初めて迎えた猫は人見知り、まったく慣れず近づくとシャーッ ゆっくりと距離を縮めた
人生で一度もペットを飼ったことのない40代の母親が、猫と暮らそうと家族に提案。みな大喜びで保護猫を迎えたが、まったく慣れてくれない。子どもは3人育てても、猫は初めてづくしで大わらわ。あれこれ調べながら半年もかけて距離を縮めた。その後、新たな猫も迎えて、家の中はすっかり猫中心に……。愛にあふれた“どたばた”をご紹介します。
「我が家の宝」
「猫がこんなに可愛いなんて!推定2歳のグレーのグリと、推定1歳の三毛のチム。我が家の宝的存在です」
埼玉県に住む神﨑優香さん(47歳)が話していると、背中にチムがぴょんと乗った。優香さんは気にせず、そのまま話を続ける。
「猫を飼うなんて思ってませんでした。3人の子どもがいて子育てに忙しかったし、どちらかというと犬派だし、ペットは死んでしまうから嫌だなと思っていて……」
だが、中学2年生の娘が小学6年生になった頃、母の思いが変わった。心を動かしたのは、まつ毛エクステのサロンで出会った1匹の猫だった。
甘える猫に興味を抱いて
「まつげエクステサロンにいったら猫がいて、施術中ずっとおなかの上にいたんです。甘える姿が可愛くて、一気に猫に興味を持ちました。子どもたちが大きくなって手から離れて、1人残された気がしてさみしい時でもあったんですよね……」
家族に猫のことを話すと、娘も息子も夫もみな賛成だった。
三郷市のイケアで行われた譲渡会に、娘を連れて行ってみた。その時は様子を見ただけだが、ボランティアの中山さんと知り合いになり、連絡先を交換した。するとしばらくして、「こんな子がいます」と姉妹猫の写真が送られてきた。グレーの猫をみて、優香さんはきゅんとなった。
「都内のボクシングジムの敷地にいるので、興味があれば保護するといわれ、お願いしました。その後、猫を預かったボランティアの池田さんの家で、グリと対面しました」
池田さんには「(一緒に保護した姉妹に比べ)人見知りですよ」といわれたが、優香さんは“グリの見た目”をとにかく気に入り、「この子をぜひ」とお願いした。
なぜ触れないの?
そうして2019年2月に、生後5~6カ月だったグリを迎えた。
「家族もみなイチコロ。でもグリはすぐ隠れて、いきなりの試練でした」
近づけばシャー、手を伸ばせばガリッ。それでも数日経てば出てくるかなと優香さんは思っていた。ところが一向に慣れる気配がない。優香さんの手は傷だらけになった。
グリは家族が寝静まったあとに、そーっと出てきてごはんを食べていた。あの、まつげエクステサロンにいた猫とはまったく様子が違う。
「凶暴で触れない、抱っこもできない、なんで?」と思った優香さんは、ネットで“保護猫”“慣らし方””など検索した。すると気になるワードが目にとまった。
「家庭内野良猫という言葉が出てきて、『(慣れなくても)ごはんを食べてくれるならいい、なでたり抱いたりするのは諦めた』という記事を読み、うちも、たとえこのまま死ぬまで触れられなくても、あったかい家とごはんがあれば猫は生きていける、それでもいいかと“覚悟”をしました。今から考えると、ケージから出すのが少し早すぎたのかもしれないけど……」
“行方不明”になったこともある。グリの首輪につけた鈴が、まったく聞こえなかった。
「近所を探し回っていなくて、ボランティアの池田さんに連絡したら、たぶん遠くに行ってないので玄関の前におやつを置いてとアドバイスをもらって……でも池田さんが捕獲器を持って来て下さる前に、クローゼットで見つかりました。『やっぱり、家にいましたね』といわれました(笑)。それ以来、玄関の開閉には気を付けるようになりました」
猫との暮らしは「毎日、新鮮。でも毎日はらはら」という未知の世界だった。
必死に向き合って半年。グリもこの家族ならと思ったのだろうか。春から夏に変わった頃、長女の一華ちゃんがひょいと手を伸ばすと、初めて抱かれたのだという。
「その抱っこを機に、距離が縮まりましたね。居間のキャットタワーを気に入り、家族がいる前でくつろぐようになって。子どもの勉強を見たり、夫とストーブに当たったり(笑)」
