トライアル中の猫がまさかの脱走! 食いしん坊が幸いして4日目に保護、甘えん坊に

 トライアルで迎えた愛らしい茶トラは、夫婦にとって初めての猫だった。だが、翌朝起きると、猫はまさかの脱走ずみ。内開き網戸を引っかいて手前に開け、さらに固い押し上げ窓を頭でごり押しして出ていったのだ。猫にとってはまるで土地勘のない町。いったい、どうやって探そう……。

(末尾に写真特集があります)

外暮らしが長かった猫

 今年8月24日の午後。待ちに待った猫が、田畑秀樹さん・智子(さとこ)さん夫妻の家にやってきた。トライアルではあるが、「ナゲット」という名を用意し、大きなキャットタワーも購入済みだった。この利発そうな目と濃い赤茶の毛を持つ猫が、新たな家族に加わって始まる日々が、夫妻には楽しみでならなかった。

茶トラ猫
ビビると固まってしまう性格

 運んできた保護猫カフェ「鎌倉ねこの間」のオーナーは、トライアルの時にはいつもそうするように、ひと通り家の中を点検して回った。窓は、人間でもグイッと力のいる固い押上式で、網戸と2重になっている。不安材料はなかった。

 ナゲットは、今年2月、とある家の車庫に現れた、警戒心の強い3歳くらいのノラ猫だった。家の主である男性は、鳴き続ける猫をふびんに思って餌を与えた。すり寄るようになった猫がどんどんいとしくなったが、70歳という自分の年齢を考えると飼うわけにはいかない。どこかの家猫になって可愛がられるようにと、抱っこの練習を始めた。

 そんな男性の願いを、預かりボランティア希望の若い石橋さん夫妻が知る。オーナーと相談し、「鎌倉ねこの間」からの預かり猫として、2カ月半たっぷりと家猫修行を積ませ、田畑家に送り出したのだった。

 石橋さん夫妻は、オーナーに1冊の手作りアルバムを託していた。写真と共に、ナゲットの生い立ち、性格、注意点、医療メモなどを記した、愛情こもる「ナゲット・アルバム」である。

アルバム
石橋さんが田畑家に渡したアルバム

「基本的性格」は、ビビると固まり、なれるまで夜鳴きがしばらく続くが、なれると甘えん坊とある。「ここに注意!」には、①破壊魔、②食いしん坊、③おっちょこちょい、とあった。

ナゲットがいない!

 トライアル初日のナゲットは、ソファの下でビビって固まった。なれるまではそっとしておこうと、夜はケージハウスのある居間でフリーに。ご飯にも口をつけ、トイレもちゃんとしていたので、心配ごとはとくになかった。

 だが、翌朝早く起きた智子さんは、あわてて夫を起こしにいく。「ナゲットがいない!」

 網戸の向こうの押し上げ窓が、わずかに開いていた。「これを猫の力でこじ開けた?」「まさか」と驚いたが、それしか考えられない。施錠していなかったことは痛恨だった。

 秀樹さんは、月曜から「ナゲット受け入れ週間」として夏休みを取っていた。家周辺や車の下などを探し回った後、ねこの間のオーナーに連絡を入れた。オーナーも仰天しつつ、「すぐに市役所、警察、動物愛護協会に連絡すること。猫探偵にも当たってみてはどうか」などを伝えた。

 各方面に連絡を済ませ、猫探偵数社に電話をしたが、いずれも「すぐには対応できない」とのこと。とり急ぎパソコンでチラシを作製。捜索を続けながら近隣一帯にポストイン。午後は市役所へ行き、捕獲器を2台借りる。

「担当職員の方の話では、当市は殺処分ゼロで、不妊去勢も進み、地域ぐるみで外猫のお世話をするボランティアグループが各地にいるとのこと。各グループにもチラシを渡してくださり、心の支えになりました」と、秀樹さんは言う。

どこでどうしているのやら

 隣人から目撃情報が入った。敷地わきを、竹やぶや畑の方へと歩いて行くのを見たという。餌入り捕獲器を自宅ポーチと、裏側隣地の庭に設置した。

茂み
裏に広がる茂み。その向こうには広大な畑と雑木林

 真夏なので、木陰や水たまりがある茂みならば、体力は持つ。足元の危険な場所なので、夜間の捜索はあきらめた。

 失踪2日目の朝。ポーチに置いた捕獲器の餌がなくなっていた。市役所からさらに捕獲器を2台借りてくる。竹やぶ方面での目撃情報が2件入ったので、3台は竹やぶに置いた。

 失踪3日目の朝。竹やぶ設置の2台に、地元の外猫とタヌキが、それぞれ入っていた。逃がした後、捕獲器を洗浄し、自宅そばと竹やぶに設置しなおす。

 失踪3日目も懸命に捜索を続けるが手掛かりなし。岡山県の山奥で地域創生に関わっている長男から、野生動物の生態などを自動撮影する「トレイルカメラ」が届いた。金曜だったので、夜には長女の望さんが捜索の手伝いに泊まりがけできてくれた。

食いしん坊が幸いして、無事帰還

 4日目の早朝、捕獲器点検に出かけた秀樹さんは、自宅駐車場設置の捕獲器に茶トラの猫を発見した。ナゲットだ!とくにやつれたようすも、悪びれた様子もなく、声をかけると、元気そうに「にゃあん」と返事した。

捕獲器の中の猫
発見時のナゲット。元気そうに「にゃあん」(秀樹さん提供)

 家に戻ったナゲットは、夫妻から「会いたかったよ!」「お帰り~、元気そうじゃん」と愛情シャワーをたっぷり浴びる。動物病院では、衰弱なしとの診断で、ノミ・ダニ駆除の処置をしてもらう。おでこの傷は、窓を頭でごり押ししたときにできた傷のようだ。午後には、「おかげさまで無事戻りました」というお礼チラシをポストインして回った。

 もちろん、見つかった段階で、鎌倉ねこの間に報告。預かり主の石橋さん夫妻にも朗報が届く。保護主の男性には、その気持ちをおもんばかって失踪をまだ知らせずにいたという。

「見つかるまでの4日間は、石橋さんは夜も眠れなかったとお聞きし、私もずっと胃がキリキリ痛んでいました。大事に至らず、保護主さんを悲しませなくてほんとうによかった。猫の脱走防止の点検には、今まで以上に念には念を入れたい」と、オーナーは語る。

 ナゲット・アルバムに書かれていたことは、なんと的を射ていたことか。「ビビリ」ゆえに、得意の「破壊工作」で知らない場所から逃げ出し、茂みで「固まっていた」が、「甘えん坊」ゆえに遠くに行かず、「食いしん坊」ゆえに捕獲器に入ったナゲットくん。

 戻ってきた日を、家族となった再スタート地点として、3カ月。

「おなかをモフってほしくてひっくり返るし、朝は『早く起きろ、ご飯寄こせ』とブチューッと頰をくっつけてくるんですよ」と、秀樹さんが目を細めれば、智子さんも負けじと言う。「どんどん甘えん坊になっていく。いっぱい甘えて長生きしてほしいです」

なでてもらう猫
「ここが、ボクのおうち。みんな、ボクの魅力に夢中なんだ」(左から)智子さん、望さん、秀樹さん

 保護主の男性、預かりボランティアの石橋夫妻、譲渡を取り持った鎌倉ねこの間、田畑家へと、ナゲットくんの幸せを願う最後のバトンタッチは、しっかりと手渡された。関わったみんながきっとこう思っているに違いない。小さな猫でも、その頭脳と力をあなどってはいけない。そして、愛情は必ず通じる、と。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」連載は10年目。

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この特集について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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