮らしのスタイルの変化
犬と暮らしている人は分かると思うが、いつの間にか暮らしが犬中心になる。たとえば散歩。大吉と福助は外でしか排泄(はいせつ)したがらないので、どんなに大雨でも朝と夕方2回散歩に行く。台風直撃のときなど「まいったなぁ」とは思うが、行かないという選択肢はない。結果的にレインコートを着ていてもズブ濡れになったりするが、今では「着替えればいいじゃん」くらいの感覚だ。
もちろん最初からこうではなかった。先代犬の富士丸と暮らし始めた頃は、ひどい二日酔いでなかなか起きられないということもあった。しかし富士丸の「まだ行かないの?」という視線に負け、吐きそうになりながら散歩に行ったりしていた。そのうちそれが日常になり、どんなに二日酔いでもとりあえず散歩に行き、ゴハンの用意をしてから再びベッドに倒れ込むというスタイルになった。
夜の散歩も大変だった。30代の頃、都内(初台)で暮らしているときは、午後の仕事の打ち合わせの後、飲みに誘われることもよくあった。そういうときは「すみません、いったん帰ってからまた来ます!」と言って必ず散歩には行っていた。そのうち飲み歩いてばかりじゃ富士丸に申し訳ないと思い、家に人を招いて飲むようになった。おかげで鍋のレパートリーが増えた。
車の運転から行き先までも
車の運転にしてもそうだ。私はもともと運転が荒い方ではなかったが、幼い頃の富士丸は車酔いがひどかった。犬に加速や減速、遠心力が理解出来ないはずだから仕方ないのだが、注意して運転していても後部座席でよく「ゲェェェェ」と吐いていた。イレギュラーなお出かけが大好きで車にも飛び乗るのだが、これはなんとかしないといけないと思い、ものすごく穏やかな仙人のような運転になった(富士丸はすぐに車酔いを克服したけど)。
出かける場所もそうだ。若い頃はミュージシャンに憧れる売れないバンドマンだったから、インドア派で薄暗いところを好んでいたが、富士丸が喜ぶからと山へ行くようになった。さらに極度の暑がりで雪をこよなく愛するやつだったから、くそ寒い冬の山へ行ったりもした。向かう途中の車内ですらハァハァ暑そうだから、ダウンジャケットを着込んで「なんで冬にエアコンかけなあかんねん」と思いながら運転した記憶がある。
富士丸の教えは今も
そうした価値観(?)は今に引き継がれ、大吉と福助はそれほど暑がりではないが、それでも真夏は「今は暑いから行くのは止めておこう」となったり、7時にはもうアスファルトが熱くなるから6時半までに散歩は終えるようになった。大福には「なんでそんなに早起きなんだよ」という顔をされながら。
そういう感じで、外食にしても運転にしても、ほとんどすべての行動が犬基準になっているのだ。行きたいところがあっても留守番の時間が長くなるからと諦めることもあるし、今では飲み歩くこともなくなった。
山の家を手に入れたのも彼らが喜ぶからだし、頑張って草刈りしてドッグランを作ったのも彼らが駆け回る姿が見たかったからだ。まさか自分が40歳を超えて草刈り機デビューするなんて夢にも思わなかった。妙に早起きで健康的だし、若い頃の私はどこへ行ってしまったんだろう。犬というのは恐ろしい存在だ。
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