遊び相手を迎えたくて
グリの人見知りが一段落すると、優香さんの胸にある思いが浮かんだ。学校や仕事で昼間にみながいなくなると、若いグリが『退屈なのではないか?』と思いはじめたのだ。
ボランティアの中山さんに、「グリと遊べるような子猫がいたら教えて欲しい」と話すと、ラインで写真が送られてきた。それがチムだった。
「娘や息子は、新たな子が来たら、グリのお気に入りの場所をとられるかも、と尻込みしていましたが、私がまた猫を欲しくてしかたなくて……でも息子も、お見合いにいくと『猫可愛いね、ここにいる子をすべて連れて帰りたい』なんて言ってました(笑)」
2020年6月、グリが来て1年4カ月後、チムがやってきた。今回はケージの中でしばらくの間は育てようとしたが、チムは小さすぎてすぐに隙間から出てきてしまった。
グリが手を出すのでは?家族ははらはら。しかし、そんな心配をよそに、グリとチムが打ち解けるのは予想以上に早かった。
「チムを見て、グリは最初、『なんだお前』って感じでしたが、攻撃する気配がなかった。チムがくっつくと、『ま、いいか』とタワーのお気に入りの場所も譲ったんです」
家にきてすぐチムは猫風邪を発症し、そうこうするうちに、グリの顔に異変が。あれよれよという間に、“目がぐじゃぐじゃ”になり、優香さんは慌てて病院へ。
「チムの風邪がうつったと思っていたら、外傷でした。じゃれているうちにチムの爪がグリの目の縁を引っかいたみたいで、化膿(かのう)して。エリザベスカラーも初体験でした。大きすぎるカラーのせいでごはんが食べにくそうだけど、これは(食事中)外していいものか。ボランティアさんに聞いたら、『はずしていいと思う』と。猫に関しては新米ママなので、とにかく日々、学んでいる次第です(笑)」
チムが来て2カ月すると、コロナで学校が休みになり仕事もリモートワークになった。そのため、幼いチムの様子や、グリとの関係をよく見ることができた。
「2匹が来て手がかかる面もあったけど、並んでいる姿をみたら、わ~癒やされる!と感動しました。でも、くっついたと思ったら猫パンチしあって、そのあとまた並んで。これって仲がいいの悪いのか。まだよく猫の生態や行動がわからない、もう少し勉強します(笑)」
これからずっと一緒に
取材の途中で中学校から娘の一華ちゃん(13歳)が帰ってきた。
にこにこして、早速グリやチムと遊んでいる。
「もう、めっちゃ可愛くて!学校から帰るのも楽しくなった。宿題の時にそばにいるのもうれしい。服の中にも入るんです」
楽しそうに遊ぶ一華ちゃんを見て、優香さんもうれしそう。猫のことで、親子の会話も増えたという。
「家族も猫をすごく大事にしてくれるし、笑顔も増えた。迎えてよかったと思います。ただ、インスタグラムをみると、すごく飼い主に懐いてる猫がいるけど、うちはべたべた甘えてこない。子どもが塾とか部活で遅かったりすると、居間に私だけ“ひとり”ってことも(笑)」
優香さんは、友人に「それなら、犬を飼えばよかったんじゃない」といわれたが、「そんなことない」と答えたそう。
「猫は気まぐれだけど、その距離感もいいんですね。あんなにシャーシャーだったグリが私のベッドに入ってきたり……いつの間にか絆もできたと思うから」
じつはグリを託したボランティアの池田さんは、人見知りのグリが“出戻るかもしれない”と思ったという。今だからいえますが、といいながら教えてくれた。
「お渡しして2週間くらいしてどうですかと連絡しました。はじめての場合、あまりにも慣れないと諦めてしまうケースもあるし、心配してました。でも、お母さん(優香さん)は手が傷だらけになっても肝がすわっていたし、なにより3人のお子さんが、『返すなんてありえない』とお母さんに即答したそうで偉かった(笑)。よい家族のもとで幸せですね。あのビビりのグリが後から来たチムを受け入れてくれたし、いい出会いで本当によかったと思っています」

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