犬好きの夫と猫好きな妻の新婚生活 両方飼い始めて、ふたりに起こった変化とは

抱っこされる猫
おすまし顔の保護猫ポーちゃん

 ある新婚家庭で、犬を飼いたい夫と猫を飼いたい妻の意見が分かれ、両方を迎えることになりました。予想外のアクシデントが起きますが、妻の機転でペットは落ちついていきます。そして気づけば犬派の夫が猫にも興味を持ち始めて……。賑やかで温かな家族の物語。

(末尾に写真特集があります)

動物が大好きな夫婦

「猫のポーは今、生後8カ月、犬のトーマスは生後7カ月。2匹ともオスで、やんちゃです」

 都内の3LDKのマンション。笑顔で話をするさやかさん(38歳)の横に茶白の雑種猫が座り、足元で“僕もかまって”という感じでミニチュアシュナウザーがじゃれついている。

 さやかさんのこの1年は、ジェットコースターのように目まぐるしかったという。

 1月に仕事で知り合った年上の男性と、わずか3カ月後に結婚したのだ。4月、入籍と同時に夫の家に引っ越してきて、7月に犬と猫を飼い始めた。

「ふたりともせっかち(笑)。最初から互いに結婚を意識してスピード婚になりました。私も夫も動物が大好きで、結婚したらペットがほしいねと、交際しながら話していました」

ペットの迎え方をめぐりけんかに

 さやかさんの夫は大の犬派で、さやかさんはどちらかというと猫派。「それなら両方を飼おう」ということで意見は一致した。そして、結婚前の3月頃から犬、猫を探し始めたが、“どんな子をどこから迎えるか”で揉めたという。

「私は実家で、元野良猫や、保健所に連れて行かれる寸前の成犬のラブラドールレトリバーを引き取って飼ったことがあり、“保護動物”を迎えたいと思っていました。でも夫は“犬種”に強いこだわりがあったんです」

 日本と海外で会社経営をするさやかさんの夫はヨーロッパでの生活が長く、10年ほど過ごしたドイツで、フランドル地方原産の「ブービエ・デ・フランダース」を2匹も飼っていたという。オスだと35㎏~40㎏になる大型犬だ。

「さすがにブービエのような大型犬だと『君が引きずられちゃうから』と選択肢からはずれたのですが、そこからまた話し合いが続きました」

抱っこされる犬と猫
さやかさんに抱かれるトーマス(左)とポー「2匹はよい遊び相手」

 さやかさんは「動物をペットショップなどから買いたくない」と自分の思いを夫にぶつけたという。パピーミルや悪徳ブリーダーの存在、未だに各地で動物の殺処分がなくなっていないことを知っていたから。

「夫は一回り以上年上ですが、海外生活が長いせいか女性の意見はきちんと聞くタイプ。夫は『それなら僕が妥協して、ブービエに似ているドイツ原産のミニチュアシュナウザーにする』という。妥協してない(笑)。結局、猫はボランティアから、犬は繁殖環境を確認できたブリーダーから迎えることになりました」

 こうして入籍3カ月目、ついに2匹がやってきた。

 犬を先に迎えてしばらくしてから猫を迎えた方がいいと周りから聞いていたが、ブリーダーの都合で、1日だけ遅れて猫がきた。

トイレが覚えられない!

 名前は夫と相談して決めた。

「夫に、破裂音の子音だと動物は聞き取りやすいと聞いて、パ行だと可愛いかなと思ってポーにしました。犬は、破裂音にはなぜか関係なく(笑)、夫がドイツ人の友人の名から付けました」

 ポーは、ボランティアがバス通りで保護した妊婦猫が生んだ赤ちゃん猫だった。人なつこく、すぐにトイレも覚えた。

 トーマスも人なつこく、家にすぐ慣れたが、トイレがなかなか覚えられなかった。

「本当は、子犬はしばらく慣れるまでケージから出してはいけなかったらしいのですが、きちんと調べておらず、犬をすぐに部屋でフリーにしてしまった。そうしたら、あちこちでおしっこもうんちもして。子犬ってこんなもんなのかなと最初は思ったのですが、どんどんストレスがたまり、1カ月くらいでケンカになりました」

「犬のことは任せてっていったのにー」

「いや、やっぱり種類が違うとぜんぜん違うな」

 埒が明かないのでいろいろと調べ、ドッグスクールに1カ月ほど預けることにした。

「犬を寝泊まりさせる合宿でしたが、プロにお願いしようと夫も同意しました。トーマスが生後3カ月になるのを待って、8月から宿舎に預けました」

 ポーと夫婦で静かな夏を過ごし、9月になってトーマスが帰ってきた。だが状況はほとんど変わっていない。マテやオスワリは覚えていたものの、家に戻ったとたん、居間でジャー。

