水路に子猫が落ちている! 散歩中の犬が発見し「命のリレー」で新しい飼い主の元へ

黒猫の子猫
保護された当時、ちょっとびっくりした表情(甲田さん提供)

 昨年、都内の深い水路に落ちた野良猫の子がいた。最初に見つけたのは散歩中の犬。飼い主の女性が市役所に連絡すると、すぐに職員が現場に駆けつけて、猫を救出。女性がそのまま猫を預かり、動物好きな犬友達に子猫を見せた。すると「探してみる」と動いて……。機転と優しさで速やかにつながった「命のリレー」の物語。前編として、まずは救出から保護までの軌跡をお届けします。

(末尾に写真特集があります)

第一発見者は保護犬

 第一発見者は、メスの雑種犬だった。

 昨年7月16日の朝7時頃。東京都多摩地区に住む甲田さん(52歳)がメスの愛犬はこ(7歳)を散歩させていると、急に水路の上で立ち止まり、何か探してにおいを嗅ぐようなしぐさをした。はこは家に迎えて3カ月目の保護犬で、散歩に慣れてきたところだった。

 甲田さんがふと水路をのぞくと、黒い小さなものが見えた。

「えっ、あれ……子猫じゃない?」

 ぴん!ときた。じつは甲田さんの家には、14年前に甲田さんの息子が同じ水路で見つけて、近所のボランティアさんと一緒に救出した猫がいるのだ。

 野良の子猫が遊び出す時期にここに落ちると、自力では道路まで登れない高さがある。

 通常、水は流れていないが、雨が降ると大変な水量になる。

水路
小さな黒猫(奥)を救出中の狛江市の職員(甲田さん提供)

「これは放っておけないと思い、水路を管理する狛江市に連絡しようと思ったんです。でも朝早くて電話がまだつながらないので、市のホームページに、子猫が落ちて動けないでいる状況と、自分の連絡先を書き込みました」

 犬の散歩から帰宅すると、まもなく市の環境部(下水道課)の担当者から電話があり、状況を説明すると、すぐに駆けつけてくれるという。そこで甲田さんはキャリーバッグとおやつを持って、現地で合流することにした。

 職員は子猫を確認すると、手渡されたキャリーを持って水路に降りていったという。

「発見時から1時間ほど経っていましたが、子猫は同じところにじっとしていました。一瞬ダメかと思いヒヤッとしましたが、生きていました。職員の方が保護した子猫をそのまま私が預かり、その足で獣医さんに連れていき、診察とノミ駆除をしてもらったんです。お世話になった職員の方の名前を一部もらい、子猫に“いとちゃん”と仮に名付けました」

黒猫の子猫
生後1カ月程の体重しかなかったが、実際は生後2~3カ月だったよう。誰が触っても怖がらない、いとちゃん(甲田さん提供)

 狛江市環境部下水道課によれば、猫などの動物を救出してほしいといった依頼は4~5年に1度程度あるという。過去にはタヌキの子どもを救出した経験があり、捕獲後は、元のすみかへ戻したそうだ。

 いとちゃんは、獣医師も驚くほど体重が軽かったが、生後2、3カ月は経っている見立てだった。動けなくなっていたのは恐怖や飢えからで、獣医さんがフードをあげるとぱくぱくと勢いよく食べ、「この子は元気ですよ」といわれたという。目が少ししょぼしょぼしていたので、目薬を処方してもらった。

犬友に相談したらトントンと

 甲田さんの職場(食堂)は渋谷区にあり、いつも愛犬はこを車に乗せて同伴出勤している。その日は平日で仕事があったので、診察後、いとちゃんも車に乗せて出勤した。

 もし誰も引き取り手がなければ、いとちゃんを自宅で飼おうかと思っていたのだが、その日の午後、荷物の納品に来た(運送会社の)40代のドライバー田村さんに、「保護したのよ」と子猫を見せてみた。

 田村さんは動物好きで、自宅で2匹のポメラニアンを飼っている。以前は配送車に愛犬を乗せていたこともあり、甲田さんはおやつをあげるなどして、何でも話せる“犬友”になっていた。

 その田村さんが、子猫を見るなり「心当たりをあたってみるよ」と言った。いい家が見つかればそれがいちばんだ。

 するとその2日後、「猫を探してる」という“ぴったりな”もらい手を見つけてきた。田村さんの職場のパート女性だった。コロナで譲渡会に行きづらく、なかなか良い出会いがなかったそうだ。

 話はトントンと決まった。

「いとちゃんは我が家に4泊5日ステイして、週明け、配達のトラックで出発しました」

ポメラニアンが猫シッター役

 田村さんは、職場仲間の家の準備が整うまで、いとちゃんを1日ほど自宅で預かった。自宅では、ポメラニアンのポポ(オス、7歳)とララ(メス、4歳)が、いとちゃんを歓待し、“猫かわいがり”したのだという。

ポメラニアンと黒猫
シッター役をした田村さんの愛犬ポポと、いとちゃん(田村さん提供)

 田村さんがいう。

「僕の実家で以前ジジという黒猫を飼ったこともあるので、犬たちは猫に慣れていたんです。とくにオスのポポは猫にかまいたくて、仕方ないようでした。僕はいとちゃんをジジと呼んでいたのですが(笑)、ポポたちとつかの間ですが、よい時間を過ごしました」

 いとちゃんは、食事する時はポポ、ララと一緒。犬のおにいちゃん、おねえちゃんをまねするように、たくさんごはんを食べて、興味深そうに部屋の探検をしたそうだ。 

犬のシッターさんとごはんを食べたり一緒に寝たり(田村さん提供)

 “家族”の待つ家にいくまでの間に、いとちゃんは栄養と愛をたっぷり注がれ、エネルギーをしっかり蓄えたのだった。少し体重も増えたようだ。

 水路に落ち、発見されてから飼い主を見つかるまで、わずか1週間足らず。引き取り手が見つからないケースも少なくない中で、本当にスムーズだったといえる。

 甲田さんがこう振り返る。

「今の時代はインターネットの繫つながりが多く、情報は早いですよね。でもいとちゃんは完全にアナログなつながり、昔ながらの人のつながりで家族を見つけました。逆に言えば、活動家(ボランティア)でない私たちでも、その気になれば小さな命を救うことができるんですよね。人との接触が難しいコロナ禍で、ラッキーな猫ちゃんだったと思います」

 水路で動けなくなっていたいとちゃんが、あの日、あの時、発見されたこと自体、本当に奇跡に近いことだったのだろう。なぜなら、救出された翌日は“大雨”で、水路は水であふれていたから。

 いとちゃんは、命をつないだ。

(後編は、2月10日公開予定です。現在の家族との様子についてお伝えします)

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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