飼い主が倒れて数日後に発見された猫たち 「生き直し」でそれぞれ幸せな再出発

 とある海沿いの町で、80代のひとり暮らしの女性が、家の中で倒れて数日後に発見されたとき、周囲の人たちは初めて知った。ゴミの山と化した家の中でたくさんの猫が飼われていたことを。数匹の死骸も見つかった。飼い主は救急搬送先ですぐに亡くなってしまう。残された猫たちは、保護団体のもとで猫風邪の後遺症の治療を続け、譲渡先を探す「生き直し」を始めた。その1匹、すずちゃんを取材した。

(末尾に写真特集があります)

先住猫に、いい相棒を

 雪美さん一家が、去年の5月に迎えたオス猫のレオは、ペットショップの売れ残りだった。ケージの中で大きくなるにつれて値段が下がっていくのを、もう見てはいられなくなったのだ。

窓際の猫
クリームタビーのレオ

 レオは申し分なく愛らしい子だった。日中にひとりで留守番をする遊び盛りのレオのために、相棒を迎えようと一家は考えた。

 保護猫の譲渡先募集サイトで目に留まったのが、仮の名を「ユリ」と付けられた、2~3歳のキジ三毛のメス猫である。「穏やかでおとなしい子です」とある。この子なら、レオとうまくやっていけるに違いない。

 11月。ユリの参加する譲渡会場に、一家で会いにいった。かなりビビってはいたが、邪気のない可愛い顔をしている。トライアルを申し込むとき、ユリは、飼い主死亡の多頭飼育崩壊現場からの救出猫で、猫風邪の後遺症の鼻炎があるとの、詳しい説明を受ける。

ゴミの中で生きていた

 ユリの元飼い主の高齢女性は、海辺の一軒家に住んでいた。去年の1月、郵便物がたまったままなのを近所の人が見つけた。身内がいないため、町内で相談して中に入ると、女性は倒れて数日が経過していて、救急搬送先で息を引きとる。

 ワンフロアに20匹ほどの猫たちがいたが、人付き合いもなかったため、近所の人たちは猫のいたことも知らなかった。室内はゴミの山で、飼い主は、日中は車の中で過ごしていたらしい。猫たちは、みな猫風邪をこじらせていた。

猫
性格も体形もカドがまるでないユリ(すず)

 猫の亡きがらも数体見つかった。生き残っていた猫たちは、似たような毛色の、スコティッシュフォールドっぽいキジ色の猫ばかり。未手術で増えていったとみられる。猫たちは、ゴミの中でわが子やきょうだいや仲間が死んでいくのに続き、飼い主が起きてくれないのも見ているしかなかったのだ。

 遠方に、付き合いの途絶えた親族が見つかったが、猫たちの今後も含め、後始末も家の相続も放棄。行政も、最初に猫たちの世話と掃除のために現場に入ったボランティアの人たちも、これ以上はできないと手を引いていった。

 そのため、千葉県内で社会福祉の活動として犬猫の保護譲渡を続けている団体「goens(ごえん)」が最終的に現場に入った。持ち主のなくなった家をそのままシェルターとし、猫たちの世話に通い、治療通院を続けた。数匹は治療中に亡くなったが、残る猫は必ずしあわせにすると、メンバーは誓う。

それぞれの再出発

 goensでは、おとな猫の譲渡に力を入れてきた。エイズキャリアなどの猫も、丁寧な説明と継続的なサポートで譲渡につなげている。

 今回の現場でのシェルターから送り出した第1号は、ユリだった。その後も申し込みが続いた。

こちらを見つめる猫
「すず」という新しい名前になったユリ。鼻炎の治療は継続中

 身重だったため、最初に現場に入ったボランティアが動物病院に預けた「さくら」も、出産を終え、譲渡が決まった。飼い主からは、goensにしあわせ便りがしょっちゅう送られてくる。「こんなでっかいウンチしました!」「可愛いから、お刺身あげちゃいました!」

 すずにそっくりのローズは、若い女性と新しい暮らしを始めた。風邪の後遺症のために口の中が真っ赤で治療を続けていた「まるも」も、「病気にちゃんと向かい合っていきます」という若夫婦に迎えられた。毎日、至れり尽くせりの口内ケアをしてもらっているという。

すっかり家猫になってくつろぐまるも(goens提供)

 雪美さん一家に迎えられたユリは、用心深い子で、なかなかなれてはくれなかった。それでも、この子を迎えたいと思ったのは、心底可愛いという思いと、だからこそ「難しくても、この子を引き受けさせてもらいたい」という思いだった。

 正式譲渡となったユリは、中学生の海輝くんから「すず」という愛らしい名前をつけてもらった。

「ゆっくりならしてください」と、譲渡の際、goensは雪美さん一家に伝えた。人間や猫と、一対一の関係を知らずに大きくなったのだ。すず自身が、一番ためらいながら、迷いながら、新しい環境に順応しようとがんばっていくことになる。

2匹の猫
すず(左)とレオ。おもちゃも、仲よく順番こ(雪美さん提供)

迎えた猫に幸せをもらう日々

 2階でひっそりしていることが多かったすずは、3月頃から、よく階下に下りてくるようになった。

「まだ、抱っこはだめだけど、ふと見ると、すぐそばでくつろいでいたり。そんな姿がうれしくて」と、雪美さん。海輝くんも「カワイイ」とつぶやく。

 保護猫を迎えての生活は、お互い、一からのスタートだ。猫は、小さな体で運命をまるごと受け入れて生きていく。すぐになつく子もいれば、時間がかかる子もいる。すずは、ゆっくり派だ。レオとも、ゆっくりといい関係を築いている。

日なたぼっこする2匹の猫
窓辺に並んでひなたぼっこのレオとすず。よく似てきた(雪美さん提供)

「もともと穏やかな子ですが、日に日にやさしい顔つきになっていくすず。娘みたいにいとしいです。息子も夫もメロメロ。私たちがすずを幸せにするというより、すずに幸せをもらっています』と、雪美さんは言う。

二度とつらい思いはさせない

 多頭飼育崩壊問題は、現場の猫を救うだけでおしまいの問題ではない。なぜ、元飼い主はたくさんの猫を抱えたまま孤独死をしたのか。なぜ、行政も周囲も、飼い主の死によって多頭飼育が発覚するまで何もできなかったのか。その予防策を見つけなければ、同じような現場は、あとからあとから続く。

 goensのメンバーは、それを見据えて、福祉行政や警察などと連携しながら、預かった猫たちを幸せに送り出すことに心を砕く。

 今回の現場は、治療中の猫たちも「家族のもとで治療を続けたほうがしあわせ」との思いから、思い切って譲渡会に出した。もちろん、直前まで最善の治療を尽くし、トライアル時にきちんと説明。譲渡が決まっても、ずっとサポートする。従来の譲渡にありがちな「可哀想だからもらいます」ではなく、「この子を家族に迎えたい!治療込みで」という家庭へと“しあわせのバトンタッチ”が続いたことは、今後の活動の大きな希望となった。

 シェルターには、あと2匹が残るだけとなり、新しい家族が迎えに来るのを待っている。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」は11年目。

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猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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