「『個体差があり、この子は1カ月では覚えられなかった』とトレーナーにいわれたんです。契約書にも必ず覚えられるわけではないと書いてはありましたが、もうショック~(笑)」

ひざのうえでくつろぐ犬と猫
夫のひざでくつろぐトーマスとポー「パパやさしいよ」(さやかさん提供)

 さやかさんは、合宿で教えた排泄訓練の続きを家でするようにいわれた。それは、犬をケージに入れてケージの外側にトイレ用のハウスを置き、2~3時間おきに飼い主が犬をトイレに誘導して排泄させるという方法だった。

「ずっと1日張り付いていられないので、その方法は止めて、YouTube でしつけの方法を学び直しました。“ケージ内のトイレでおしっこをしたら、褒めて、ケージの外に(10分ほど)出して遊ばせる→ケージに戻す→おしっこをしたら褒めてケージの外に出して遊ばせる、を繰り返す”という方法です。犬が自力でケージに戻り排泄することはまだ訓練中ですが、ケージにいれると排泄するという習慣はついてきました。月齢的に散歩に行けるようになり、外でも排泄するようになって楽になりましたね。猫は手がかからないけど、犬にかける労力はすごく大きかった(笑)」

 10月になると排泄問題が落ち着き、夫婦も“ほっ”としたのだった。

夫と猫の距離が縮まった

 ところで、犬派の夫に何か変化はあったのだろうか?

「じつは初めは、『猫は何を考えてるかわからない』とか『ずる賢そう』なんていってポーに近寄らず、ポーも夫になかなか近寄りませんでした。でも、私が不在の時に、ポーが夫のひざに乗ったり、おやつを欲しがったりするうちに距離が縮まったようです」

 ポーの姿やしぐさは、猫を間近に見たことのない夫にはかなり新鮮にうつったようだ。

「目がビー玉みたいだ、ジャンプ力がすごいなー、体が柔らかいなーと驚いています。夫が自分から進んでポーを抱くことはないのですが、ポーがひざやおなかに乗ってきた時には、『僕は“犬組”だから~』なんて照れながらも、嬉しそうにしていますよ」

 ポーの無邪気さが、「猫嫌い」の垣根をとっぱらったのかもしれない。ポーがトーマスと仲良くなったことも大きいのだろう。

「2匹の関係は幸い良好ですが、気をつけていることもあります。食事の時はトーマスをケージの中で先に食べさせて、キッチンでポーに食べさせるというように時間差にしています。犬はなんでも食べてしまうので、ごはんは出しっぱなしにはしないようにしています」

 そう話す目の前で、2匹の追いかけっこが始まった。約20畳のリビングの端から端まで、すごいスピードで行ったり来たり。

遊ぶ犬と猫
やんちゃ盛りの2匹から目が離せない (さやかさん提供)

「トーマスはテンションが上がるとなかなか下がらず、ポーを部屋の隅においつめてしまうこともあるので、遊ばせる時は注意しています。トーマスは6㎏でポーは3㎏。ポーは倍くらいの犬を相手にしているので、普通の猫より鍛えられますね(笑)」

 ポーは、遊び仲間のトーマスが自分を置いて散歩に行くことが不思議でたまらないらしい。毎日「なんでトーマスだけ?僕も」という感じで、玄関のドアの前にいるのだとか。

 さやかさんはそんなポーの気持ちを汲んで、時々、抱っこして、エレベーターホールを1周してあげるそうだ。

「トーマスをケージから出すと、なぜかポーが代わりにケージに入ってくつろいでいる。これもないものねだりでしょうか(笑)。2匹を見ているととにかく面白いですね」

動物のためにできることを

 さやかさんは結婚後に仕事を辞め、時間に少し余裕ができたため、動物たちのためにやりたいことがあるという。

「今後、(保護動物の)譲渡のお手伝いなどもしていきたいですし、ペット動物に限らず動物福祉の活動をしていきたいです。ポーを保護、譲渡してくださったボランティアさんが精力的に活動されていることもあり、時々お話を伺い、勉強させて頂いています。ヴィーガン料理も勉強していて、夫も『お肉に代わる美味しいものがあればそれでいい』といってくれて、食生活も改善中です」

 ペットだけでなく、野生動物や畜産動物など、すべての動物を取り巻く環境を良くしていければ……。さやかさんはそう言って、2匹を優しくなでた。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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